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ハンガリー、アパートの壁から70年以上の時を経て「ホロコースト関連の資料発見」:急がれるデジタル化

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

ハンガリーのブダペストのアパートの壁から第2次大戦中のホロコーストに関する当時の資料が2015年8月に、70年以上の時を経て、大量に発見された。これらのホロコースト関連の資料はとっくに破棄されていたと考えられていた。

■偶然発見された70年以上前のホロコーストの資料

1944年という日付が入った大量の資料は、当時ブダペストに住んでいた約20万人のユダヤ人をナチスの強制収容所へ移送することを目的で作成された資料である。アパートの所有者によると2015年8月に、アパートの壁の割れ目を修復していたら作業員が偶然に発見した。70年以上前の紙とインクで書かれた資料は黄色く変色していたが、その数は6,300枚もあり、重さにして61kgもあった。ハンガリーは第2次大戦後は共産主義国家だったから、ホロコースト問題はタブーだった。資料がアパートの壁にあったことも偶然発見されたことも奇跡的な出来事である。

資料は、住民の名前、ユダヤ人かどうか、キリスト教徒かユダヤ教徒などの調査票だった。そしてこの調査が行われた後に、約20万人のユダヤ人が「黄色のダビデの星」を着けさせられて2,000か所のユダヤ人収容のための建物、ゲットーに移送されたそうだ。

■当時のハンガリーのユダヤ人とホロコーストを知る貴重な資料

当時、ハンガリーにいたユダヤ人の大部分は中産階級であり、ハンガリーにおける全ての専門職と商業活動の中心にいた。1930年代において、ハンガリーの開業医の半分以上、弁護士の半分以上、貿易業者の3分の1、そしてジャーナリストの3分の1近くがユダヤ人だった。ユダヤ人は当時のハンガリーの経済活動において中心的な存在だった。

そのためハンガリー側はユダヤ人財産の強制収用の問題には慎重に取り組んでいた。ハンガリーには約72万人のユダヤ人が在住していたが、当時ハンガリーの経済活動に欠かせなかったユダヤ人を引き渡せというナチスの要求に、ハンガリー政府は長い間抵抗していたが、1944年になってようやくハンガリーでも殺戮機構が稼働してしまい、そこからは恐ろしいほど徹底的に最後まで猛威を振った。そして60万人以上のハンガリーのユダヤ人が主にアウシュビッツで殺害された。

■急がれるデジタル化

発見された資料はBudapest City Archives(ブダペスト市の公式文書保管所)に移されて、丁寧に復元されて保管されている。文書保管所のIstvan Kenyeres氏によると、まだ他にも23,000枚の同様の資料が存在している可能性があるとのこと。

発見された70年以上前の資料は丁寧に復元されたものの黄色く変色してしまっている。ブダペスト市では今後、デジタル化して、全世界に公開をしていくことを予定しているとのこと。デジタル化されるであろう今回の資料は1944年にハンガリーで起きたことを理解するうえで非常に貴重な資料となる。ホロコーストの歴史を風化させないためにも資料のデジタル化が急がれている。

今回アパートで発見された資料 (Photo) Attila KISBENEDEK
今回アパートで発見された資料 (Photo) Attila KISBENEDEK
死のリストとなった調査票  (Photo) Attila KISBENEDEK
死のリストとなった調査票 (Photo) Attila KISBENEDEK
大量に発見された資料の復元 (Photo) Attila KISBENEDEK
大量に発見された資料の復元 (Photo) Attila KISBENEDEK
資料を丁寧に復元している作業 (Photo) Attila KISBENEDEK
資料を丁寧に復元している作業 (Photo) Attila KISBENEDEK
資料の展示 (Photo)  Attila KISBENEDEK
資料の展示 (Photo) Attila KISBENEDEK
学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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