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Facebook、インドで低価格「Express Wi-Fi」試験開始:既にGoogleは無料で提供

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

FacebookがインドでWi-Fiサービスを提供するために2016年8月から現地のISPや通信事業者と提携して地方部を中心に125か所で試験を開始した。

Free Basicが政府によって提供できなくなったインド

Facebookは新興国を中心にまだネットに接続できない人たち約40億人を対象に、誰もがネットにアクセスできる環境を構築する取組み「Internet.org」を通じて行っている。そしてインドだけでなくアフリカや中南米でFacebookは現地の通信事業者と提携して無料でFacebookなどいくつかのサービスにアクセスできる「Free Basic」を提供している。

インドでも現地の通信事業者Relianceと提携して2015年2月から「Free Basic」を提供していた。しかしインドではこの「Free Basic」がネット中立性の観点からインド政府によって2016年2月に中止命令が出されて、提供できなくなってしまった。Facebookなど特定のコンテンツやサービスだけが通信費無料でアクセスできるプランを事業者が提供していることが問題視されたのであって、もちろんデータ通信費がかければ(いわゆる普通のネットでのアクセスであれば)インドでのFacebookへのアクセスは可能だ。現在でも1億人以上のインド人がFacebookを利用している。

Facebookが提供する低価格Wi-Fi「Express Wi-Fi」

広告収入が売上の95%以上を占めているFacebookとしては世界中の多くの人にアクセスしてもらいたい。インドや新興国ではまだネットに接続できない人が非常に多く、全世界でまだ40億人以上がネットに接続できない環境で生活している。FacebookのザッカーバーグCEOも「Internet.org」の取組みを通じて、全世界の人がネットにアクセスできることを目指している。そのために「Free Basic」だけでなくドローンでの通信環境提供などに取り組んでいる。

Facebook自身、インド政府がインドでのデジタル化を推進している「Digital India」を支援していくことを明らかにしていた。そして「Free Basic」を通じてインドでのFacebook利用者拡大を目指していたが「Free Basic」はネット中立性の観点から提供できなくなってしまい、Wi-Fi敷設などのインフラ提供に舵を切った。Facebookは2015年末にも、インドの田舎100か所にWi-Fiを敷設していくことを明らかにしていた。今回Facebookは「Express Wi-Fi」と呼ばれるブロードバンド回線でのWi-FiをインドのISPや通信事業者と提携して提供していくことを表明している。

Facebookが提供しようとしている「Express Wi-Fi」は無料ではなく、低価格のようだがコストがかかるようだ。「人びとが高速で信頼できるネットを購入することができれば、彼らはFacebookのようなニュースや教育、ヘルス、求人情報、エンタメ、コミュニケーションツールにアクセスすることができて世界が広がる」とFacebookは述べている。

インドでは既にGoogleが無料でWi-Fi提供

インドなど新興国ではデータ通信でもプリペイドSIMカードが主流だ。たとえば最初に1GB分の通信料を購入して使ったデータ分に応じてなくなっていく。そして使い切るとまたチャージしていく。そのため通信費には敏感だから、多くの人が無料Wi-Fiスポットを探して、動画閲覧など通信費がかかるコンテンツは無料Wi-Fiが提供されているカフェや大学などからアクセスしていることが多い。アプリのアップデートなどは無料のWi-Fiスポットで行うのがほとんどだ。

そしてインドでは既にGoogleがムンバイなどの主要駅で無料Wi-Fiを提供しており毎月200万人のインド人が利用している。無料だから、データ通信費用を気にせずにアクセスできるので、これだけ多くの人が利用している。

FacebookはGoogleと同じようにインドで多くの人が利用することによって広告収入が増加することと、多くのデータや情報を収集して人工知能の開発や強化に役立てばいい。通信費用を徴収して通信事業者になろうとしているわけではない。Facebookが提供する「Express Wi-Fi」が低価格だとしても有料で提供されることは、相当な差別化要素がない限り利用されにくい。インドではGoogleが既に無料Wi-Fiを提供しており、多くのインド人に利用されているのであれば、同じことをFacebookが有料でやっても優位性はない。

Googleが提供するインフラを利用してFacebookにアクセスしてもらい、そこから広告収入増に繋げた方が手っ取り早いだろう。SNSではFacebookの方が圧倒的にGoogleよりも優位性がある。通信インフラの提供はGoogleや現地通信事業者に任せて、Facebookはもっと違う施策でインド市場を開拓していった方がいいのではないだろうか。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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