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英国ブリティッシュテレコム、インドのコールセンター閉鎖へ:イギリス人顧客からのクレーム多数で

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

イギリスの通信事業者ブリティッシュ・テレコム(BT)は、2003年からカスタマーサポートを行うコールセンターをインドのデリーとバンガロールに設置していた。そこでインド人らが、イギリスに住んでいるBTの顧客のサポートを電話で行っていた。

■イギリス人顧客からの不満で、インドのコールセンター閉鎖へ

そのBTがインドのコール・センターを閉鎖し、イギリスへ戻す計画が明らかになった。2003年から12年間にわたって、インドのコールセンターがイギリス人の顧客対応をしていたが、イギリス人顧客からのクレームが多かった。イギリス人顧客は「イギリスでのイギリス人によるカスタマーサポート対応を望んでいる」とBTのカスターセンターのChief ExecutiveのJohn Petter氏は述べている。2016年末までには、顧客からの電話での問い合わせの80%はイギリスで対応する予定であり、すでにBTではイギリスに20以上のコールセンターを設置している。

一方でBTは、バック・オフィス業務はインドへのアウトソースを継続する計画である。バック・オフィス業務なので、イギリス人顧客と直接の接点はない。

■イギリスに戻ってくるコールセンター

イギリスの企業でコールセンターをインドのようなオフショアから、イギリス本国に戻すのはBTが初めてではない。顧客からのクレームが多いということで、カスタマーサポートのコールセンターをイギリスに戻している企業は多い。BTと同じくイギリス通信事業者のEEも2014年に戻し、北アイルランドにコールセンターを設置して250人のイギリス人を雇用している。

またサンタンデール銀行(本社はスペイン)のイギリス人向けの顧客対応もインドのバンガロールとプネにあったコールセンターをイギリスに戻し、グラスゴー、レスター、リバプールに設置し500人以上のイギリス人を雇用した。同行は2014年だけで165,000件のクレームがありイギリス国内での評判が悪く、同行のchief executiveのAna Botin氏は「顧客はコールセンターがオフショアでなく、イギリスにあることを望んでいるため、イギリスに戻した」とコメントしている。

■英語の問題ではない

バンガロールはかつて「インドのシリコンバレー」と呼ばれていた
バンガロールはかつて「インドのシリコンバレー」と呼ばれていた

かつてBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)と呼ばれて、コールセンターやバック・オフィス業務を、人件費の安いオフショアへアウトソースすることが流行していた。アメリカやイギリスの企業が、英語が通じることや人件費が安いということで、インドやフィリピンのアウトソース先の会社に顧客対応やプログラミング、管理部門業務を外部委託している。

プログラミングや管理部門のバック・オフィス業務などはオフショアでの外部委託でもよいのであろう。しかし顧客とのコンタクトと顧客への説明が必要とされるカスタマーセンターは、やはり自国民の方がいいのだろう。

インド人の英語はアクセントに訛りがあってわかりにくいという人もいるが、イギリス企業の委託を受けているコールセンターで働いているインド人はわかりやすい(聞き取りやすい)英語を話す。インドのコールセンターでわかりにくい英語を話していたら仕事にならないので、わかりやすい英語を話すインド人を雇用している。外国企業からの仕事を請負っているコールンセンターでわかりにくい英語を話すインド人がにいたら、人件費が安いオフショア先なのだろう。

■カスターサポートは自国で自国民にやってもらいたい

英語の問題よりも、やはりメンタリティの問題やイギリスの詳細なことがわからないからなのだろう。

カスタマーセンターでのクレーム受付の業務でも、インド人にホスピタリティは感じない。いわゆる「おもてなし」のような雰囲気はインドのコールセンターではほとんど感じない。顧客がクレームで怒りの電話をかけてきているのに、言葉では「Sorry」と言っても謝意は感じないことが多い。その点、フィリピン人のカスタマーセンターはホスピタリティを感じるし、説明も丁寧である。

またイギリスから遠く離れているので、当然ながらイギリスのことがわからない。イギリスに一度も行ったことがないインド人がインドでイギリス人顧客からのクレームを受けたり、サポートをすることには限界がある。例えば「ロンドンのどこにありますか?どうやって行けばいいの?」という顧客の問いにイギリス人なら誰でもわかるようなことも、ロンドンに行ったことがないインド人には理解できないことが多い。イギリス人からすると、地元企業の代表でもあるBT(日本のNTTのような会社)のカスタマーサポートに電話しているのに「イギリスのことがわからないインド人が遠いインドで対応しており、イギリス人なら誰でもわかるようなことがカスタマーサポートなのにわからない」のは、それだけでストレスでクレームになる。この問題はフィリピンでカスタマーセンターをやっているアメリカ企業も同じだろう。

現在でもインドとフィリピンにおいては、BPOは大きな産業で、雇用確保においても重要である。イギリス企業がインドのカスタマーサポートのコールセンターからの撤退が相次いでいることは、インドの産業構造が変化するかもしれない。

BTなど多くの英国企業のコールセンターがあるバンガロール。多くの人はイギリスに行ったことがない
BTなど多くの英国企業のコールセンターがあるバンガロール。多くの人はイギリスに行ったことがない
学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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