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ホロコースト「World Memory Project」ネットで登録と検索:犠牲者の数100万人突破

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:Rex Features/アフロ)

アメリカのワシントンDCにあるホロコースト記念博物館(United States Holocaust Memorial Museum)が2011年5月から、第2次大戦時のナチスドイツによるユダヤ人やロマの大量虐殺、いわゆるホロコーストの犠牲者の記録をオンラインで登録し、検索できるプロジェクト「World Memory Project」を運営している。

これは世界中の誰でも、どこにいてもネットで、ホロコーストの犠牲者たちの情報や記録、記憶を登録することができるアーカイブのシステムである。そして、登録された情報は世界中からネットで検索することができる。

ホロコースト犠牲者の登録者数100万人突破

現在「World Memory Project」にはすでに1,700万を超える様々な情報やドキュメント、資料が登録されているが、2016年4月に犠牲者の登録者数が100万人を突破した。

第2次大戦中にナチスの台頭でホロコーストの犠牲になったのはユダヤ人やロマなど600万人以上と言われている。つまりホロコーストの犠牲者の約6人に1人が登録されたことになる。

世界中からボランティアが登録に協力

戦争が終わってからもユダヤ人らはイスラエルやアメリカ、欧州各国へ離散していった。このプロジェクトにも世界中18各国から3,500人以上のボランティアが参加して、情報提供と登録を行っている。ユダヤ人以外も多い。年々ホロコーストの生き残った方の数や当時の様子を知っている人は減少している。ホロコーストの悲惨な歴史を風化させないためにも、多くの情報提供と登録を呼びかけている。

世界中のボランティアが犠牲者の登録作業を手伝っているが、登録は名前や生年月日、出身地、国籍、住所、移送後の状況など大量の情報入力が必要だ。ホロコーストでいとこの夫の家族を失った75歳のPatricia Lewin氏はプロジェクト開始の2011年5月から協力して、すでに8万人の登録を行った。また2015年にはアメリカの3つの高校の高校生らが7,000人の犠牲者の登録を行った。また登録された情報が正しいかどうかの確認も必要になる。70年以上前の歴史であり、もはや記憶が曖昧だったり、不正確なことも多いだろうから、精確な登録と確認は骨が折れる作業だろう。

ホロコースト犠牲者のまだ6人に1人しか登録されてない

検索されて出てくるのはただのテキストでの結果だけだが、実際には犠牲者一人ひとりの人生があったのだ。

リガのゲットーでゲシュタポによって殺害されたユダヤ人歴史家シモン・ドゥブノフの最期の言葉は「書き、そして記録せよ」であったといわれている。彼は最後まで歴史の力、記憶の勝利を信じていた。戦争中にも多くのユダヤ人らが、日記やメモで記録を残そうときたが、彼らの多くは殺害された。アンネ・フランクもその1人かもしれない。

ネット上でこれらの歴史的な記憶が登録され、世界中のどこからでも検索できるようになったが、それでもまだ犠牲者の半分にも至っていない。まだ500万人の犠牲者の情報は登録されていない。そして犠牲者600万人というのは殺害された人々の推定値であり、実際には生き残った人々や犠牲者の家族などのホロコーストの犠牲者の精確な数字は把握しきれない。

さらに中には記録が残っていないことから、全く情報のない犠牲者も多いだろう。ナチスによる入念なまでの証拠隠滅のため犠牲者の数を正確に打ち出すことは不可能であると言われている。またユダヤ人犠牲者ばかりに注目がいくが、ナチスの犠牲者となったロマの犠牲者数を精確に算出することは難しいようだ。他にも政治囚や、捕虜、障碍者も多くがナチスの犠牲になった。

▼World Memory Projectが製作した動画。両親が強制収容所に入れられていた犠牲者の娘のインタビュー

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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