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残業時間上限規制<100時間>譲歩すべきは連合?経団連?

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
経団連・榊原会長(写真:ロイター/アフロ)

引き続き長時間労働規制の問題です。

報道では「経団連会長 「連合と合意目指す」残業上限規則で」とあり、今週中に会談もあるとされています。

また、報道のタイトルでは、経団連は連合と合意を目指しているようです。

しかし合意に至るには、どちらかが譲らなければなりません。

さて、どちらが譲歩すべきでしょうか?

誰が今まで長時間労働をさせてきたのか

先日、配信した「残業時間の上限規制~問われる政府の<本気度>」では、主に「政府の本気度はどうなのか?」を書きました。

しかし、この問題で一番責任があるのは誰でしょうか?

それは、残業時間について「繁忙期100時間」に固執する経団連にあると断言したいと思います。

そもそも、経団連会長・副会長企業において、今現在、労働者をどれだけ残業させられるようにしているのでしょうか?

それは以下のとおりです。

しんぶん赤旗2017年2月4日(土)記事より
しんぶん赤旗2017年2月4日(土)記事より

なお、

経団連の榊原定征会長が相談役最高顧問を務める東レは、月100時間、年間900時間の協定を締結しています。

出典:しんぶん赤旗「 過労死ライン超の残業協定 経団連会長・副会長企業の94% 最高は月150時間、年1200時間」より

とのことです・・・。

いずれにせよ、これを見て分かる通り、経団連会長・副会長企業の多くが「1か月100時間」としています。

NTT東日本(東日本電信電話)に至っては150時間(!)です。

結局、「繁忙期100時間」という規制は、ほとんど現状と変わらないで済むことがわかります(NTT東日本を除く)。

なお、念のため言いますと、過労死基準は脳・心臓疾患などで1か月100時間、2~6か月で平均80時間とされています。

現在これだけの時間、労働者を「合法的に」働かせることができる経団連が、「働き方改革」での長時間労働規制において、「繁忙期は月100時間」を死守しようと、その時間を割らせないように固執しているのです。

どっちが譲歩すべき?

さて、100時間は「あり得ない」とする連合、100時間なら「妥当な水準」とする経団連、どちらが譲歩すべきでしょうか?

労働者側の事情は、過労死の基準ですから、言い分としてはシンプルです。

他方、経営者側ですが、繁忙期は100時間くらい残業させられなければ困る、という事情があるのだろうと推察します。

そして、今はそのくらいの時間数を働かせているのですから、それがダメになれば、企業側が困ることも想像に難くありません。

だから、繁忙期は100時間くらい認めてくれ、というのでしょう。

しかし、それは過労死基準なのです。

つまり、場合によっては労働者が死んでしまうということなのです。

労働者が死亡することは、企業側の言う「困る」どころの話ではありません。

そもそも経営者側の「困る」は他に手段を講じれば何とかなることもあるでしょう。

むしろ、それを工夫するのが経営手腕の一つではないでしょうか。

他方、死んでしまった労働者は生き返ることはありません。

あなたの夫、妻、息子、娘、父、母、孫、兄弟姉妹、恋人、親しい誰かが働きすぎで亡くなった場合を想像してみてください。

そういう悲しいこと、痛ましい事件が起きないよう、現状を変えるのが「働き方改革」だったのではないでしょうか。

こうした点を見ても、本当は労使のどちらが「譲歩」すべきなのかは明らかだと思います。

最後に、父親を過労自殺でなくしたマーくん(当時小学校1年生)が書いた詩を紹介します。

この詩は、ぜひとも経団連・榊原会長に読んでもらいたいものです。

ぼくの夢

大きくなったら

ぼくは博士になりたい

そしてドラえもんに出てくるような

タイムマシンをつくる

ぼくはタイムマシーンにのって

お父さんの死んでしまう

まえの日に行く

そして『仕事に行ったらあかん』て

いうんや

出典:「全国過労死を考える家族の会」HPより

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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