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ネット制限に踏み切る大学:学内のあらゆる所にあるPC、スマホは学内のWi-Fi利用で回線は大混雑

佐藤仁学術研究員・著述家
ネット利用の制限に踏み切った立教大学

2015年2月7日の毎日新聞のサイトに『SNSやゲームなどの利用7割占め 学業に支障で 法政大や立教大』という記事が出ていた。

学生が大学でネットにアクセスしているが、そのほとんどがプライベートでの利用であり、そのようなプライベートでのネット利用によって、ネットワーク(回線)が逼迫してしまい、本来の学業目的に差し支えが出ているとの記事だ。

毎日新聞の記事を引用しながら、見ていきたい。

法政大学では学内での業務利用は全体の30%

法政大学の調査では、学内のネットワークの利用のうち70%がYouTubeやFacebook、Twitterなどのプライベート利用であるとのこと。それによって、学校での授業や業務に支障が出ていたとのこと。今回の記事では法政大学と立教大学が事例として取り上げられているが、これはどこの大学でも同じ様な状況であろう。

(2015年)9月に調査したところ、学内のネットワーク回線を流れる通信量は3年前の2倍に増加し、容量のほぼ全てが使われている状態になっていた。通信量の内訳は、学内サービスや授業で利用する通信は全体の30%に過ぎず、残りの70%はユーチューブなどの動画サイト、フェイスブックやツイッターといったSNS、ゲームサイト、ファイル共用ソフトなどの私的利用が占めていたという。

このため、同大は「教育研究活動に重大な悪影響を及ぼす状況に近づいている」として同11月、学生らに不要・不急のネット利用を控えるよう求めた。しかしその後も状況が改善されなかったため、今年に入ってネットの利用制限に踏み切った。

同大広報課は「ネットがスムーズに使えないと、学業や公的業務だけでなく、国内外を含めた大学の共同研究にも支障が出る」と説明。今のところ、利用制限を実施したことによるトラブルや学生、教職員らからの抗議はないという。

出典:(毎日新聞 2016年2月7日)

立教大学では学内からの特定アプリやサイトの利用は禁止

状況は立教大学でも同じようだ。立教大学では、ついに特定のアプリやサイトへのアクセスを出来ないようにしたようだ。

立教大学(東京都)も昨年6〜7月、学内のネット利用を一時的に制限した。法政大学と同様、ネットがつながりにくい状態になったためで、「情報通信技術(ICT)を活用した授業運営を優先する」として、学内からアプリやゲームソフトがダウンロードできるアップル社の「アップルアップストア」(Apple App Store)へのアクセスやツイッターの閲覧、登録などをできなくした。

(中略)

立教大メディアセンターは「ゲームなど学業に関係のない私的利用があるとはいえ、これは、大学のみならず社会全体で情報機器の利用環境が変化していることの反映だ。単なるキャンパスでのネットの過剰利用という問題ではない」と話している。

出典:(毎日新聞 2016年2月7日)

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立教大学で閲覧できないようにしたのはApple App StoreやTwitterなどだが、本当は一番ネットワークの帯域を占めているであろうYouTubeなどの動画視聴を停止するのが、一番ネットワークは快適になるのだろうが、YouTubeには授業で教材として活用される動画も多いだろうから停止はできなかったのではないだろうか。

あらゆるところにあるPC、学生のスマホは学内でWi-Fi利用

パソコンも低価格になり、現在の大学はパソコン室以外にも図書館や学内のラウンジなど、あらゆるところにパソコンが設置されていて、学生ならだれでもどこでも利用できる。試験シーズンでもなければ、昔のようにパソコンを利用するのに並ぶことも少なくなった。授業の合間や昼休み、夕方など暇な時にパソコンの前でネットに接続してYouTubeでずっと動画を見ながら暇つぶしをすることも可能だ。

また、多くの学生がスマートフォンを利用するようになったが、スマートフォンの料金体系はほとんどが従量制なので毎月2G〜7Gなどの設定があり、その容量を超えると追加料金が必要になるか速度制限がかかることから、大学では無料でWi-Fiが利用できるところではWi-Fiに接続してスマートフォンを利用している。スマートフォンでWi-Fiをオンにしておけば、自動でWi-Fiをつかむような設定になっていることから、大学の敷地内にいる間は大学のWi-Fiに自動で接続することが多く、それらが大学のネットワークを逼迫させる要因にもなっている。

さらに多くの学生がスマートフォン以外にも個人でタブレットやらノートブックを持ち込んで学内のWi-Fiに接続して、勉強や就活、プライベートで利用していることから、学内のネットワークはますます混雑していく。

求められるバランスの取れた運用

筆者も研究で大学を訪問することが多いが、平日昼間の図書館などは学生が多いので、ネットへの接続は非常に遅く、イライラすることが多いが、朝早くや夜、週末などは非常に快適である。

ネットワーク(回線)の帯域を広くするのがよいだろうが、それにはお金もかかる。大学は夏休みと春休みが長く学生が学内にいるのは1年のうち半分くらいだろうから、コストパフォーマンスが良くないかもしれない。またファイヤーウォールやルーターなどで動画のポートを閉塞すれば、快適にはなるかもしれないが、そうすると今度は授業や業務で必要な動画の視聴も難しくなる可能性がある。

さらに学生のプライベートなネット利用を完全に中止することも難しいだろうから、QoSで優先順位をつけるなどバランスの取れた運用が必要になるだろう。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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