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インド政府、Facebookの無料ネットサービス「Free Basics」ネット中立性に違反で禁止へ

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

インド政府の情報通信監査局(TRAI)は2016年2月8日、「Prohibition of Discriminatory Tariffs for Data Services Regulations, 2016」法令を交付した。

これによってFacebookが「Internet.org」の取組みの一環として、インドで現地の通信事業者Relianceと提携して提供している無料ネットサービス「Free Basics」も提供が禁止される。インドではFacebookの「Free Basics」は2015年12月末にネット中立性の観点からサービス提供が一時中止されていた。

現地の通信事業者Relianceのみがインドで「Free Basics」提供

「Free Basics」は2014年7月に「Internet.org」という名称でアフリカのザンビア開始され、現在ではアフリカやインド、アジア諸国で導入されている。2015年9月から「Free Basics by Facebook」と呼ばれている。「Free Basics」は現在世界38か国で提供されており、2015年には全世界で1,900万人がこの「Free Basics」のおかげでインターネットにアクセスできるようになった。多くの国においてFacebookは1つの通信事業者と提携している。

インドでは現地の通信事業者Relianceが2015年2月から「Free Basics」を提供していた。インドでFacebookと提携して「Free Basics」を提供している通信事業者はRelianceのみだった。開始から1年も経たないうちにインドでの「Free Basics」は提供が禁止されてしまった。

「Free Basics」はFacebookが現地の通信事業者と提携して提供されており、インターネットへアクセスするデータ通信が無料でFacebookやGoogle検索、Wikipediaの他に天気予報や生活情報サイト、求人情報、妊婦や女性向けサイトなど生活に密着したサイトにアクセスができる。サービス開始時には38のサイトに無料でアクセスできた。FacebookやGoogle検索は無料でアクセスできるが、その先のリンク先のページや動画再生などはパケット費用(通信費)が発生するため、通信事業者にとってはその通信費が収入源になる仕組みである。

「ネット中立性」の観点から「Free Basics」提供は禁止へ

インドの当局TRAIが交付した新法令は「消費者がアクセスするコンテンツやサイトに基づいた差別的課金を禁止したもの」である。つまりFacebookや他の一部のサイトには無料でアクセスできるが、別のサイトにアクセスするのは料金が発生することが公平でないため禁止する、というものだ。

インドでFacebookや他のいくつかのサイトに無料でアクセスしたいユーザーはRelianceに加入すれば、無料でアクセスできるが、AirtelやVodafoneなど他の通信事業者のユーザーは同じサイトにアクセスするためにパケット通信費がかかる。またRelianceのユーザーでもFacebookなどいくつかのサイト以外へのアクセスはパケット通信費がかかってしまう。つまり「アクセスするサイトにより異なる料金が適用されることは不公平」であり当局から見ると「中立性」に反するのだ。

TRAIは「コンテンツへのアクセスで差別的料金の適用を禁止することは、サービスプロバイダーがインターネットをオープンで公平なものに保つ責任を果たすために必要である」と主張している。

現在、エジプトでも「Free Basics」はネット中立性の観点から提供が一時停止されている。今回のインド政府の決定は、他の国での「Free Basics」提供にも影響を与える可能性がある。

ザッカーバーグ「世界中の人がネットにアクセスできるようになるべきだ」と言っているが・・・

TRAIの発表を受けて、FacebookのCEOのマークザッカーバーグ氏は、自身のFacebookページで、TRAIの決定に失望したことを伝え「世界中の人がネットにアクセスできるようになるべきだ」と述べている。また「我々のミッションは世界中がもっとオープンになり繋がることだ。このミッションはまだまだ続くし、インドでの我々の活動は続く」と締めくくった。

Facebookへの月間アクティブ利用者数が全世界で約15億5,000万人いる。人口12億人を超えるインドには、現在でもFacebook利用者がすでに1億3,200万人いるとても巨大で重要な市場であり、これからも利用者増が期待されている。

ザッカーバーグCEOのコメントだけを見るとFacebookは慈善事業としてインドでネット普及を行っていくように見えるが、決してそうではない。Facebookの売上高の95%以上が広告収入である。広告収入のためには、まずインターネットにアクセスしてもらう必要がある。そのためには「Free Basics」はFacebookのインド市場における収入増にとっても重要な施策だった。

注意して頂きたいのは、インドでFacebookの利用が禁止されたのではなく、通信費が無料でFacebookなどにアクセスできる「Free Basics」というサービスが禁止されただけだ。インドの人は通信費を払ってのアクセスであれば今でもFacebookへのアクセスは可能だ。

最後にTRAIの発表を受けてのザッカーバーグCEOのコメント全文を掲載しておく。

Everyone in the world should have access to the internet.

That's why we launched Internet.org with so many different initiatives-- including extending networks through solar-powered planes, satellites and lasers, providing free data access through Free Basics, reducing data use through apps, and empowering local entrepreneurs through Express Wi-Fi.

Today India's telecom regulator decided to restrict programs that provide free access to data. This restricts one of Internet.org's initiatives, Free Basics, as well as programs by other organizations that provide free access to data.

While we're disappointed with today's decision, I want to personally communicate that we are committed to keep working to break down barriers to connectivity in India and around the world. Internet.org has many initiatives, and we will keep working until everyone has access to the internet.

Our work with Internet.org around the world has already improved many people's lives. More than 19 million people in 38 countries have been connected through our different programs.

Connecting India is an important goal we won't give up on, because more than a billion people in India don't have access to the internet. We know that connecting them can help lift people out of poverty, create millions of jobs and spread education opportunities. We care about these people, and that's why we're so committed to connecting them.

Our mission is to make the world more open and connected. That mission continues, and so does our commitment to India.

出典:ザッカーバーグCEOのFacebookページ

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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