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井山棋士、囲碁で7冠達成の歴史的快挙:人工知能(AI)との対決にも意欲

佐藤仁学術研究員・著述家

産経新聞社主催の囲碁タイトル戦「森ビル杯 第54期十段戦五番勝負」の第4局が2016年4月20日、日本棋院で行われた。

挑戦者の井山裕太六冠が伊田篤史十段に勝ち、囲碁界史上初の同時七冠達成という歴史的快挙を成し遂げた。この快挙にあたってメディア30社、記者120人以上が集まり、このニュースは既に多くのメディアで報道されている。2016年3月上旬には人工知能(AI)と韓国の世界的トップ棋士が対局し、世界的に大きな話題となっており、ここにきて囲碁が注目を集めている。

囲碁大使の戸島花さんから花束を受け取る井山七冠
囲碁大使の戸島花さんから花束を受け取る井山七冠

人工知能(AI)との対決にも意欲を見せた井山七冠

最近、囲碁の大きなニュースとして、2016年3月にGoogleが開発した人工知能(AI)の囲碁「Alpha Go」が、世界最強棋士の韓国の李セドル九段を4勝1敗で破った。この人工知能(AI)と人間の囲碁対決はYouTubeで全世界にリアルタイムに流されており、全世界で2億8,000万人以上が生中継で視聴していたと報じられていた。

英国の学術雑誌「ネイチャー」に発表された論文によると「Alpha Go」の人工知能(AI)は碁盤自体を入力と見立て、その情報を数百万のノードからなる 12 層構成のニューラルネットワークで処理しており、1 つ目の「ポリシーネットワーク」が次の手を決定し、もう 1 つのニューラルネットワーク「バリューネットワーク」が勝者を予測する。Googleではこのニューラルネットワークを3,000 万を超える打ち手のディープラーニング(深層学習)を通じて精度を高め、57%の確率で次の手を予測することが出来るようになったとのことである。人工知能(AI)が李セドル棋士に勝利したニュースは囲碁界のみならずAI関係者にも衝撃を与えた。

井山七冠は記者会見の中でも、Googleが開発した人工知能「Alpha Go」について『人工知能(AI)との戦いを興味深く見ていた。新たな囲碁であり、人間とは少し違う発想を感じた』と述べて、『棋士としては強い相手と対戦したい』とAI囲碁との対決に意欲を見せていた。

喜びと抱負を語る井山七冠
喜びと抱負を語る井山七冠

囲碁には無限の可能性:人間の脳にも好影響

井山七冠はまた『AIが強くなっても、囲碁には無限の可能性がある』と述べた。また『自分はまだ未熟である。世界で一番強くなりたい』と更なる向上心を見せた。

囲碁には着手の選択肢が無限に近い。囲碁には着手の選択肢が無限に近く、チェスが10の120乗、将棋が10の220乗に対し、囲碁は10の360乗のパターンがあると言われている。これら無限大の囲碁の着手パターンを人工知能(AI)が学習することによって、強化され精度が高まっていく。もはや最強の棋士でも人工知能(AI)には勝てないかもしれない。

しかし、井山七冠が『AIが強くなっても、囲碁には無限の可能性がある』と述べているように、囲碁には人工知能(AI)にはない無限の可能性がある。特に注目を集めているのが、人間の脳への影響である。

作家の百田尚樹氏もお祝いに駆け付けた。
作家の百田尚樹氏もお祝いに駆け付けた。

若者から老人まで脳の発達に良い囲碁

人工知能は囲碁だけでなく様々な分野でも注目を集めており、特に日本では介護が大きな社会問題になっており、人工知能(AI)を搭載したロボットの開発が注目を浴びそうである。

人工知能(AI)と人間の能力が補完しあいながら、共に向上していくのが21世紀の課題であり、囲碁はその試金石になるかもしれない。井山七冠が述べているように囲碁には無限の可能性があり、特に脳の発達を促すものとして再評価されている。「囲碁」は序盤、中盤、終盤、ヨセ、計算と打ち手によって右脳、左脳など使う場所が異なり、万遍なく脳を使うことにより前頭前葉を発達させ、人間としての社会性、公共性を育むといわれる。

このような囲碁の持つ効用が理解され始め、現在、日本では23の大学で囲碁が単位のとれる正課の授業として採り入れられている。例えばある大学では「囲碁で養うロジカルシンキング」と言う授業科目で、戦略的なロジカルシンキングを身につける講座を開講している。また囲碁は幼少期における脳の活性化を促すことから、大学だけでなく小中学校、における囲碁授業が急速に拡大しており、全国で100校近く10,000人を超える生徒が囲碁に触れる機会を持っている。

また、認知症防止、改善効果として「囲碁」の持つ力が実証されようとしている。囲碁による健康寿命の実現は医療・介護費の大幅な削減に繋がるものと期待されている。

さらに井山七冠が共同記者会見で述べているように、これからの日本の囲碁界の大きな課題は世界戦での日本棋士の活躍である。現在、残念ながら中国や韓国勢に押されている状況が続いている。日本棋士の世界戦での活躍は人工知能(AI)とプロ棋士の対局、囲碁界史上初の7冠達成に続く日本の囲碁ファンの拡大に繋がることになる。囲碁ファンの拡大は囲碁のもつ力、効用が理解される契機になることを期待したい。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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