Yahoo!ニュース

「Google Play Music」広告配信で無料版を公開:白熱する音楽配信サービス

佐藤仁学術研究員・著述家

Googleは2015年6月23日、『Google Play Music』の無料版をアメリカのみで公開することを発表した。Googleは2014年7月に『Songza』を買収し、『Google Play Music』に統合し、月10ドルで提供していた。無料版は広告が配信される。

ここ最近、日本だけでなくアメリカや世界でも音楽配信サービスの話題が過熱している。日本では『AWA』や『LINE Music』がリリースされ、それぞれ360円~500円など様々な有料でのサービスプランで提供している。『LINE Music』は2015年6月24日、公開12日でダウンロード数が300万件、累計楽曲再生数が1億6,000万回を突破したと発表したようにスタートダッシュは好調である。日本では他にもNTTドコモの『dミュージック』や『dヒッツ』、KDDIの『うたパス』、ソフトバンクモバイルの『UULA』など、各通信事業者が提供している音楽サービスも存在している。

さらに2015年6月9日には、Appleが定額制の音楽ストリーミングサービス『Apple Music』を発表した。2015年6月30日から世界100か国でサービスを開始する。アメリカでは月額9.99ドルでクラウド上にある数百万の曲にアクセスできる。『Apple Music』では音楽配信サービス以外に、毎日24時間、ロサンゼルス、ニューヨーク、ロンドンのスタジオから世界100カ国以上に向けてオンエアされるラジオ放送「Beats 1」やアーティストとユーザーをつなぐ「Connect」サービスが特徴である。

他にも世界的には2008年からサービスを開始しているイギリスの『Spotify』もあり、こちらは有料会員が2,000万人を突破し、無料サービスのアクティブユーザー数は7,500万人を超えている。

ここに来て、さらにGoogleが『Google Play Music』に広告を配信して無料版で提供してくることを発表した。広告配信を行うことによって無料で提供するのはGoogleの得意技だ。音楽配信サービスでも広告配信モデルを武器に無料で提供することによってGoogleが覇権を握るかもしれない。

■音楽配信サービスの最大のライバルはYouTube?

そのGoogleは傘下に『YouTube』を持っている。今年でサービス開始10年を迎えた『YouTube』は音楽配信サービスの大きなライバルだろう。2005年にサービスが開始された『YouTube』は現在では世界で月間10億人が訪れ、1分間に約300時間分の動画がアップロードされている。75 か国、61 の言語にローカライズされており全世界での1 日あたりの動画視聴時間は数億時間、視聴回数は数十億回である。そこには多くのミュージックビデオもアップされている。2015年5月に『YouTube』を運営しているGoogleが「日本で最も話題になったミュージックビデオTop20」を発表した。その中には何千万回、何億回と再生されたミュージックビデオが多数存在している。

『YouTube』は広告モデルに依拠しているため、無料で聴ける。中にはユーザーが不法でアップロードしてしまう音楽もあるだろうが、多くのミュージックビデオはレーベルやプロダクションが宣伝活動を兼ねてアップロードしている。さらに音楽以外にも多くの動画コンテンツもYouTubeにはアップロードされており、『YouTube』で音楽の動画を閲覧すると、類似動画が多数紹介されるので、『YouTube』にアップされている無数の動画の中から、ユーザーの興味に合わせた音楽や動画コンテンツを無料で楽しむことが可能である。

『YouTube』の視聴回数の半分を携帯端末からの視聴が占めているが、『YouTube』はスマートフォンだけでなくPCでも楽しむことができる。そして全世界で動画共有プラットフォームとしての地位を確立しているため、誰もが知っているサービスである。まず動画や音楽を検索する時に、『YouTube』で検索するという人も多い。

たしかに音楽配信サービスは大好きなアーティストがいたり、常に音楽を聴いている人にとっては良いだろうが、そうでない人にとっては毎月定額料金を支払ってまでも利用したいと思うサービスではないだろう。たまに音楽を聴きたい人にとっては無料で聴ける『YouTube』で十分だ。無料であることの対価として、音楽や動画が再生される前に流れる十数秒の広告を受け入れるというユーザーは多い。『Google Play Music』の広告配信も同じ原理だ。

各社が提供している音楽配信サービスはレーベルやプロダクションと提携しているので、曲数の多さを訴求ポイントとしているが、世界規模で拡大している『YouTube』にアップされている曲数は無数に存在する。そして日本だけでなく全世界で10年にわたって『YouTube』は子供から大人まで生活の中での欠かせない動画再生のプラットフォームにまでなったといっても過言でない。

月額定額制の音楽配信サービスが市場に広まるかどうかについては、『YouTube』で満足している層をどうやって取りこむかということにかかっていると思われる。まず動画や音楽を検索する時に『YouTube』で検索するという多くの人を、まずは音楽配信サービスで検索してみるという行動につなげられるかが、更なる拡大への鍵になるだろう。

▼Google Play Music: Free Music For Everything You Do

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

佐藤仁の最近の記事