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世界で拡大するメッセンジャーアプリと縮小していくショートメッセージ(SMS):電話番号は要らない?

佐藤仁学術研究員・著述家

日本ではメッセンジャーアプリといえばLINEを利用している人が圧倒的に多いが、世界中を見渡すとWhatsAppやFacebookのMessenger、WeChat、Kakao、Viberなどたくさんのメッセンジャーアプリが存在している。

そしてスマートフォンの世界的な普及に伴って、メッセンジャーアプリの利用者数は世界規模で増加している。Facebook傘下で世界最大のメッセンジャーアプリであるWhatsAppは月間アクティブユーザー数が全世界で8億人、FacebookのMessengerは7億人、LINEが2億5,000万人いる。1人で複数のメッセンジャーアプリを相手に応じて使い分けている人もたくさん存在している。

また海外では今でもメッセンジャーアプリと併用してショートメッセージ(SMS)の利用が一般的である。日本では15年以上前から、NTTドコモなどの通信事業者が提供しているメールサービスの方が一般的であったことや、通信事業者間でのSMS送受信が長いことできなかったことから、SMS利用は一般的でなかった。

ジュニパーリサーチの調査によると、2014年のメッセージ市場の市場規模は1,130億5,000万ドルだったが、2019年には1,120億9,000万ドルに減少すると言われている。この市場規模の数字のほとんどがショートメッセージ(SMS)の収入である。メッセージの主流は携帯電話でのショートメッセージ(SMS)である。SMSはどのような携帯電話でも搭載されている機能なので、貧富や老若男女問わずに誰もが頻繁にSMSを送受信している。

メッセンジャーアプリの収入はSMSと比べると1%以下もなく、メッセージ市場の構造はこれからも変わらない。

■氾濫するプリペイドSIM

一方で、今後もメッセンジャーアプリの利用は増加すると予測されており、2014年には1年で31兆通だったメッセージは2019年までに100兆通まで拡大すると想定されている。

メッセンジャーアプリは基本的にアプリ同士では無料で音声通話やテキストや写真、動画などの送受信が利用できる。SMSは1通につきいくらという通信事業者が設定した値段で有料である。

無料だからSMSよりもメッセンジャーアプリの方が人気あるのは1つの要因である。しかし、SMSよりもメッセンジャーアプリの方が使い勝手が良いのだ。

新興国を中心とした海外の多くの国では日本のようなポストペイド方式ではなく、プリペイド方式でSIMカードを購入するのが主流である。東南アジアや中南米では90%以上がプリペイド方式である国がほとんどである。北米や欧州でも多くの人がプリペイドを利用している。

プリペイドでは使いたい時にSIMカードを購入し、残金が無くなったら必要に応じてチャージをしていく。そのため、1人で複数枚のSIMカードを持っている人が多いので、携帯電話の人口普及率は100%を超えている国がほとんどである。1人で1つの会社のSIMカードを複数持っていることも珍しくない。人々は携帯電話会社に対して愛着や固執は全くない。長期利用者割引のようなものが少ないため、常に新しいキャンペーンを行っていると「キャンペーン対象のSIMカード」を購入して通信費用を少しでも安く済ませる。そしてキャンペーン期間が終了してしまったら、そのSIMカードは使われなくなることも多い。携帯電話会社も年中あらゆるキャンペーンを行って顧客獲得に躍起になっている。町の至る場所でSIMカードを販売している。

▼SIMはキオスクなどで購入が可能で、全キャリアのSIMを販売している。

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■電話番号は要らない:コミュニケーションの主流になるメッセンジャーアプリ

SIMカードは1枚につき1つの電話番号である。プリペイドのSIMカードを頻繁に買い替えている人が多いということは、その都度電話番号が変わっているのである。電話番号が変わると相手にSMSを送付しても、相手はその番号をもう利用していないということになる。1人で複数枚SIMを利用している場合、そのSIMの電話番号にメッセージを送付しても携帯電話に挿入してない、ということも多くある。

そして新しいSIMカードにした時に仲が良い友人や家族にはすぐに通知するだろうが、頻繁にSIMカードを買い替えていくうちに、通知するのも面倒になってくることがある。もはや電話番号に基づいたメッセージのやり取りが面倒になってしまう。そうなると、例えば以前に電話をかけた番号、SMSを送信した電話番号ではもう連絡が取れなくなってしまい、人間関係に問題が生じたり、連絡が取れずにタイミングを失して仕事が来なかったりすることもよくある。

そこでSIMカード(電話番号)を変えても自分であることが認識されるメッセンジャーアプリの方が使い勝手が良くなる。SIMカードが変わって電話番号が変わったとしても、相手に新しい電話番号を通知して自分であることを認識してもらう必要はないから利便性が高い。このようにして電話番号だけでのSMSのやり取りは遠くなってしまう。

つまり携帯電話会社がキャンペーンをやればやるほど(SIMが売れれば売れるほど)、電話番号は「おまけ」になってしまい、SMSの利用は遠くなっていくのではないだろうか。最近では先進国でも新興国でも、データ通信に特化したプランのSIMカードも見かける。

■メッセンジャーアプリは儲からない

メッセンジャーアプリはそれ自身では全く儲からない。そもそもアプリ間での通話、テキストが無料であるのが基本であるからそこからの儲けは期待できない。メッセンジャーアプリ利用を目的として集めた多くの人に対して様々なコンテンツやサービスを提供して収益を上げていく必要がある。

LINEの2014年通期売上額は863億円(そのうち基幹事業であるLINE事業が774億円)である。全世界で2億5,000万人の利用者がいても、863億円しか売上がない。そのほとんどがゲームとスタンプ販売である。事業構造が異なるので、単純に比較することはできないが、通信事業者NTTドコモの契約数は日本国内のみで約6,000万だが、2014年度の売上高は4兆3,833億円以上である。

またメッセンジャーアプリは世界中に多数存在しているため、このアプリでないとダメということがない。他のアプリを使えばいいだけなのだ。LINEだけでなく世界中のメッセンジャーアプリは、これからも常に新しいコンテンツやサービスを提供し、ユーザーを囲い込んでいく必要があり、非常に競争が激しく、先が読みにくいビジネスである。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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