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【ブラックバイト】退職後の給料日に入金がない→会社「給料は取りに来い!」~これはあり?

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
給料袋(写真:アフロ)

ブラックバイトシリーズ、前回は自爆営業を取り上げました。

今回は、ブラックバイトでよくある、最後の給料を取りに来させる問題です!

けっこうよくあるようで、ちょいちょい相談を受けます。

ブラックバイトの数あるセコ技(「セコい技」の略)の1つです。

ブラックバイトの7系統

前回もお示ししたブラックバイト7系統。

  1. 無賃労働系
  2. ノルマ系
  3. 罰金・損害賠償系
  4. 退職妨害系
  5. シフト系
  6. ハラスメント系
  7. 解雇・雇止め系

このうちの1つめの類型の中に位置づけられます。

最後の給料を払わない

アルバイトを辞めた後、最後の給料を支払わないという現象は少なくありません。

この現象は、辞める間際に何らかの労使トラブルが発生した場合に多く見られます。

実は、アルバイト以外の労働者からも同様の相談は少なくありません。

法的に見れば、最後の賃金であろうとなんであろうと、働いたことに対する対価としての賃金を支払わないのですから、単なる使用者側の債務不履行となり、民事上の責任を免れません。

さらに、これに加えて、最低賃金法違反、労働基準法24条違反などの刑事処分の対象となります。

ただ、使用者側も単に支払わないだけというやり方をするほど馬鹿ではありません。

これに一工夫加えて、「最後の給料を手渡しとするから取りに来い」というようにするのです。

この場合、法的には、一応、使用者側には支払う意思があるため、単なる不払いのように直ちに違法とは言いにくくなるのがポイントです。

いつもの給料は口座振込だった場合

このような使用者側のやり方については、2つの場合に分けて考える必要があります。

1つは通常に勤務していたときは口座振込によって給与が支払われていた場合です。

この場合は、賃金の支払方法につき口座振り込みによる合意が形成されていたことになります。

そうであれば、最後の給料だけ直接手渡しで支払うという特段の合意をしない限り、使用者が「給料を取りに来い」というのは、何の契約上の根拠に基づかない要求ということになります。

したがって、この場合はいつもの口座に振り込むように(できれば書面で)要求し、それでも振り込まない場合は労働基準監督署などに申告すればいいでしょう。

私も、かつてある事案で、同様の言い訳を会社からされ、相手に弁護士がついてもその言い分を崩さなかったので、「このままでは差し押さえしますよ」と何度も警告をしたことがあります。ところが、それでも振り込んでこなかったので、仕方なく、あくまでも仕方なく、会社の取引先の債権を差し押さえたことがあります。

実は、賃金債権は証拠がしっかりあれば、いきなり差し押さえができるのですが、意外と知られてないのか、差し押さえられるまでは余裕綽々だった会社も、その代理人も、すぐに泣きを入れてきました。

このように、会社の理に適わない嫌がらせは何のメリットもありません。

普段から現金手渡しの場合

難しいのは、普段から手渡しで賃金を支払っているような場合です。

少なくなったとはいえ、まだ現金手渡しの会社はあります。

この場合は、賃金の支払方法について、現金で直接手渡すという合意又は労使慣行が成立していることになります。

そのため「取りに来い」というのは、使用者に賃金支払の意思はあることになりますので、労働者が最後の賃金を取りに行かないことを理由として支払われないとしても、使用者に責任がないことになってしまいます。

ですので、基本は普段と同様に取りに行くことが必要になります。

では、もし労働者から、最後の賃金だけは口座振込にしてほしいという要求をした場合はどうなるでしょうか。

それでも使用者が「取りに来い」と突っ張った場合、形式的に考えれば、支払方法の合意として「職場での手渡し」が確立しているため、労働者の要求を拒んでも問題ないように思えます。

しかし、在職中の賃金支払い場所は「職場」であったとしても、退職後の賃金支払場所についてまで、絶対的に「職場」だと合意していたと言えるかは疑問です。

たとえば、夏休みや冬休みにリゾート地でアルバイトしていたときの給料を遠隔地まで取りに来ないと受け取れないというのは理不尽ですし、セクハラなどで会社に行きたくない事情がある場合でも会社に取りに行かなければ賃金を受領できないというのもおかしな話です。

このように考えると、退職後の賃金支払場所については、特段の合意がない限りは、合理的な方法によって労働者に賃金が支払われるべきだと考えられます(その職場に賃金を取りにいけない労働者の事情と、労働者の指定の口座に送金する使用者の手間とを比較して、口座送金することが困難であるような事情が認められない場合は、労働者の指定する口座へ送金する支払方が合理的な方法ということになるでしょう)。

そもそも、労働基準法24条は、労働者の生活の糧となる賃金について、全額を直接支払うことを定めた条文です。

この趣旨は確実に賃金が労働者の手に渡ることを求めているものです。

この法律の趣旨からしても、最後の賃金を取りに来させることに固執して、結果として不払いとなる使用者の対応を野放しにすることは許されないというべきでしょう。

泣き寝入りは「ただ働き」

最後の賃金は取りに来いという会社の要求に対し、もし泣き寝入りしてしまうと、最後の賃金期間の労働は「ただ働き」となります。

その分、会社には不当な儲けが生まれます。

こうした場合には、まずは労働基準監督署に相談してみましょう。

それでもダメであれば、労働組合や弁護士に相談することをお勧めします。

日本労働弁護団 ホットライン(電話相談) 全国の電話番号

ブラック企業被害対策弁護団 全国の相談窓口

働いた分の給料をもらうのはごく当然の要求です。

泣き寝入りせず、しっかり払ってもらいましょう!(^o^)

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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