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ドワンゴら日本発「DeepZenGoプロジェクト」始動:Google「AlphaGo」に対抗

佐藤仁学術研究員・著述家
日本棋院で「DeepZenGoプロジェクト」発足

ドワンゴは2016年3月1日に、世界に対抗できる人工知能の囲碁ソフトを開発していく「DeepZenGoプロジェクト」を発足することを発表した。ライバルはGoogleの人工知能の囲碁「Alpha Go」だ。

東京・市ヶ谷の日本棋院で行われた記者会見にはドワンゴ会長の川上量生氏、将棋ソフト「Ponanza」開発者の山本一成氏、Zen開発チーム代表の加藤英樹氏、東京大学大学院特任准教授の松尾豊氏、日本棋院理事長の和田紀夫氏が出席した。

日本発の開発チームを結成

「DeepZenGoプロジェクト」では、囲碁ソフト「Zen」の開発者である尾島陽児氏および加藤英樹氏を中心とし、東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻 特任准教授の松尾豊氏、および将棋ソフト「PONANZA」を開発した山本一成氏が主要開発メンバーを務める。

ドワンゴはハードウェアや開発スペースを全面的に提供するほか、同社の人工知能研究所が開発を支援する。さらに本プロジェクトを通じて、人工知能技術の向上、そして囲碁そのものへの関心が高まり、囲碁界の発展にも貢献していくことを目指している。日本棋院は、人工知能(AI)能力向上と同時に囲碁の持つ効用を高め、成長させる場としてこのプロジェクトに協力していく。このようなプロジェクト構成で日本発の囲碁ソフト開発を行い、Googleの「AlphaGo」へ対抗していくことを明らかにした。これまで世界で強い囲碁ソフトといわれたのが日本の「Zen」とフランスの「Crazy Stone」である。今回は日本を代表する囲碁ソフト「Zen」を更に強化していくことによって世界最強を目指していく。そのライバルはGoogleの「AlphaGo」だ。

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オールジャパンでGoogle「Alpha Go」へ対抗

今回のプロジェクトは、Googleが開発した「AlphaGo」の囲碁の人工知能(AI)開発に対抗し、約半年~1年後に新たな囲碁ソフトの完成を目指す。

Googleは2016年1月末に人工知能(AI)「AlphaGo」が欧州チャンピオンのプロ棋士に勝利したことを英国の科学誌「ネイチャー」に論文として掲載し、囲碁界のみならず関係者に大きな衝撃を与えた。2016年3月上旬には韓国の世界的トッププロ棋士イ・セドル棋士と100万ドルの賞金をかけて対局することから大きな注目を浴びている。

「DeepZenGoプロジェクト」の可能性

ドワンゴの川上会長は「将棋の電王戦を主催し、次は囲碁の電王戦を企画していたが、「AlphaGo」がプロ棋士に勝利したことに衝撃を受けた。3月の韓国イ・セドル棋士に「AlphaGo」が勝利するとこの企画が終わることを危惧した。」と述べて、今回のプロジェクトの目的を説明した。また『日本から世界最強の囲碁ソフトを世に出して、「AlphaGo」だけでないということを世界に示していきたい。またZenは人工知能(AI)だけでなく、囲碁を通じた人間の持つ能力の素晴らしさを世の中に示して行きたい』と意気込みを語った。

Zen開発チーム代表の加藤英樹氏は「人工知能(AI)はライバルであり、エネミー(敵)ではない」と述べ、『Zenが持つ優位性、シミュレーションとクラスタ技術にニューラルネットのパターン認識技術が加われば十分、「AlphaGo」に対抗できる』との自信を示した。人工知能分野の第一人者でもある東大の松尾准教授は「オールジャパン一体となって戦うことは意義深い。囲碁を通じた人工知能技術力の向上は日本の産業力の向上にもつながる」とコメント。

日本棋院の和田理事長は囲碁を通じて人工知能(AI)と人間知能のコラボレーションを目指していきたいと語った。「疲れを知らないという人間の能力にはない能力を人工知能は持っているが、人工知能にないものを人間の脳は持っており、棋士は思いもつかない手を打つことがある。」として、人工知能と人間能力の双方の向上、また囲碁がもつ効用、子供の脳の発達や、高齢者の認知症防止の可能性を探る良い機会になることをプロジェクトに期待すると述べた。

注目が高まる「AlphaGo」との対局

2016年3月8日から「AlphaGo」は世界最高峰と言われている韓国プロ棋士イ・セドル棋士とソウルで対局を行う予定で、世界中が注目している。勝敗の行方については様々な予測が飛び交っているが、Zen開発者の一人である加藤氏はまだイ・セドル棋士には敵わないのではないかとみている。

対局の結果にかかわらず、今回の「AlphaGo」に対抗して開始された日本発の「DeepZenGoプロジェクト」は注目が高まっていくだろう。囲碁を介した日本発の人工知能(AI)の発展、人間能力の向上とコラボレーション、産業技術への応用など21世紀の大きなテーマを含んだプロジェクトである。また、このプロジェクトを通じて囲碁への注目が高まり、囲碁の効用が再認識され、囲碁普及に繋がることが期待される。

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(左から)ドワンゴ会長の川上量生氏、将棋ソフト「Ponanza」開発者の山本一成氏、Zen開発チーム代表の加藤英樹氏、東京大学大学院特任准教授の松尾豊氏、日本棋院理事長の和田紀夫氏

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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