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Apple、インドでiOSアプリ開発拠点設置へ:インドでiPhoneは売れるのか?

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

Appleは2016年5月18日、インドのバンガロールにiOSのアプリ開発者向け拠点「iOS App Design and Development Accelerator」を設立すると発表した。2017年初頭の開設を目指している。

バンガロールに開発拠点

Appleは2016年にインドの南部ハイデラバードに開発拠点を設置していたが、今回はバンガロールに開発拠点を開設する。バンガロールは10年以上前から「インドのシリコンバレー」と呼ばれており、多く欧米のIT系企業の開発拠点やアウトソース先になっている。但し、ITに強いという共通点以外では、シリコンバレーとは雰囲気や環境もだいぶ違うので、その呼び方に違和感を覚える人が多いのか、最近ではもう「インドのシリコンバレー」とは言われなくなった。

Appleのリリースの中にも、バンガロールでは100万人以上がIT分野で働いており、地元の大学の卒業生の40%以上はエンジニアやIT分野に進んでいるとのこと。実際にはもっといるのではないだろうか。そしてバンガロールだけでなくインドでは人材の流動性も激しく、簡単に転職するので給料が良ければ、良い人材を確保しやすい。Appleはバンガロールの新拠点に2,500万ドル(約27億円)を投資してiOS向けの地図アプリなどの開発拠点とされ、約4,000人が雇用されると報じられている。AppleのCEOのティム・クック氏も「インドはiOS開発において世界でもかなり活気があるコミュニティの1つだ。バンガロールに開設される新たな拠点で、全世界の顧客に向けたイノベーティブなアプリが登場してくるだろう」とコメントした。

かつては「インドのシリコンバレー」と呼ばれていたバンガロール
かつては「インドのシリコンバレー」と呼ばれていたバンガロール
人だけはたくさんいるバンガロール
人だけはたくさんいるバンガロール

クックCEO、モディ首相と面談したが

Appleのティム・クックCEOは2016年5月21日にインドのモディ首相と会談した。インドにおけるAppleの事業拡大や端末の販売拡大の他にモディ首相のアプリなどが話されたそうだ。

ティム・クックCEOと会談するモディ首相 (PMINDIA)
ティム・クックCEOと会談するモディ首相 (PMINDIA)

iPhone中古品のインドへの輸入も却下

2016年5月初めにAppleはインドで中古のiPhoneの輸入を試みようとしたが、インド当局が許可しなかったと報じられていた。インドではモディ首相が主導する「Make in India」という政策があり、これはスマホだけでなくあらゆる分野のプロダクトをインドで生産し販売していこうとしている。中古電子機器にも輸入規制がある、そのため中古品とはいえインドの製造業競争力強化のためにはiPhoneの中古品も例外ではない。クックCEO自らが、バンガロールへの開発拠点設置というお土産を持って来て、モディ首相と対談してもAppleにとって良い方向にいかなかったようだ。

インドでの直営店も頓挫

さらに、インドではインド国内で販売する製品の部品を最低30%をインド国内で製造または調達することが義務付けられている。これは新興国にはよくある規制であり、インドネシアで販売されるスマホにも同様の規制がある。Appleはインドで直営店を建設しようとしたが、Apple製品は30%がインド調達の部品でないということから、インドの財務相Arun Jaitley氏がAppleの小売店営業も認められないという考えを明らかにした。インドでは調達できないような「最先端の技術製品」であれば、この規制が免除されることもあるようだが、Apple製品は例外として認められなかった。「Make in India」の影響で現在インドで出荷されているスマホの3分の2がインドで組み立てられた端末だ。

インドでiPhoenは売れるのか

Appleは2016年1月〜3月期の決算では中国市場での売上26%減が響いて、減収減益だった。なんとしても端末販売増加につなげたいこともあり、そのためには年間で1億台以上が出荷されるインドのスマホ市場は非常に重要であり、Appleとしても無視できない巨大市場だ。

ところがインドのスマホ市場ではシェアの1位はサムスン(約25%)だがそれ以外ではMicromax、Lava、Intexといった地場メーカーが強い。「Make in India」を推進しているインドでは多くの地場のスマホメーカーが登場し、現在約25のインド地場メーカーがスマホを生産、販売している。その地場メーカーに対抗して最近ではLenovoを筆頭に中国メーカーの台頭も目立ってきた。そしてほとんどが100ドル前後のスマホで、中には30ドル〜50ドル程度の格安スマホも出荷されている。そのようなインドではAppleの端末は高すぎて売れない。インドでのAppleのシェアでは2%程度で、上位に名前は出てこない。

中国人のように「見栄を張るためにiPhoneを持つ」という習慣は「実利第一主義」のインド人にはほとんどない。多くのインド人にとってスマホなんてどれでも同じなのだ。スマホでやっていることは電話、WhatsAppのようなメッセージアプリ、FacebookなどのSNS、カメラでの撮影などでAndroidのスマホでもiPhoneでも特に大きな違いはない。そのためスマホがiPhoneである必要はない。中にはまだBlackBerryやNokiaのフィーチャーフォンで十分ということで、それら端末を大切に利用しているインド人も多く見かける。ただインドの格安スマホの品質は決して良くない。まさに「安かろう悪かろう」の端末が多い。そのため高品質のiPhoneがもっと安くなればインドでもっと売れるだろう。

またインドでは新製品のスマホの出荷が減少している。これは数年前に出荷されたスマホが中古品として出回ってきており、中古のスマホを購入する人も多くなってきており、安い中古スマホは10ドル程度でも入手できる。そうなるとiPhoneが中古や旧型製品を投入しても、そう簡単に売れるかどうかは不明だ。そしてAppleの全世界での売上の65%がiPhoneだが、いつまでもAppleも「モノ作り」に依存していられないだろう。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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