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Apple、インドで工場設置に向けて政府と協議:今さらインドでiPhoneが必要か

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

Appleがインドで工場を設置していこうとインド政府と協議していると2016年12月20日に報じられた。Appleは正式なコメントはしていないが、インドでのiPhoneの生産と現地での販売増を狙っているようだ。そのための優遇措置をインド政府に求めていると報じられている。AppleのクックCEOは2016年5月にもインドでモディ首相と会談してインド進出について階段を行っている。インドではモディ首相のイニシアティブで「Make in India」のスローガンのもと、あらゆる産業のインドでの生産、それに伴う雇用創出などを推進している。

Make in India
Make in India

インドでは「高値の花」iPhone

人口12億人以上のインドでは年間に1億台以上のスマホが出荷されている。さらに中古端末も大量に流通している。都市部ではほとんどの人がスマホを所有している。だが、そのほとんどはAndroidだ。もちろん、一部の金持ちなどがiPhoneを利用していることもあるが、iPhoneのシェアは数パーセント程度しかない。日本ではスマホのほとんどがiPhoneだが、インド人はそこまでiPhoneに強い関心もない。

出荷のシェアではサムスンが多いが、他にも中国メーカーが多数進出している。さらにMicromaxやLavaなどインドの地場スマホメーカーも多数存在している。もはや各社での機能面での差別化を出すことが難しくなってきている。ブランド力、知名度向上のためのマーケティング投資もかさみ、さらに端末は価格勝負にもなってきており、メーカーにとっては非常に競争が激しい市場だ。そして多くのインド人がスマホを持つようになったのも、価格が安くなってきたからで、多くが100ドル~150ドル前後だ。中古のスマホは20~50ドルでも入手できる。

台湾Acerもインドのスマホ市場から撤退

そのため台湾のAcerはインド市場から撤退を表明している。スマホがここまで普及する前の2010年からインド市場に進出していたAcerだが、中国の新興メーカーが多数インド市場に進出してきたことや、地場メーカーの急速な台頭に競争力を失い、2016年にはインドで3万台程度しかスマホが売れてない。中国Xiaomiが2016年7月~9月の3か月間だけで300万台も販売したのと大きな差で、今後Acerとしてインド市場で挽回する見込みがないと判断したことから撤退を決定。

Appleは全世界で同じ価格でiPhoneを販売している。インドでもアメリカでも日本でもそのポリシーを変えない。そうなるとインドでは500ドル~800ドル以上するようなiPhoneは超高級端末だ。そのインドで今さらにAppleが工場を設置してiPhoneを積極的に販売しても一部の金持ちは購入するだろうが、多くのインド人にとっては「高嶺の花」のままだ。

(インドでの2016年第3四半期のスマホ出荷メーカー別シェア)

1位:サムスン(韓国)23.0%

2位:Lenovo(中国)9.6%

3位:Micromax(インド)7.5%

4位:Xiaomi(中国)7.4%

5位:Reliance Jio(インド)7.0%

その他 45.5%  (IDC India発表)

実利主義の新興国、スマホは価格勝負

そしてiPhoneであれ、他のAndroidのスマホであれ「できる機能」は同じだ。電話やショートメッセージのほか、FacebookやTwitterなどのSNS、YouTubeなどの動画視聴、WhatsAppなどのメッセージ、ゲームなど、どのアプリも「iPhoneでしかできないもの」や「Androidでしかできないもの」はない。どのスマホであっても基本的には同じだ。Appleは世界規模でブランド力はあるので、インドでも知名度は高いが、インド人は実利主義的だから、ブランドよりもカメラや画像フォルダなどの使い勝手やユーザーエクスペリエンスを重視する傾向が強い。いまだにBlackBerryに拘りを持って使い続けている人もいる。日本人のように「みんながiPhoneだからiPhoneを買う」ということも少ない。

Appleの売上のほとんどはアメリカ、日本、欧州の先進国、中国だ。だが、これからはAppleもインドなどの新興国市場向けの廉価なスマホを製造しないとやっていけなくなり、いつまでも高価なiPhoneだけに固執していられる時代ではなくなるかもしれない。だが、廉価なスマホは機能や品質で差別化が難しいのでAppleらしさを出せない。

コモディティ化した廉価なスマホは既にインドなどの新興国には大量に存在している。廉価なスマホが主流な新興国市場ではAppleもかなり後発となるので、決して安泰ではない。むしろiPhoneのようなスマホ端末に特化しないで、インドのような新興国市場ではまだ地場のスマホメーカーも進出していない領域で、簡単に進出できない自動運転や人工知能など新たな分野で進出した方が勝算があるのではないだろうか。

▼Appleの2016年Q4(7~9月)の地域別での売上高とシェアの推移

(Apple決算資料を元に作成)
(Apple決算資料を元に作成)

▼製品別での出荷台数、売上高および売上高に占めるシェア

(Apple決算資料を元に作成)
(Apple決算資料を元に作成)
学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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