Yahoo!ニュース

Uber、インドでAirtelと提携:「車内無料Wi-Fi」をようやく提供:ホテル送迎車との差別化

佐藤仁学術研究員・著述家

配車アプリでお馴染みの「Uber」とインドの通信事業者Airtelが2015年8月20日に提携を発表した。

今回の両社の提携によって、インドでのUber利用時においてAirtelが提供している「Airtel money」(おさいふケータイのようなもの)での支払いが可能になった。「Airtel money」で支払いをすると、500ルピー(約1,000円)割引になる。AirtelとしてはUberを利用するインド人に割引をトリガーにして「Airtel money」を利用してもらうことが狙い。

もう1つが、ムンバイのUberでは、車内で無料Wi-Fiが提供されるようになる。無料Wi-FiはAirtelの4G(LTE)回線を利用する。

■ようやく提供されるようになったUberでの無料Wi-Fi

インドのUberでようやく無料Wi-Fiが車内で利用できるようになった。まだムンバイのUberだけでしか利用できないが、これから全土に展開していくようだ。

それではどうしてUberは車内での無料Wi-Fiを提供するようになったのだろうか。それはインド、ムンバイの交通渋滞が酷いからで、Uber利用者への利便性向上による差別化であろう。最近インドでは配車アプリはソフトバンクが出資しているOlaなど競争が激しい。

さらに、インドでは2014年12月にデリーでUberの運転手が25歳の女性をレイプして、営業停止処分になった。最先端なグローバル企業と思われていたUberでも、運転手がレイプを起こしたことはインドで衝撃的な事件だった。今でもまだインドでは大きな話題で、2015年8月にはインドUberのトップがBBCニュースに出演して遺憾の意を表明している。

Uberとしてはインドでのイメージ改善と新しいサービスの提供で差別化を図りたい。しかし、一番Uberが強調したいのは、ホテルの送迎車への対抗であろう。

■新興国の交通渋滞でも車内でのおもてなし「ホテル送迎車のサービスとしての無料Wi-Fi」を利用している顧客層を取り込みたいUber

インドだけでなく新興国では空港からホテルや、ホテルから目的地まで、ホテルの送迎車で移動することが多い。そして新興国のホテルの送迎車は交通渋滞への不満解消とサービスの観点から、送迎車の車内で利用できる無料Wi-Fiを提供している。

ホテルとしても交通渋滞だけは、自らの営業努力ではどうにもならないので、せめて交通渋滞の不満を解消してもらおうと車内での「おもてなし」に無料Wi-Fiを提供していることが多い。

送迎車に乗ると、IDとパスワードを教えてくれて、それをスマートフォンやラップトップに入力して、無料Wi-Fiに簡単にアクセスできる。そして長い交通渋滞中でもメールチェックやらインターネットにアクセスして仕事ができる。とても便利である。

(これはジャカルタのホテルの送迎車での無料Wi-Fi。IDとPWを入れるだけで利用できる)
(これはジャカルタのホテルの送迎車での無料Wi-Fi。IDとPWを入れるだけで利用できる)

ビジネスマンが多く利用する新興国のホテルの送迎車の多くが「交通渋滞の不満解消とサービスの観点」から無料Wi-Fiを提供している。ただし、ホテルの送迎車なので、費用は高い。多くのホテルの送迎車が無料Wi-Fiを提供するようになると差別化もなくなってしまう。

Uberは世界中で拡大しており、多くのビジネスマンが出張先でもUberを利用した方が安くて、効率的なことに気が付き始めた。

しかし「Uberには無料Wi-Fiがないのでは、ホテルの送迎車の方がいいかな」と思ってしまう。Uberとしては「無料Wi-Fiが完備されているホテルの送迎車を利用している顧客層」を取り込みたいのだろう。そしてようやくインドのムンバイでUberは無料Wi-Fiを提供するようになった。これからも新興国だけでなく世界中で配車アプリ、送迎車、リムジン、タクシー間での熾烈な競争は続くのだろう。

利用者にとっては安くて便利でになるのは良いことだ。そして「何よりも安心して安全に乗れる」ことである。インドのUberは「安心して乗れる」ことへのイメージ復活の真っ只中である。

ムンバイの交通渋滞。自動車が密接しており、目的地まですぐなのだが到着できないこともよくある。
ムンバイの交通渋滞。自動車が密接しており、目的地まですぐなのだが到着できないこともよくある。
学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

佐藤仁の最近の記事