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ユニセフ:「ドローンでHIV検査の短縮化狙う」アフリカのマラウイで血液サンプル輸送の試験飛行

佐藤仁学術研究員・著述家
(C) UNICEF

ユニセフ(UNICEF:国連児童基金)とマラウイ政府は、 乳幼児のHIV検査の結果待ちの日数を短縮する費用対効果の高い方法を探るため、 無人航空機(ドローン)の利用実験を開始した。

ドローンで「空から」血液サンプル輸送

ドローンは、過去にも調査や災害の評価などに使用されたことがあるが、アフリカでHIV関連のサービス向上のために利用されるのは、ユニセフが知っている限りでが今回が初めてとなる。

模擬的な血液サンプルを用いたドローンの実験は、待ち時間を飛躍的に削減することが期待されている。ドローンによって道路輸送やテキストメッセージ(SMS)など他の仕組みと並んで、保健システムに組み込まれることになることを目指している。

成功した最初のドローン試験飛行は、コミュニティの保健センターからカムズ中央病院の研究所まで、障害物のない10キロのルートだった。住民もドローンが離陸して病院の方角に飛び立っていくのを見守っていた。コストや安全性を含めた実用化の可能性を評価するドローンの試験飛行は、2016年3月18日まで続けられる。

ドローンの飛行は、専ら輸送のために設計され 実験に使用されているドローンを製作したアメリカの民間企業マターネット(Matternet)によって支援されている。試験飛行の後、陸路輸送との費用の比較が行われ、もし結果が良好ならば、第二段階ではマラウイの遠隔地からの試験飛行を行う予定。

保健員が赤ちゃんから乾燥した血液サンプルを取る様子。 (C) UNICE
保健員が赤ちゃんから乾燥した血液サンプルを取る様子。 (C) UNICE

マラウイのHIV検査の現状

アフリカのマラウイは人口約1,600万人だが、国全体でのHIV罹患率が10%と、いまだ世界で最も高い水準にある。2013年時点で推定100万人のマラウイの人々がHIVと共に生きており、同年48,000人がHIVに関連した疾患で命を落とした。

現在では90%の妊婦が自身のHIV感染状況を認識しているなど進展も見られているが、いまだ乳幼児が検査や治療を受けられていないケースがある。

血液サンプルは現在、バイクか地元当局の救急車を使って陸路で運ばれている。マラウイではディーゼル燃料の高いコスト、劣悪な道路状況、限られた巡回スケジュールなどさまざまな要因で、サンプルの輸送に大幅な遅れが生じており、小児用抗レトロウイルス療法の効果を高める上での重大な障害になっている。地上で運ぶのに困難が多いこと、現在の燃料コスト、劣悪な道路を改善していくよりも、「空から運んでくる」ドローンという新しい技術を活用して輸送した方が効率的なのだろう。そのようなことからドローンへの注目も高い。

輸送時間短縮に期待されるドローン

ドローンの利用実験の様子を見守る人々。 (C) UNICEF
ドローンの利用実験の様子を見守る人々。 (C) UNICEF

ユニセフ・マラウイ事務所代表のマヒンボ・ムドエ氏は「HIV/エイズはいまだマラウイの発展の障害になっていて、 毎年約1万人の子どもたちがHIV/エイズによって命を落としています。この革新的な取り組みは、 マラウイの遠隔地で保健担当者が直面している輸送上の問題やそれに伴うさまざまな遅れを克服する突破口になるかもしれません」とコメントしている。

「2014年には、 マラウイで4万人近い子どもたちがHIVに感染している母親から生まれました。 このような子どもたちへの質の高いケアは早期診断にかかっており、 それには乾燥した血液サンプルを検査のために保健センターから中央の研究所に送る必要があります。 ドローンが輸送時間を短縮し、 治療を必要とする子どもたちに早く治療を開始するための解決策の一つとなることを願っています」ともムドエ氏は述べている。

2014年には、マラウイの約1万人の子どもたちがHIVに関連した疾患により死亡し、治療を受けられたのはすべての子どもたちの半分以下に過ぎなかった。現在、血液サンプルを保健センターから研究所に送るまで平均11日、結果が送り返されるまで最長8週間を要している。 検査から結果通達までの期間が長くなればなるほど、 患者が治療を受けられなくなる率は高まる。

保健大臣のピーター・クンパルメ氏は、 マラウイ政府はHIV母子感染の予防に全力で取り組むと述べた。

「マラウイはHIV関連サービスの提供において、 母親をシンプルかつ生涯にわたる治療計画に参加させる『オプションB+』政策を含め、 数多くの革新的な取り組みを開拓してきました。 私たちはまた、 テキストメッセージを通して中央研究所から保健センターに結果を伝えることにも先駆的に取り組んできました。 ドローンの実験のための私たちとユニセフのパートナーシップは、 もう一つの革新的取り組みであり、 HIV予防と治療に関する同国の目標達成に向けた私たちの活動を支援するものだと信じています」 とコメントしている。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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