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【ブラックバイト】制服やユニフォームに着替える時間に時給は発生する?

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
ある牛丼チェーン店での「入店順序」。打刻が最後となっている。

大変好評をいただいている(と思っている)ブラックバイトシリーズです。

さすがの厚労省も、ブラックバイトは問題と捉えているようで、学生のバイトの多い業種に配慮要請をしています。この動きは歓迎すべきですね。

「ブラックバイト」防止、学習塾などに配慮要請 厚労省

さて、唐突ですが、まずはこの動画をご覧下さい。

これは「NO MORE賃金泥棒」というキャンペーンの動画です。

あらゆる賃金不払いを一掃しようと立ち上がった企画です。私も呼びかけ人の一人となっています。

この「賃金泥棒」から連想して分かるとおり、今回はブラックバイト7系統のうち無賃労働系でよくある現象を取り上げます。

つまり、制服やユニホームに着替える時間、こうした時間に時給が発生するのかどうか?それが問題です。

もし発生するのに払っていなければ、それは賃金泥棒です!

アルバイト現場の実情

手始めに、次の画像を見てみましょう。

提供 首都圏青年ユニオン 神部紅委員長
提供 首都圏青年ユニオン 神部紅委員長

これは、あるファーストフード店のマニュアルです。本物です。

15分単位で計算などツッコミどころはありますが、それは今回は触れないでおくとして、ここでは「打刻を確実に!!」というところに注目です。

ここには、「着替えてから打刻」と書いてあります。

さらに、そのすぐ下に「出勤打刻はユニフォームに着替えてから打刻しましょう!!」と強調してあります。

さて、ユニフォームに着替えてから打刻、これは正しいのでしょうか?

仕事の準備時間に時給は発生するのか?

制服やユニフォームに着替える時間は、仕事のための準備の時間にあたります。

この時間が「労働時間」といえるのかは、実は古くから争われていました。

リーディングケースは三菱重工長崎造船所事件(最高裁平成12年3月9日判決)です。

この事件では、作業服の着替え時間や保護具の装着の時間を始業時間より前にするように会社の指示があり、その時間が労働時間と言えるかどうかが争われた事案です。

結果は、労働者の勝ちでした。

裁判所は、次のように言いました。

労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当すると解される。

これは、ざっくり言うと、着替え時間などの準備行為のための時間は、使用者が準備行為を労働者に義務づけていてるような場合、それは労働時間だよ、と言っています。

ちょっと難しく言うと、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていると言えれば労働時間となるのです。

この判決を含めて、準備行為が労働時間として認められた例はけっこうあります。

まず、この判決の作業服・保護具の始業時刻前の装着及び就業時刻後の脱離です。

他にも、制服の着用、始業前の点呼(東急電鉄事件・東京地判平成14・2・28労判824号5頁)、始業前の金庫開扉作業(京都銀行事件・大阪高判平成13・6・28労判811号5頁)などがあります。

現状はどうなっているでしょう?

こうした最高裁判例があるにもかかわらず、現状はどうでしょうか?

先のファーストフード店のマニュアルは、最高裁に真っ向勝負を挑んでいますね。

労働時間であるのに、賃金を払わないことを堂々と宣言していることとなります。

他にも・・・

提供 首都圏青年ユニオン 神部紅委員長
提供 首都圏青年ユニオン 神部紅委員長

これも、最高裁をガン無視していますね。

「作業のできる体制を整えた後で」打刻し、「カードを押した後で着替え」るように指示し、さらには「必ず守ってください。」とでかでかと書いてあります。

むしろ、先ほどの最高裁判決の理屈を必ず守ってほしいものです。

また、わざわざアルバイトに対する研修で、次のように教えている会社もあるようです。

提供 首都圏青年ユニオン 神部紅委員長
提供 首都圏青年ユニオン 神部紅委員長

事業所に来たらやることの順序をアルファベットで答えさせるようなのですが、最後にタイムカードの打刻というところがセコいですね。

この例も、使用者が労働者に業務の準備行為を命じているのですから、労働時間にあたることは、先の最高裁の判例からも明らかです。

ノーモア賃金泥棒!

こうした当たり前のことが、当たり前に行われていないことを正そうと、プロジェクト・ノーモア賃金泥棒が始動しています。

アンケート調査もやっているようです。

6割の大学生がトラブルを経験したことがあるというのは異常事態といっていいでしょう。

法を無視し、これを正当であるかのように装う、そして、学生を酷使したり、賃金をちょろまかすブラックバイトは許されません。

皆さんも、おかしいと思ったら声を上げてください。声を上げないまでも現状を告発するだけでもいいのです。

是非、よろしくお願いします。

なお、相談先としては次のところがありますので、おかしいと思ったら相談してみてください。

労働基準監督署

日本労働弁護団 ホットライン(電話相談) 全国の電話番号

ブラック企業被害対策弁護団 全国の相談窓口

首都圏学生ユニオン

ブラックバイトユニオン

動画その2(最後の方が違う)

これまでのブラックバイトシリーズはこちら

ブラックバイトにご用心!!~具体例に見るその手口

従業員は仕事でミスをしたら会社に損害賠償をしなければならないのか?

【ブラックバイト】自爆営業にご用心~従業員は求められたら自社の商品を買わなければならないのか?

【ブラックバイト】退職後の給料日に入金がない→会社「給料は取りに来い!」~これはあり?

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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