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Google、スマホの機能強化に向けてJibe Mobile買収:まだ諦めてないメッセンジャーアプリ

佐藤仁学術研究員・著述家

Googleは2015年9月30日、Androidスマートフォンでのメッセージ機能強化のために、Jibe Mobileを買収したことを発表した。Jibe Mobileは2006年に設立され、Rich Communications Services (RCS) と呼ばれるメッセンジャーサービスを提供していた。

RCSは、従来の「テキスト中心」のSMS(ショートメッセージ)から写真や動画など「リッチなコミュニケーションができる」メッセージサービスとして期待されていた。世界の通信事業者団体GSMAにおいても「SMSの次のメッセージ」として期待され、2012年から英国のVodafoneグループ、フランスのOrangeグループ、メキシコのAmerica Movilなど海外の通信事業者を中心に現在でも世界32カ国で提供されているようだが、利用している人には会ったことがない。

■Googleが強化したいメッセンジャーサービス

現在では世界規模でのスマートフォンの普及によって、日本ではLINEに代表されるメッセンジャーアプリが世界中で台頭して利用されるようになってきた。世界ではFacebook傘下のWhatsAppが月間アクティブユーザーが9億人、Messengerが7億人と圧倒的に利用者が多く、メッセージサービスはFacebookが牛耳っている。

Googleはソーシャルメディアやメッセージサービスは弱い。2011年6月にFacebookに対抗して「Google Plus」を開始したが、利用者はFacebookから移行しなかった。Google plus担当責任者のブラッド・ホロウィッツ氏へのインタビュー記事で「Google PlusはFacebookのライバルを断念した」とウォールストリートジャーナル(2015年7月28日)は報じていた。また「Google Voice」や「Google Hangouts」といったメッセージ系のサービスの提供も行ってきたが、WhatsAppやMessengerのように利用している人はほとんどいない。

世界中の情報を集めて、蓄積し、解析して広告や新サービスを提供して収益としていきたいGoogleとしては、メッセージサービスでのやりとりされる情報は宝の宝庫である。メッセージサービスを通じて、例えば「誰と、いつ、どのくらいの頻度で、どのような内容」のコミュニケーションをしているのかを把握し、それに適した広告やサービスを展開していくことが期待され、将来の収益につながる可能性が高い。

■Googleも欲しかったWhatsApp

FacebookはWhatsAppを190億ドルというFacebookにとっても同社の過去最高金額で2014年10月に買収を完了させた。Facebookが買収を発表する前には、GoogleもWhatsApp買収を検討しているという記事が多かった。メッセージ機能が不得手だったGoogleとしては、当時から世界で一番利用者が多かったメッセンジャーアプリであるWhatsAppは喉から手が出るほど欲しかっただろう。Facebookとしても190億ドルは破格の買収額のように見えるが、WhatsAppがGoogleに奪われてしまうのであれば190億ドルでも安い買い物ができただろう。歴史に「もし」は禁物だろうが「もしGoogleがWhatsApp買収に成功していたなら」現在のメッセンジャーアプリの業界地図はもっと違ったものになっていただろう。

もはやメッセンジャーアプリはどれでもほとんど機能は同じである。ユーザーエクスペリエンスもほとんど変わらない。つまり差別化が難しいサービスである。特にメッセンジャーアプリはゲームなどと異なり、「やりとりする相手」が必要で、独りで利用するサービスではない。

Androidスマートフォンは2014年の1年間で世界で10億台以上出荷されているが、Googleとしては端末だけが流通しても、そこでGoogleのサービスが利用されない限り収益にはつながらない。スマートフォンにデフォルトでプレインストールされているが、利用しないアプリやサービスはたくさんある。GoogleがJibe Mobileを買収してRCSがAndroidスマートフォンでデフォルトで利用できるようになったからといって、現在WhatsAppやMessenger、LINEなどを利用している人が、果たしてRCSを利用するのだろうか。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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