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ホロコーストを忘れないために:ネットで追悼キャンドル「過去に光を」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

ナチスドイツ時代のホロコーストでは600万人のユダヤ人やロマ、政治犯らが殺害された。それから70年以上が経ち、当時の生存者も少なくなってきている。アメリカ最大のユダヤ人団体である名誉毀損防止同盟(Anti-Defamation League:ADL)が全世界100か国以上で53,000人以上に調査したところ、ホロコーストを知っているのは54%しかおらず、ホロコーストを知っていると回答したうちの32%はホロコーストは神話であって誇張されすぎているとの結果が出たそうだ。

「Illuminate the Past(過去に光を)」
「Illuminate the Past(過去に光を)」
ホロコーストの犠牲者の名前が表示されてキャンドルが灯される
ホロコーストの犠牲者の名前が表示されてキャンドルが灯される

ただユダヤ人というだけで

600万人以上の犠牲者が出たホロコーストが世界の歴史の記憶から忘却されようとしていることで、非政府組織がホロコースト記念日を記念して「Illuminate the Past(過去に光を)」というサイトを立ち上げた。創設者のStephen Grynberg氏はホロコースト生存者の子供であり、ベラルーシで80人の親戚が殺害された。ベラルーシはナチスとソ連のシステムが重なり合い、影響しあった地域で、熾烈な戦いの場となり、大量殺人の処刑地となった。

そして600万人の犠牲者のうち、15歳以下のユダヤ人の子供たち約100万人がナチスによって殺害されたそうだ。子供たちの殺害はホロコーストの犯した究極の犯罪と言われている。当時のナチスの論理ではイデオロギーの必然として、子供を含めて全てのユダヤ人は根絶やしにされねばならないという観念に立っていた。そのためユダヤ人は子供たちも「国家の安全を脅かすもの」とみなされ、占領初期の段階から、何の罪もないのにユダヤ人の子供は「ただユダヤ人である」という理由だけ未来を封印されてしまった。もちろん子供たちだけでなく大人たちの未来も封印されたが、大人の方が労働力として生き残れる可能性があった。

ネットで追悼キャンドル

「Illuminate the Past(過去に光を)」のサイトは世界中の誰もが無料で利用できる。サイトではホロコースト犠牲者の名前も登録されており、キャンドルで追悼する時、ホロコーストの犠牲者になった個人の名前がランダムに表示され、その人のためにネット上でデジタル・キャンドルを灯して、追悼することができる仕組みだ。キャンドルはネット上で24時間灯されている。例えば登録してキャンドルを灯すと、1929年にオランダで生まれ1942年に殺害されたEster Behr氏の名前が表示された。追悼メッセージを残すこともできる。また追悼キャンドルはSNSでは「I #RememberOne」のハッシュタグで拡散もしており、世界中の多くの人からホロコースト犠牲者の追悼を行ってもらうように促している。

Stephen Grynberg氏は「ホロコーストの犠牲者は家族の誰もいなくなってしまった人も多い。世界中で忘却されつつあるので、世界中で600万人の追悼をネット上でしたい」とのこと。また同氏は2020年までにはホロコースト犠牲者と目撃者もほとんどがいなくなってしまうだろうから、この悲惨な歴史を後世に残していかなければならないと述べている。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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