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約3年ぶりに登場した「iPod touch」とAppleにおける位置付け

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

Appleは2015年7月、約3年ぶりに携帯音楽プレーヤー「iPod touch」の販売を開始する。2001年に販売開始されたiPodは、2012年9月に第5世代のiPod touchが登場し、今回で第6世代目となる。

■Appleにおける「iPod touch」の位置付け

Appleの製品別の売上と出荷台数の中でiPodが占める割合は非常に小さい。Appleの売上のうち約70%をiPhoneが占めている。一方でiPodは1%未満である。そして2014年まではiPodの売上と出荷台数を公表していたAppleだが、ついに2015年第1四半期からはiPodのみでの数字は公表しなくなり「その他の製品」の中に入れられてしまい、Apple TVやアクセサリーなどと一緒に売上高のみのカウントとなった。

Apple全体の中でのiPodの出荷も売上も非常に少ないものの、2012年9月からiPodの新製品が登場していないにも関わらず2014年の1年間に全世界で1,400万台以上出荷されている。

▼2014年の四半期毎のApple製品別の出荷台数と売上高

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(Apple発表の決算資料を元に作成)

今回、iPod touchの新製品が約3年ぶりに登場するが、この製品の登場によってAppleの製品別の売上構成が大きく変化することはないだろう。Appleにおける売上も出荷も引き続きiPhoneが圧倒的だろう。

なぜなら携帯音楽プレーヤーであるiPodはiPhoneのように通信事業者が販売してくれない。iPhoneが日本や世界でこれだけ販売されているのは、AppleやiPhoneのブランド力やデザインが好きという人も多いが、そのほとんどは通信事業者が例えば「2年縛りの契約プラン」などと一緒にiPhoneの端末を販売してくれるから、ユーザーは低価格でiPhoneを入手できるからである。そのモデルで世界中でiPhoneを販売してきたが、iPodにはその販売モデルは通じない。

特にAppleはブランド力維持のためにiPhoneを世界中で同じ端末を同じ価格で販売しているので、新興国ではiPhoneは高すぎて購入できるのはほんの一部の富裕層のみである。iPhoneが無くても誰も困らない。世界中の多くの人にとってiPhoneであれAndroidであれ、スマートフォンなんて基本的には何だって同じなのだ。新興国の地場メーカーが開発したスマートフォンでも音楽は十分楽しめる。

このようにスマートフォンでも音楽が聴けるようにもなった現在、音楽を聴くならスマートフォンがあれば十分という人も多いだろう。Apple Musicもスマートフォンで楽しめる。

携帯音楽プレーヤーはスマートフォンのように数年おきに買い替えをしないし、iPhoneのように通信事業者による押し売りのような販売もされない。今でも10年くらい前のiPodを利用している人はたくさんおり、それでも音楽を聴くには十分という人が多い。携帯音楽プレーヤー「iPod touch」はこれからどうなるのだろうか。

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(Apple)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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