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Google、GSMAと提携してRCSメッセージ普及へ:Googleが欲しいSNSとメッセージの情報

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

Googleと世界の通信事業者の団体GSMAは2016年2月22日、GSMAが推進しているRCS(Rich Communication Services)の普及に向けて提携を発表した。AndroidのスマートフォンにGSMAが推進しているRCSのアプリを開発していく。Googleは2015年9月、Androidスマートフォンでのメッセージ機能強化のために、Jibe Mobileを買収したことを発表した。Jibe Mobileは2006年に設立され、RCSメッセンジャーサービスを提供していた。

2007年からあったRCSだが、いっこうに普及せず

一般の人はRCSという言葉は聞いたこともないだろうが、GSMAでは2007年から開発、推進に取り組んでおり、携帯電話のSMS(ショートメッセージ)の後継にしようとしていた。しかしスマートフォンが急速に普及するとともに、WhatsAppやLINEなどのメッセージアプリが多く登場してきて世界中で人気がある。RCSのメッセージサービスは実は34か国47通信事業者から提供はされているが、ほとんど利用されていないし、一般の人には知名度もなく、決して普及に成功しているサービスとは言えない。

今回のGoogleとの提携もAmerica Movil(メキシコ)、Bharti Airtel(インド)、Deutshe Telekom(ドイツ)、Orange(フランス)、Vodafone(イギリス)、Sprint(アメリカ)など19社の通信事業者が参加を表明しているが、どの国でももはやメッセージの主流はWhatsAppやFacebookメッセンジャーである。

「Google+はFacebookのライバルを断念した」

GoogleはSNSやメッセージ分野ではいろいろなサービスを提供してきたがFacebook陣営には大きく差をつけられている。特に2011年6月にFacebookに対抗して提供開始したSNS「Google+(グーグル・プラス)」は現在も提供されているが、Facebookのように利用者は全く伸びていない。FacebookはSNSだけでなく、Facebookメッセンジャーの他にWhatsAppやInstagramなどメッセージ分野にはとても強い。

FacebookやTwitterといったSNSに対抗して開始したが、Google+担当責任者のブラッド・ホロウィッツ氏は「Google+はFacebookのライバルを断念した」とウォールストリートジャーナル(2015年7月28日)のインタビュー記事で語り、完全に敗北を認めている。

日本でGoogle+(ぐぐたす)を支えているのはAKB48グループのメンバーとファンだが・・・

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日本でのGoogle+を支えているAKB48メンバー(C)AKS
日本でのGoogle+を支えているAKB48メンバー(C)AKS

日本では多くの人が検索エンジンのGoogleやYouTubeを利用している。しかしSNSとしてFacebookかTwitterを利用している人は多いが、Google+を利用している人は少ない。

そのGoogle+を一番積極的に利用しているのがAKB48グループのメンバーと、そこに集うファン達であろう。2011年12月からAKB48グループのメンバーはGoogle+で情報発信を行っており、彼らの間では「ぐぐたす」と呼ばれている。メンバーがGoogle+で投稿したコメントに対して、ファンがコメントや「+1」をしてメンバーとのコミュニケーションを楽しんでいる。

しかしAKB48グループのメンバーもGoogle+以外にも、ブログやTwitter、755、モバイルメール、Instagramなど多くのツールがあり、それぞれの用途に応じて各メンバーが使い分けながら、情報発信やファンとのコミュニケーションを行っており、最近では情報発信の軸足がGoogle+よりもTwitterやInstagramへ移行している。

Googleが欲しいSNSとメッセージサービスの情報

全世界で毎月15億人以上が利用しているFacebookや、10億人が利用しているWhatsApp、7億人が利用しているFacebookメッセンジャー、4億人が利用しているInstagram、3億人が利用しているTwitterと比べるとGoogle+の差は開きすぎてしまった。SNSやメッセンジャーアプリの分野ではGoogleはFacebook陣営に完全敗北している。

GoogleとしてはGoogle+というSNSを通じて、人々の行動パターン、友人関係、位置情報などを把握することによって、そこから得られるあらゆる情報を元に適切な広告の配信を行おうとしていたのだろう。Googleにとって売上の90%以上が広告収入であり、今後もその構造はすぐには変わらない。

SNSやメッセージサービスは情報の宝庫である。世界中の情報を収集して、蓄積し、解析して広告や新サービスを提供して収益としていきたいGoogleとしては、メッセージサービスでのやりとりされる情報は重要な収入源になりうる。メッセージを通して、例えば「誰と、いつ、どのくらいの頻度で、どのような内容」のコミュニケーションをしているのかを把握し、それに適した広告やサービスを展開していくこと可能となり、Googleとしても将来の収益につながる。GoogleにとってSNSやメッセージサービスで流れている情報は喉から手が出るほど欲しい情報だが、そのツールで完全にFacebookに負けている。

Androidスマートフォンは年間に世界で10億台以上出荷されており、そこにデフォルトで搭載されるようになればRCSも普及するかもしれない。Googleとしては端末だけが普及しても、Googleのサービスが利用されない限り収益にはつながらない。スマートフォンにデフォルトでプレインストールされているが、利用しないアプリやサービスはたくさんある。RCSがデフォルトで利用できるようになったからといって、現在WhatsAppやメッセンジャー、LINEなどを利用している人がRCSを利用するとは限らない。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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