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中国Xiaomi(小米):スマホメーカーよりも消費者金融:顧客との関係構築を目指せるか?

佐藤仁学術研究員・著述家

中国最大のスマートフォンメーカーXiaomi(小米)が2014年に販売したスマートフォンは6,110万台である。そして2015年も上期(1月~6月)ですでに3,470万台を販売している。Xiaomi(小米)が半年で出荷する台数が日本での全メーカーでの1年間の出荷台数と同じくらいである。

■飽和する中国スマートフォン市場から新興国市場への進出

Xiaomi(小米)は中国ではAppleに次ぐ人気のブランドである。よくXiaomi(小米)を「中国のApple」と称されることがあるが、中国では圧倒的にAppleの方が人気があり、ブランド力もある。「本当はAppleのiPhoneが欲しいけど、高いから買えない」という多くの若者らがXiaomi(小米)のスマートフォンを購入することが多い。中国でもiPhoneの方がXiaomi(小米)よりもクールなのだ。

それでもXiaomi(小米)もここ数年の間に、中国市場で急速に普及し、現在では中国市場ではサムスンよりも人気が高い。2015年第1四半期の中国におけるスマートフォン出荷はAppleが14.7%で1位、僅差でXiaomi(小米)が2位で13.7%である。Huaweiが11.4%、サムスンが9.7%と続いている。

2014年の1年間に中国で出荷されたスマートフォンは4億2,070万台と全世界の32%を占めている。そしてXiaomi(小米)の出荷の90%以上が中国市場であり、2014年の中国スマートフォン市場でのシェアは12.5%で1位だった。しかし、中国における携帯電話の出荷のうち95%以上がスマートフォンであり、スマートフォン市場もだんだん飽和しつつあり、競争も非常に激しくなってきている。HuaweiやLenovoといった中国の老舗メーカー以外にもOPPOやCoolPadなどが後を追ってきている。また中国市場ではiPhoneの人気が高く、Xiaomi(小米)のスマートフォンを現在利用しているユーザーも「買い替えるなら、お金さえあればiPhoneにしたい」という人が多い。

そのためXiaomi(小米)はタイやマレーシアといった東南アジア市場やインドへ進出し、販売しているものの、現地ではまだそれほどの知名度もなく地場メーカーやグローバルメーカー、ライバルの中国メーカーとの競争も激しく、中国市場ほどの売れ行きはない。2015年6月にはアジア以外の初の市場としてブラジルでもスマートフォン販売を開始した。

■新たな収益源として期待される消費者金融:顧客との関係構築を目指して

スマートフォンはコモディティ化されている。Xiaomi(小米)は現在、中国では1位であるものの、多くのメーカーが後から追ってきている。そのXiaomi(小米)は2015年6月に、オンラインでのローン事業を開始するために5,000万ドル出資して、子会社を設立したと報じられた。オンラインでのローン事業とは「お金を貸して利息を付けて返してもらう」、いわゆる「個人向け消費者金融」である。Xiaomiが提供しているモバイル決済プラットフォームの普及を目指している。アプリを立ち上げて、簡単にお金が借りられる仕組みで、ローンの上限は30,000人民元(約60万円)とかなり高額である。2015年末までには計20億人民元(約4,000億円)のローン金額を目指しており、2017年末までには750億人民元(約1兆5,000億円)にまで達成したいと見込んでいる。

Xiaomi(小米)は中国国内でのスマートフォン販売、新興国のスマートフォン市場への進出を図ろうとしているが、地場メーカーや他中国メーカーとの競争は非常に厳しい。コモディティ化されたスマートフォンにおいては、メーカーとしての製品のイノベーションにも限界がある。

そこで目を付けたのがオンラインでのローン事業なのだろう。「オンラインでお金を貸して、それに利息を付けて返してもらう」ビジネスはスマートフォンを製造して販売するよりも、利益率も遥かに良い。

そしてローン事業であれば、顧客との長期的かつ継続的な関係構築も可能である。コモディティ化してしまった端末メーカーでは、顧客との長期的かつ継続的な関係を構築するのは難しい。かつて携帯電話で世界を席巻していたフィンランドのノキアや、スマートフォン創世記には人気があった台湾のHTCなども顧客との継続的な関係が構築できずに凋落していった。つまり携帯電話やスマートフォンはノキアやHTCである必要がない。ユーザーは移り気で、1つのメーカー、ブランドにこだわりや愛着はほとんどない。他に欲しいメーカーの端末が出てきたら、簡単にそちらへ乗り換えてしまうことができるし、実際に市場ではそのようになっている。

Xiaomi(小米)もそのことには気が付いており、いつまでも自らが中国や世界のスマートフォン市場で上位にいられないこともわかっているのだろう。そこで顧客との長期的かつ継続的な関係構築ができ、かつ端末製造よりも遥かに利益率が高いローン事業へ進出していくのだろう。今後のコモディティ化された商品を開発しているメーカーのあり方を考えさせられる。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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