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Google「ホロコースト」を検索すると「ホロコースト否定サイト」の上位表示を変更へ

佐藤仁学術研究員・著述家
ポーランド・ワルシャワのゲットー(1941年)(写真:Rex Features/アフロ)

第2次大戦時にナチスドイツによってユダヤ人やロマなど600万人以上が殺害されたホロコースト。日本人が差別、迫害の標的にはならなかったことから日本では話題になることは多くないが、欧米では今でも重要な歴史問題として扱われることが多い。

Google検索で「ホロコースト否定」が上位に表示

そして、Googleで「ホロコースト」を検索すると「ホロコースト否定」の記事が上位に表示されていることに対して、2016年12月にイギリスにGuardianなど主要なメディアがいっせいに問題提起を始めた。

たしかに「did the Holocaust happen・・」と英語でGoogleで検索すると、トップに表示されるのが「Top 10 reasons why the holocaust didn't happen(ホロコーストは発生していなかった10の理由)というサイトで、次いで「ホロコースト否定を説明するWikipedia」「ホロコーストなんてでっち上げ」と明らかにホロコースト否定のサイトが続いていた。

(Google検索)
(Google検索)

あまりにも多くのメディアが取り上げたことから、Googleも2016年12月20日、検索のアルゴリズムを見直すことを明らかにした。「信頼できない情報」を検索上位に表示しないようにし、「高品質で信頼性の高い情報」を上位に表示していくとのことだ。Googleは「1つの検索ワードに対して、どのページが最良の答えなのかを判断することは難しいし、Googleでも常に正しい判断で表示できるわけではない。だが信頼できない情報が上位に表示され続けるのであれば、手作業で1つ1つそれらのサイトを除外することはできないので、自動化されたアプローチで対応していく」と述べている。

かなり多いホロコースト否定や正当化のサイト

1980年代以降、多くのヨーロッパ諸国でホロコースト否定を規定する法律を制定、施行された。「ホロコーストなどなかった」と発言しただけで罰せられるようになった。だが、ホロコースト否定、ホロコーストの賛美、正当化、是認は根強い反ユダヤ主義に支えられて、第2次大戦が終結した直後から欧米では顕在化していた。そして現在でも続いており、特にネットではホロコーストの正当化、ホロコースト否定に関するサイトは多々存在しており、それら全ての主義主張の効果を査定して、取り締まるのは困難だ。

今回のGoogle検索で表示されていた上位サイトは明らかに「ホロコースト否定」が露骨だが、現在でも多くのホロコースト否定を擁護する反ユダヤ主義的傾向を持つサイトは世界中に多数存在している。さらに最近では急増する難民・移民への嫌悪感からレイシズム、ネオナチ、極右的なサイトも非常に多く、その主張はホロコースト正当化と通底していることが多い。

Googleで検索すると上位に表示されたサイトにしかアクセスしないことがほとんどなので、多くの人が「ホロコースト」を検索すると「ホロコーストなんてなかった」というサイトばかりを見てしまい、「ホロコーストなんてなかったんだ」と思い込んでしまうかもしれない。そしてGoogleで「ホロコースト否定」が上位に表示されていたのも、それらのサイトが検索結果で上位に表示されるためのSEO対策(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)をしっかりとしていたこともあるが、世界中の多くの人が、「ホロコースト」という単語を検索して「ホロコースト否定」のサイトにアクセスしていたからだろう。

なお、2015年9月にはGoogle検索で「Who runs Hollywood?(ハリウッドを仕切ってるのは誰?)」と検索すると「Jews(ユダヤ人)」との回答結果が表示されていたことも、指摘を受けて訂正した。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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