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ジャカルタ爆破テロではFacebook「Safety Check」提供せず:7000万利用者を無視か

佐藤仁学術研究員・著述家
爆破テロのあったジャカルタ中心部

2016年1月14日、ジャカルタ中心部タムリン通りのスカイラインビルの駐車場やサリナデパートの警察官詰め所などで7回爆破があった。そして武装集団と警察官で銃撃戦となり、武装集団5人とインドネシア人、カナダ人の合計7人が死亡、外国人(オーストリア、オランダ、ドイツ、アルジェリア)4人を含む24人が重軽傷を負った。

スカイラインビルにはオフィス以外にも24時間営業のバーガーキングやスターバックスなどの外資チェーン店やレストランの他に映画館なども隣接しており、いつも多くの人で賑わっている場所だ。IS(過激派組織イスラム国)がネット上で犯行声明を出している。

■起動されなかったFacebookの安否確認サービス「Safety Check」

2015年11月にパリで発生した同時テロを受けて、Facebookはすぐに友人や知人に対して安否確認の情報発信をしたり、友人らの安否確認ができる「Safety Check」を直ぐに公開した。この機能は、友人や知人などFacebookでつながっている人に「○○さんのパリの同時テロ事件についてでの無事が報告されました」というお知らせをFacebookを通じて情報発信することができた。

しかし、今回のジャカルタでの爆破テロではFacebookの「Safety Check」は提供されなかった。提供しなかった理由は明らかにされていない。パリの時よりも規模が小さかったからだろうか、銃撃戦ですぐに容疑者らが射殺、自爆したからだろうか。その理由は不明のままだ。

Facebookでは2015年11月にナイジェリアのヨラの市場で発生した爆発時には「Safety Check」を提供した。FacebookのザッカーバーグCEOは、自身のFacebookページで、現在Facebookでどのような基準で安否確認サービス(Safety Check)を発動するかを検討していることを明らかにした。そして「残念ながら、このような悲劇的な事件が世界中で頻発しているので、今後は全ての安否確認サービスを提供開始したことを投稿することはない」と投稿した。

Facebookの「Safety Check」提供の基準が明確にされていないことから、どうしてジャカルタの爆破テロでは「Safety Check」が提供されなかったのか不明である。

■7,000万人以上がFacebookを利用しているインドネシアなのに

インドネシアはアメリカ、インドに次いで世界で3番目にFacebook利用者が多く、2014年に7,000万人のインドネシア人が利用している。スマートフォンの急速な普及に伴って、現在ではもっと多くのインドネシア人が利用しているだろう。

インドネシア人はFacebookやTwitterが大好きである。そしてジャカルタのような大都市では、ほぼ全員がスマートフォンを所有してFacebookやTwitterにアクセスして情報収集や情報発信をしている。Facebookがインドネシア人の「ポータルサイト」にもなっており、スマートフォンを手にすると、まずFacebookアプリを起動して、用はなくともFacebookを見ている。またインドネシアではFacebookのメッセンジャーも大人気で、かつてLINEを利用していた人もメッセンジャーに移行してきている。

■Facebookには「Safety Check」提供の義務はない

Facebookが大人気で、人々のポータルやコミュニケーションのプラットフォームにもなっているインドネシアにおいて、このような爆破テロがあったにも関わらず、Facebookは事件後に安否確認サービス「Safety Check」の提供を行わなかった。

そしてFacebookもジャカルタで「Safety Check」が提供されなかった理由を明らかにはしていない。Facebookは全世界で15億人以上が利用しており、人口2億5,000万人のインドネシアでも7,000万人がFacebookを利用している。ジャカルタの爆破テロを受けて「Safety Check」が提供されることを期待していたインドネシア人も多くいたかもしれない。

しかしFacebookがたとえコミュニケーションのプラットフォームになっていたとしても、Facebookは売上の95%以上を広告収入に依拠しているアメリカの民間企業である。Facebookが「Safety Check」を提供しなかったとしても、発動基準を明らかにしていなかったとしても、Facebookには提供の義務はない。

つまり、たとえインドネシアが世界で3番目にFacebook利用者が多いとしても、ジャカルタの爆破テロ後に「Safety Check」が提供されなかったことでFacebookを責めることはできない。Facebookは公共インフラではなく、民間企業であるFacebookが自社の営利目的で提供しているプラットフォームである。Facebookに依拠しなくとも安否確認ができるようになっていればいいだけのことだ。

銃撃戦のあったジャカルタ中心部(スカイラインビルとサリナデパート)
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事件のあったスターバックスと露店ジュースの価格差は20倍
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事件のあったスカイラインビルにある24時間営業のカフェ
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学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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