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オランダ、Facebookでホロコースト犠牲者の家族探し:中古品店から出てきた殺害直前の結婚の想い出

佐藤仁学術研究員・著述家
ナチス時代に殺害された2人の写真(Stans Barzelay)

オランダのアムステルダムにあるリサイクルショップ「De Kringloper Almere」で70年以上も前のウェディングブックが出てきた。

日付は1942年5月31日、ウェディングブックには10人以上の署名もあり、ユダヤの象徴であるダビデの星も描かれていた。ブックから結婚した2人はLouis氏とFlora氏であることはわかった。

Facebookで持ち主探し

リサイクルショップのBob Baars氏は当時の想い出であろうから、ウェディングブックをLouis氏とFlora氏、または家族や親せきなどの関係者に返そうと思って、リサイクルショップのFacebookページで2016年1月25日にオランダ語で呼びかけた。Facebookにアップするやリサイクルショップにはオランダや海外から書き込みやメール、問い合わせが殺到し、ウェディングブックはLouis氏の姪のBarzelay氏に返すことができた。Barzelay氏もリサイクルショップの投稿は知らなかったので、携帯電話を見たら大量の着信やSMS、Facebookへのメッセージが来ていたことに驚いたそうだ。

2人のユダヤ人であるLouis氏とFlora氏はナチス占領下のオランダで1942年5月31日に結婚した。結婚式の写真には当時、ユダヤ人が強制的に着用義務付けられた黄色のダビデの星を付けないで、白い花を胸にはつけていた。2人は結婚式2か月後の1942年7月にはオランダの中継収容所ヴェステルボルクに収容されて、その2か月後の1942年9月にはアウシュビッツに移送されて殺害されていたそうだ。

発見されたウェディングブック(Stans Barzelay)
発見されたウェディングブック(Stans Barzelay)
画像
Louis氏とFlora氏の写真(Stans Barzelay)
Louis氏とFlora氏の写真(Stans Barzelay)

本人らには直接返すことはできなかったが、Bob Baars氏はFacebookでの呼びかけであっという間に姪が見つかって返却できたことに安心している。リサイクルショップのFacebookページは約1,800の「いいね」だが、この投稿は3,300件以上シェアされ、16万人がアクセスしたそうだ。

ナチス時代には10万人以上のオランダのユダヤ人が殺害

ナチスに占領されたオランダのユダヤ人といえばアンネフランクが有名だが、当時オランダには14万人のユダヤ人が住んでいたが、ナチスによって75%にあたる10万人以上が殺害された。

1942年5月9日、オランダのユダヤ人は黄色の星をつけることを義務付けられた。2人の結婚式はそれの直後である。ナチスが大嫌いだったオランダではユダヤ人へのダビデの星の布告が出ると、大勢のオランダ人がダビデの星をつけはじめた。オランダでみんなが着けていれば布告も意味がなくなるということでナチスに抵抗した。1941年2月にはアムステルダムで1人の警官が殺害されると、ドイツ軍は400人のユダヤ人を容赦なく逮捕した。これに対してアムステルダムやユトレヒトの労働者、会社員、公務員らはストライキを行って抵抗していた。とにかくオランダ人はナチスが大嫌いだったのだ。

そして2人が移送された1942年夏はオランダのユダヤ人の状況は絶望的だった。すでにオランダ中のユダヤ人がアムステルダムに集められており、しかもユダヤ人地区かユダヤ人家庭に宿泊することしか許されなかったので、壁はなくともゲットーに押し込められたも当然のものだった。そのため1942年7月に始まった大規模な移送は極めてスムーズに行われた。アムステルダムから次々にヴェステルボルクの移送中継収容所へと送り出されて、ユダヤ人はアムステルダムから一掃された。

2018年にはオランダで初のホロコースト博物館が建設される予定である。アンネフランクの家はアムステルダムの観光名所としてもお馴染みだが、ホロコースト博物館はまだなかった。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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