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インド:携帯電話・スマホで女性を事件や犯罪から守る「パニックボタン」導入を義務化へ

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

中国に次いで世界第2の巨大市場であるインドでは2015年だけでも1億台以上のスマホが出荷されている。特に最近では1,000円以下のスマホも登場しており、普及のスピードは加速している。人口12億人以上を抱えているインドでは、まもなく5億人がスマホを所有するようになるとのことだ。携帯電話はさらに普及している。

女性を守るために「パニックボタン」導入の義務化へ

インド電気通信大臣のRavi Shankar Prasad氏は、2017年1月1日から販売される携帯電話機へ「パニックボタン(Panic Button)」機能の装備が、2018年1月1日から販売される端末にはGPSナビゲーションの装備がスマホメーカーに義務付けられることを発表した。インドでは中国メーカーやインドの地場メーカーのプレゼンスが強いが、サムスンやAppleといったグローバルメーカーなど全てのメーカーに対してインドで販売する端末には同様に「パニックボタン」の設置とGPSナビの装備が義務付けられる。

これら2つの機能は、女性の安全を確保するためのもので「パニックボタン」は通常の携帯電話機の場合は「5」と「9」の数字キーを押すことにより緊急コールが発信される。またスマホの場合は電源ボタンを3回連続して押すことによって緊急コールへつながるとのことだ。

2012年12月にデリーで発生したバスでの集団暴行事件は、その後もデモに発展したために日本でもニュースとして大きく取り上げられたので記憶にある人も多いだろう。インドでは女性への暴行事件が今でも社会問題になっている。政府やNGOも解決に向けて様々な取組みを行っているが、決して解決はされていない。そのため女性が緊急時に緊急コールへ発信できるような機能を義務付けるように要請した。

携帯電話・スマホを持てない女性も多い

2014年にはインドで女性に対する事件や犯罪は337,922件もあり、そのうち36,000件が暴行(レイプ)であり、前年から9%も増加している。今回のインドでの携帯電話・スマホへの「パニックボタン」装備は、女性への暴行事件を未然に防ぐことへの一歩にもなるだろう。女性や子供問題を担当する大臣のManeka Gandhi氏は、今回の「パニックボタン」導入の法案成立は大きな前進だと語っている。

しかし、インドではカーストの名残りや制度から、特に地方では女性が携帯電話やスマホを所有できない、所有させてもらえない地域や家もある。インドでは年間に1億台以上もスマホが出荷されていても、その恩恵に与れない女性はまだたくさん存在している。そして本当に弱い立場にいるのは携帯電話やスマホを所有することができない女性である。インドもムンバイやデリーなどの大都市の発展は著しいが、地方に行くといまだに昔と同じ風習、生活習慣が残っているところが多く、地方の社会や文化は簡単に変わりそうには見えない。このような層にも携帯電話やスマホが普及する日は来るのだろうか。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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