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宮城県での「ポケモンGo」経済効果20億円:次はスマホに頼らない観光客誘致へ

佐藤仁学術研究員・著述家
宮城県の村井知事から「みやぎ絆大使」に任命されたチーム8佐藤朱 (C)AKS

宮城県は2016年12月19日に「ポケモンGo」を活用したイベント企画での経済効果を発表した。

2016年11月12日に開催された石巻市のイベント「ポケストップ追加企画 Explore Miyagi」には1万人が来場と、11月11日から21日までの11日間で石巻市全体に約10万人の観光客が訪れた。これによる概算観光消費額が約20億円以上と発表した。10万人で20億円だから1人あたり約2万円の消費だから観光誘致の経済効果としては妥当な数字だ。希少ポケモン「ラプラス」が大量出現する特別施策も功を奏したのだろう。

河北新報では10万人の観光客と経済効果の内訳を以下のように出している。

10万人の内訳は県内が7万人(日帰り客6万5000人)、県外の宿泊客が3万人。飲食代や交通費、宿泊料などの直接効果は12億4800万円に上った。

各産業への波及効果は7億4600万円に達し、計19億9400万円がもたらされた。県が試算したサッカー、J1仙台の2015年県内経済効果(22億円)に匹敵する規模となる。

県観光課の担当者は「想定を上回る大きな反響があった。多くの人に被災地の現状を見てもらう機会につながった」と分析した。県はポケモンGOの関連事業費として本年度一般会計補正予算で3000万円を計上。今後、ゲーム上でアイテムを入手できる「ポケストップ」を示した被災地周遊マップを作製する。

出典:河北新報(2016年12月20日)

一方で、地元住民からは突然の10万人の観光客が大挙してきたことに、困惑と怒りの声も上がっていたようだ。想像できる光景だ。2016年夏に「ポケモンGo」がリリースされた直後も、深夜の公園などに多くの人が集まり、周辺住民は何ごとかと困惑した。

石巻市では12日以降、多くの来訪客が街中を巡る一方で、市民から「一方通行の道路を逆走する車がいる」「私有地に無断で入っている」などの苦情が出ている。狭い道路に一気に集まった愛好者らで、車の通行に支障が出るケースも生じている。

県観光課は19日、職員らが石巻駅前で、歩きながらのスマホ操作、信号無視、路上駐車などをしないよう記したちらしを配布。注意を喚起する宣伝カーも市内で走らせた。

出典:河北新報(2016年11月20日)

▼東北でのイベントに向けた「ポケモンGo」のTwitterでの告知

スマホに頼らない観光客誘致へ

「ポケモンGo」をトリガーとして11日間で10万人が宮城県石巻市を訪問して、約20億円の経済効果があった。宮城県では今後も継続的にイベントを開催していきたい意向を示しているとの報道もある。たしかに20億円の経済効果は一時的には大きな収入だが、継続的に開催してもまた宮城県に来るだろうか。例えば同じような施策を他の県で開催したら、そちらの方にユーザーは行ってしまう可能性が高い。

「ポケモンGo」をやるためだけに来た人がどれだけリピーターとして再び宮城県を訪問してくれるかが次の課題だ。たしかに「ポケモンGo」の経済効果は大きかったが、「ポケモンGo」のバブルが何回もやって来ることは期待しない方が良いだろう。さらにバブル的に観光客が大挙してやってくることを望まない地元住民の日常生活とのバランスも求められる。そもそも観光地としての魅力が高ければ「ポケモンGo」がなくても多くの観光客が自らやってくる。これは宮城県だけでなく他の場所でもあてはまる。

宮城県の村井嘉浩知事は2016年12月18日に東京国際フォーラムで行われていた「第2回 いいね!地方の暮らしフェア」で、AKB48チーム8の宮城県代表の佐藤朱さんをサプライズで「みやぎ絆大使」に任命した。

宮城県の「みやぎ絆大使」は宮城県民に復興への希望と活力を与えていくとともに「ふるさと宮城」の魅力をアピール、全国に情報発信していくために「宮城県にゆかりのある方々」が各界から選ばれている。佐藤朱さんの他には、楽天の三木谷社長、野球の星野仙一氏、俳優の中村雅俊氏など様々なジャンルの著名人89人がそれぞれ宮城県のアピールを積極的に行っている。

「ポケモンGo」などスマホのゲームに頼らなくても「行って見たい」と思わせるように、日頃から「地元の良さ」を全国に伝えていくアピールは大切だ。「みやぎ絆大使」のような「地元のことを理解している」地方の観光大使による、全国での地道な情報発信は地方創生と地域の活性化にとってかなり重要な役割を果たしている。宮城県の「ポケモンGo」の次の観光客誘致の一手は何だろうか。

「宮城県の素晴らしさを日本全国に、もっともっと発信していけるように精一杯務めさせていただきます!」と抱負を語る89人目の「みやぎ絆大使」に任命されたチーム8佐藤朱 (C)AKS
「宮城県の素晴らしさを日本全国に、もっともっと発信していけるように精一杯務めさせていただきます!」と抱負を語る89人目の「みやぎ絆大使」に任命されたチーム8佐藤朱 (C)AKS
学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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