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Googleが再参入したい中国市場:人工知能(AI) サービス強化と展開に向けて

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

GoogleのサンダーピチャイCEOは2016年6月1日に開催されたCode Conferenceで「機会があれば中国市場に再参入したい」ことを明らかにした。「Googleは全ての人のためにあり、Googleとしては中国人ユーザーに向けて中国でもサービス提供したい。Googleとしては、正しく、よく考えられた方法で再参入できるなら、いつでもオープンだ」と述べた。

Googleにとって6年の空白市場、中国

Googleは2010年3月まで中国で検索やニュースなど主要なサービスを提供していた。Googleは2010年1月に、Gメールが中国からと思われるサイバー攻撃を受けたことを表明し、検閲を中止することを認めないならば中国市場から撤退検討を示唆しながら中国政府と交渉していた。それでも中国政府がアメリカの一企業の要求に譲歩することはなく、2010年3月22日にGoogleは中国本土からの撤退を表明し、中国からの検索サービスなどは香港のサーバーへリダイレクトするようにしていた。現在の中国ではGoogleが提供しているAndroid OSのスマホは大量に流通しているものの、Googleの主要なサービスは利用できないままだ。中国ではGoogle以外にもFacebookやTwitter、LINEなど利用できない海外のサービスは多い。

Googleの中国市場撤退から6年の時が経ったが、中国では当時からよく使われていた百度や、Weibo、WeChatなど中国の地場のネットサービスが成長し、Googleがなくとも中国にいる中国人の生活には支障をきたすようなことはなくなっている。

人工知能増強へGoogleが欲しい巨大市場中国の情報:広告の次の収入源

そのGoogleは過去にも何回か中国市場への再参入の意欲を示していた。2015年には1年間の売上が745億4,100万ドル(約8兆円)もあったGoogleの売上のうち90%以上が広告収入である。人口13億人以上の中国市場は世界最大であり、そこへのリーチできないことはGoogleとしてもデメリットである。

しかしGoogleとしては広告市場以上に中国市場に再参入して、世界最大の中国市場から多くの情報とデータを集めたいのだろう。Googleの検索やコンテンツなどのサービスを提供することによって、多くの情報を吸い取り、テキストや画像などあらゆる情報やデータを元に人工知能を強化していきたいだろう。Googleのサービスはほとんどが人工知能と直結しているが、それらのサービスの増強のためには、多くの情報、データが必要であり、そのためにも中国市場は無視できないだろう。それらはGoogleの収益の柱の広告にも直結するが、例えばGoogleは人工知能を搭載した自動運転車の開発を行っているが、その際に中国市場の情報や画像データ等がなければ、それらは学習で用いられないので、人工知能に活かされず中国で自動運転車の展開を行うことは難しいだろう。そうなると広告の次の収入源を狙うGoogleとしても中国市場は無視できない。

中国政府も本格的に人工知能開発に乗り出す

中国では政府も主導して人工知能の開発と産業育成に取り組んでいる。中国政府は「インターネットプラス AI 3年計画」を取りまとめ、2018年までに3年間で1,000億人民元(約1兆6,800億円)投資することが報じられた。その中では人工知能(AI)の基礎技術の開発に注力し、人工知能を活用したサービスを推進していくことを明らかにしている。特にスマート家電、自動車、金融サービスに注力し中核企業の養成もしていくとのことだ。中国政府は多額の資金を投じて、人工知能開発と産業育成に本気になって取り組もうとしている。中国で地場の人工知能が発展し、多くのサービスが登場すると、もはやGoogleも人工知能分野でも中国市場に参入することは難しくなってしまう。まだ中国の人工知能開発が初期の段階にGoogleとしては中国市場に再参入して、中国での人工知能サービス展開の足場を作っておきたいところだ。ただ現在の中国のネットサービスや中国政府を見るとGoogleが中国市場に再参入するのは容易ではないだろう。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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