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ドローンが撮影したアウシュビッツ強制収容所:2015年にBBC制作

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

2015年は戦後70年だった。アウシュビッツ強制収容所が解放されてからも70年である。ナチスがポーランドに設置し、ユダヤ人やロマら110万人が殺害された絶滅収容所、アウシュビッツは1月27日に解放された。昨年(2015年)は解放70年という節目の年ということもあり、記念式典もアウシュビッツだけでなくモスクワやベルリンなどで開催された。

そのため1月になると欧米のメディアはこぞってアウシュビッツやホロコーストの特集番組を行う。その中でも一番注目を集めたのがBBCが作成したドローンによるアウシュビッツ強制収容所の撮影した動画である。

▲訪問して決して気持ち良いものではないし、日本からは不便な場所にあることからアウシュビッツを訪問する日本人は決して多くない。ドローンでアウシュビッツの概観や様子を見ることができる。強制収容所が痕跡をとどめるのはごく平凡な小さい町や村のすぐ近くだ。

■ドローンが捉えたアウシュビッツ

ドローンを活用して現在のアウシュビッツを空や地上から捉えて撮影されている。アウシュビッツは絶滅されることを目的として110万人以上の人々が狂気の大量虐殺計画に沿って機械的に殺害し処理された場所である。つまりホロコーストの犠牲者の5〜6人に1人がアウシュビッツで殺害されたのだ。

この世界史上、最大の絶滅収容所は今でも「恐怖の残骸」として残存しており、まさに怪物のようである。それがドローンによって撮影されYouTubeにアップされ、全世界に発信されている。アウシュビッツのガス室から生還した人は一人もいないが、アウシュビッツから生還した人は10万人以上もいた。しかし高齢化が進み、強制収容所の地獄の様子を語り継げる人々は年々少なくなってきている。情報発信力があるBBCがドローンという新たな技術を用いて撮影し、全世界にアウシュビッツの様子を発信している。もちろんドローンでの撮影だけで、その無機質な跡地からは当時の地獄の様子は伝わらないかもしれないが、それでも映像としてアウシュビッツを確認することができる。

■戦後71年目「人類への警告の碑」としてのアウシュビッツ

昨年は戦後70周年という節目の年だったが、2015年は欧州には中東からの多くの難民が大量に流入してきた。ドイツは過去のユダヤ人大量虐殺の反省を元に多くの難民を受け入れているものの、ヘイトスピーチが大きな問題になった。ヘイトスピーチはFacebookやTwitterなどであっという間に拡散されるようになった。そのことからアウシュビッツ解放71年に向けて、今年も多くのメディアがホロコーストの歴史に注目している。

ユダヤ人大量殺戮の背景にあるナチスの狂気に満ちた動機は完全に判明されていないし、今後も完全には明らかになることはないだろう。だからこそ「いつ、また怪物が復活するのではないか」とヘイトスピーチに神経質になっている。アウシュビッツは今でも「人類への警告の碑」である。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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