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「アラブの春」から5年、エジプトでもFacebookの「Free Basic」遮断:ネット中立性か?

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

2015年12月末に、Facebookが新興国で現地の通信事業者と提携して提供している無料でのインターネットアクセスサービス「Free Basics」がインドで一時停止されていることが明らかになったことは先日伝えた。その「Free Basic」はエジプトでも提供されていたが、2015年12月30日に停止された。

■エジプトでは現地通信事業者Etisalatと提携して「Free Basics」提供

「Free Basics」は2014年7月に「Internet.org」という名称でアフリカのザンビア開始され、現在ではアフリカやインド、アジア諸国で導入されている。2015年9月から「Free Basics by Facebook」と呼ばれている。「Free Basics」は現在世界19か国で提供されており、多くの国においてFacebookは1つの通信事業者と提携している。

「Free Basics」はFacebookが現地の通信事業者と提携して提供されており、インターネットへアクセスするデータ通信が無料でFacebookやGoogle検索などの他に天気予報や生活情報サイト、求人情報、女性向けサイトなど生活に密着したサイトにアクセスができる。FacebookやGoogle検索は無料でアクセスできるが、その先のリンク先のページや動画再生などはパケット費用(通信費)が発生するため、通信事業者にとってはその通信費が収入源になる仕組みである。

■原因は不明。ネット中立性か?

エジプトでは現地の通信事業者Etisalatが2015年10月から「Free Basics」を提供している。現在エジプトでFacebookと提携して「Free Basics」を提供している通信事業者はEtisalatのみである。サービス提供開始から2カ月後の2015年12月30日、当局からの指示で「Free Basics」は停止されているとのこと。現在、エジプトではEtisalatの提供する「Free Basics」で300万人がFacebookなどいくつかのサイトに無料でアクセスしていた。

インドでは当局が「ネット中立性」を理由にインドの現地通信事業者Relianaceが提供していた「Free Basic」のサービスを一時中止している。インドでは当局がRelianceのみがインドで提供している「Free Basics」がインターネットへの無料アクセスを提供することによって、「ネット中立性」の観点から問題がないかどうかを調査している。つまりインドにおいて通信事業者RelianceのみがFacebookなどいくつかのサイトへ無料でアクセスできるサービス「Free Basics」を提供していることが、インターネットのサービスプロバイダーや政府がインターネット上の全てのデータを平等に扱うべきという「ネット中立性」の原則に触れていないかどうかを調査する必要があることから、サービスの一時停止をしている。

しかし、エジプトの場合は、原因が不明である。明らかに「ネット中立性」が理由とは明確にしていない。

今回エジプトでは「Free Basic」のサービスは提供停止されているが、無料ではなくWi-Fiや他通信事業者のネットワークからFacebookへのアクセスは可能である。

■「アラブの春」から5年

エジプトでは政府への批判をFacebook上で行って、2016年1月に3人逮捕されるという事件が起きていることから、今回のエジプトでの「Free Basic」サービス停止も「ネット中立性」以外の理由があるのではないかとも報じられている。

2011年1月にチュニジアで長期独裁政権を崩壊させた「ジャスミン革命」の影響で、エジプトではムバラク政権への反政府デモが2011年1月25日に勃発し、30年におよぶムバラク大統領の政権が崩壊した。いわゆる「アラブの春」であり、それから5年が経過した。

当時エジプトでは、インターネットおよび携帯電話からのネット接続がほぼ全面的に遮断された。「アラブの春」ではデモ参加者がTwitterやFacebookなどのソーシャルメディアで連絡を取り合ったり、情報発信をしたことから、エジプトやアラブ諸国では当局はこれらサービスへのアクセスを遮断していた。

「アラブの春」はソーシャルメディアが引き金になったとよく言われているが、その真相と関与度などについては完全に解明はされていない。それでも5年前のエジプトやアラブ諸国で携帯電話やインターネットが人々の情報発信、情報収集に貢献したことは間違いない。

そして「アラブの春」から5年が経った現在、エジプトだけでなく世界中でスマートフォンやインターネットが普及している。それでもまだインターネットにアクセスできない人が多く存在しており、Facebookでは「Free Basic」を現地通信事業者と提携して、無料でFacebookなどの多くのサイトにアクセスできるサービスを提供している。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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