Yahoo!ニュース

ドイツ当局、ヘイトスピーチ投稿を削除しないFacebookのザッカーバーグCEOら10人を捜査

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

ドイツのミュンヘンの検察当局は、Facebookがヘイトスピーチなどの投稿を削除しなかったということで同社CEOのザッカーバーグ氏らの捜査を開始したそうだ。

ヘイトスピーチを放置

Facebookが暴力的な表現、ヘイトスピーチ、テロを支援する内容、さらにはホロコーストを否定するような投稿を削除しなかったという理由で2016年9月にFacebookを刑事告発した弁護士が明らかにしたところによると、今回ミュンヘンの検察当局はザッカーバーグCEOを含む経営陣10人の捜査を開始したそうだ。

弁護士によると、法律に違反するような投稿438件をFacebookに削除通報をしたにも関わらず、削除されなかったとのこと。ドイツでは、ヘイトスピーチは刑法上の犯罪で、最長で禁錮3年の実刑が科せられる。

ドイツで急増する移民とヘイトスピーチ

ドイツでは2015年に入ってから特にシリア、アフガニスタンからの難民が急増しており、2015年だけで110万人以上の難民・移民がドイツに流入している。それにともなって昨年からFacebookには大量のヘイトスピーチに関する書き込みが急増している。2015年10月にも人種差別や民族憎悪を扇動したとしてドイツのハンブルグの検察当局がFacebookの捜査していると報じられた。この時はドイツ人マネージャー3人が対象だったが、今回はCEOのザッカーバーグまで含まれている。また、2015年12月にはドイツ北部のハンブルクにあるFacebookの事務所が約15~20人の集団に襲撃された。そして壁に「Facebook Dislike(フェイスブック、よくないね)」と落書きされた。また石や発砲弾でガラスも割られたそうだ。ヘイトスピーチや人種差差別発言のプラットフォームになっているFacebookへの怒りの矛先が向かった。

メルケル首相も2015年9月にFacebookに対して、ヘイトスピーチ、人種差別発言の投稿について対応の強化を促していた。そしてFacebookはドイツ政府と協力してネット上でのヘイトスピーチ、人種差別発言に対して削除などを行っていくことを表明、「24時間以内にヘイトスピーチなどの投稿は削除する」ことで合意していた。

ドイツ、ネットで共有される日常の不安や不満

第二次大戦中にナチスによるユダヤ人やロマの迫害から、ドイツでは難民・移民に対して寛大であり、受け入れる経済的余力も他のヨーロッパ諸国よりはあるが、このような難民・移民の存在に不安や不満を感じるドイツ人も多い。またドイツ人だけでなく、以前にドイツにやってきた中東やアフリカからの移民らは、自分たちの仕事を新たに来た移民や難民に奪われるのではないかという不安を持っている人も多い。新たに来た移民や難民は生活基盤の安定のために仕事が欲しいから、安い賃金でもいいから働きたいと思っているので、以前からドイツにいた移民らにとっても脅威である。

また、2015年12月31日、ケルンでは若い男性集団が女性たちを取り囲んで金品強奪や性的暴行事件が650件以上も発生した。被害に遭ったと警察に届け出た女性は600人以上に達した。加害者には難民申請者が多いことから、大聖堂でお馴染みのケルンの街で新年を祝うためのお祭りが、ドイツ史上に名を残すような大事件になってしまった。この事件以降、ドイツ人の移民に対する怒りや不満は減少していない。彼らの怒りや不平不満の捌け口としてFacebookなどのソーシャルメディアが活用されており、ドイツでのヘイトスピーチ関連の投稿は1年で112%増加した。

どこまでがヘイトスピーチか、難しい線引き

そしてヘイトスピーチの意識がなくとも、移民増加に対する日常の不安、不満をネット上に書き込み、それに同調する人も多く、それらの書き込みは、あっという間に拡散されていく。「日常の不平不満」は表現の自由の領域かもしれない。どこからが「ヘイトスピーチ」で、どこまでが「日常の不平不満」なのか。その線引きがこれからは難しくなってくる。

ドイツ法務大臣Heiko Maas氏によるとFacebookに投稿された違法な発言のうち46%しか削除されていないとのことだが、Facebookは今回の報道に対して、「ドイツの法律に違反することは一切ない」とコメントしている。

技術やサービスの発展による情報伝達のスピードとそのプラットフォームやツールの充実は、ホロコーストで多くのユダヤ人が迫害され600万人以上が虐殺されたナチス時代とは比べ物にならない。そして70年以上経った現在、ホロコースト否定の投稿を削除しないという理由で、ユダヤ人のザッカーバーグ氏が捜査されている。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

佐藤仁の最近の記事