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アウシュビッツを連想、ドイツのFCバイエルン・ミュンヘンがTwitterへの投稿で謝罪

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

ドイツのサッカーチーム、バイエルン・ミュンヘンがチャンピオンズリーグでベスト8進出を果たしたが試合前に対戦相手のイタリアのユヴェントスを挑発するような投稿を2016年3月16日にTwitterで発信した。しかしその画像がアウシュビッツ絶滅収容所を想起するということで、欧州で問題になり、削除してバイエルンは謝罪した。

アウシュビッツを想起する画像で謝罪

内容としては、バイエルン・ミュンヘンの本拠地アリアンツ・アレナの前で線路が終わっており、ユヴェントスに向けてイタリア語で「FINO ALLA FINE」(最後の最後まで)と書かれたの看板に赤いバツ印がつけられ、背景には「QUI E LA FINE」(ここで終わり)と書かれていた画像である。

この画像が欧州で問題になり、バイエルン・ミュンヘンは謝罪することになった。この画像がどこが問題なのだろうかと思うかもしれないが、線路で終着駅に到着するのが、ナチスドイツがユダヤ人を大量虐殺したアウシュビッツ強制収容所をイメージするということ、「QUI E LA FINE」(ここで終わり)が、ナチスのホロコースト「最終解決」を想起させるということなのだ。たしかに言われてみれば、アウシュビッツの写真でよく見る「線路の先に収容所がある写真」(上部にも掲載)に似ていると言われれば、似ている。

画像

バイエルンのメディアディレクターのMarkus Hoerwick氏は「けっしてホロコーストをイメージして作成したわけではないが、ユヴェントスのファンやそれ以外の方を不快な思いにしたことが申し訳ない」と謝罪した。

まだ終わっていない欧州でのホロコースト

ミュンヘン近郊のダッハウ強制収容所
ミュンヘン近郊のダッハウ強制収容所
ダッハウにはドイツだけでなく世界中から多くの学生が見学に来て説明を受けている。
ダッハウにはドイツだけでなく世界中から多くの学生が見学に来て説明を受けている。

今回、ユヴェントスがあるイタリアはヒトラーの同盟国だったが、ドイツのユダヤ人絶滅政策にとってかなりの期待外れだった。イタリア系ユダヤ人は世界で最古の歴史を誇るユダヤ人集団でもあったことから、大臣や将軍にもユダヤ人がいた。しかしムッソリーニがヒトラーの信奉者となると、彼の反ユダヤ的傾向がより顕著となったが、あまり根の深いものではなかった。但し1943年9月、イタリアが連合国に降伏すると、ドイツが北イタリアを占領、これに支援されてムッソリーニのファシスト党が再び傀儡政権の座に就いてからは多くのユダヤ人がアウシュビッツのガス室に送られた。それでも、イタリア国内に住むユダヤ人の80%が寺院や教会や自治体の援助によって地下に潜伏し、終戦まで生き延びることができた。

バイエルンはダッハウ強制収容所で展示を開催中

また、ミュンヘンに拠点を置くバイエルンは、ミュンヘン近郊にあるダッハウ強制収容所で2016年1月からナチス時代に犠牲になったバイエルンのメンバーを追悼する展示『Idolised- Persecuted- Forgotten: Victims of National Socialism at FC Bayern Munich』を2016年5月1日まで行っている。ダッハウはナチスが建設した最初の強制収容所で当初は政治犯などドイツ人も多く収容された。1933年から1945年までダッハウは23か国から約25万人の抑留者を収容した。約7万人が虐待を受けて命を落とし、14万人が他の強制収容所へ移送された。ナチス時代には56人のバイエルンのメンバーが収容所に送られた。バイエルンの元代表のKurt Landauer氏もナチス時代に短期間ダッハウに収容されていたことがある。バイエルンの代表Karl Hopfner氏は「年々ホロコーストの記憶が薄れてきている。ホロコーストを忘れれないための展示であり、バイエルンはサッカーでの人種差別やレイシズムと戦っていく」とダッハウでの展示オープニングの時にコメントしていた。

バイエルン・ミュンヘンは日本でもお馴染みのチームで、Twitterのフォロワーは260万を超え、欧州や南米のファンや対戦チームにも向けてスペイン語のアカウントでも情報発信をしている。さらにアラビア語のアカウントでも情報発信をしている。そして今でもホロコーストの問題には物凄く過敏に反応する。発信したバイエルンには真意はなくとも、ちょっとした画像や発言がかつての暗黒の歴史を連想させてしまい、炎上してしまうことがある。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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