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機能性が高い「健康食品」は安全性が低く、安全性が高い「健康食品」は効き目が低い、と考えよう!

佐藤達夫食生活ジャーナリスト

■食品安全委員会を買いかぶっていたようだ

冒頭からお詫びをしなければならない。私は6月13日のこの欄で、食品安全委員会と消費者庁が、いわゆる「健康食品」と「いわゆる健康食品」との使い分けをするようになった。これは健康書品を「いい健康食品」と「悪い健康食品」とに分類しようとしているのではないか、とも書いた。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/satotatsuo/20150613-00046626/

しかし、これはどうも違うようだ。その後の資料を見ると、両者とも、意識的に使い分けてはいないことがわかる(つまり混在してある)。私の勘違い(買いかぶり?)だったらしい。ただし、健康食品を「いいもの」と「悪いもの」に分類しようとしていることは、どうも、確かなようだ。

さて、前置きが長くなったが、ここからがきょうのコラム。6月22日、食品安全委員会は「いわゆる『健康食品』に関する検討ワーキンググループ(第1回)」を開催した。文字通り、健康食品の「安全性」を検討していこうという食品安全委員会らしいワーキンググループだ(いうまでもないが、健康食品の「有効性」は、ここでは問わない)。

私は、「こと食品の安全性に関しては、少なくともわが国では食品安全委員会の評価が最も信頼がおける」と確信している。しかし「食品安全」以外のことに関しては、どうも食品安全委員会は不得意のようだ。

今回も会議の冒頭で、「いわゆる健康食品」の安全性を審議するにあたって、「まず『健康食品』とは何か」を定義することになった。当然の進め方であろう。座長に選任された脇昌子氏(静岡市立静岡病院副院長)は「ここはスンナリ決めてすぐに本題に入りたい」と考えていたようなのだが、予想外に手間取った。

■チラリとでも「健康にいいこと」を臭わせればそれは「健康食品」

食品安全委員会には本委員会の下(?)に専門調査会が設けられている(下記参照)。各専門委員会にはその道の専門家(学者)が集い、慎重にそして長時間をかけて、評価・審議を行なっている。

http://www.fsc.go.jp/senmon/

この「いわゆる『健康食品』に関する検討ワーキンググループ」の委員も、薬学系を中心に、医学系、農学系の専門家(学者)がずらりと並んでいる。本題(安全性の健康)に入れば、こんなに心強いメンバーはいなかろう。しかし、この専門家の方たちは「そもそも健康食品とは何か」というような、一般市民に寄り添った議論は不得意のようである。

議論がどうしても「中へ中へ」と入っていってしまう。多くの委員が「自分の得意分野の話」をし始めるのだ。たとえば「形状で考えると錠剤やタブレット状の物が対象となるでしょうか」という問いかけをすると「タブレット状の食品の安全性に関しては、こうこうこういう研究があります。タブレット状の食品の摂取には気をつける必要があります」などという委員が出てくる。

また、「一般的には加工食品を対象とすべきだと考えますが、生鮮食品などはどうすべきでしょうか」という質問に対して「生鮮食品に含まれる成分であっても様々な機能性を有するので、大量に摂取すれば有害になる可能性も否定できないという研究がこのくらいあります」などという知識を披露する委員もいた。

結局「何をもって『健康食品』とするか」という議論が一向に深まらないままに、第1回の検討会は終了した。これを事務局がまとめるのだろうか?第2回が楽しみだ。

私は、どんな形状をしていようが、生鮮食品であろうが加工食品であろうが、大量に食べる物であろうが滅多に食べない物であろうが、飲料であろうが、お菓子であろうが、ひと言でも「健康にいい」旨を標榜したら、それはすべからく「いわゆる健康食品」として、このワーキンググループで取り上げてもらいたいと思う。

「健康にいい」とは書いてなくとも、身体や臓器の名が書いてあればそれは「いわゆる健康食品」に含まれる。これらを推測させる表現であっても同様だと考える。(ただし薬事法の範疇に入るものは除く)。いかがだろうか。

■効くものはリスクが高く、安全なものは効かない

「健康食品とは何か」が定まらないうちに様々な議論が進んだ(進んでしまった?)おかげで、一つ面白いことが明らかになった。

それは「機能性と安全性は逆相関にある」ということ。これは「いわゆる健康食品」だけに限って言えることではなく、ヒトの体内に入ってくる物質すべて(医薬品をも含めて)に当てはまる大原則だ。ヒトの生体に「作用」する成分は、すべからく「副作用」を有する。

よい「作用」がきわめて大きく、悪い「副作用」がきわめて小さい、と科学的に証明された物質が「医薬品」として認められている。もちろん「いわゆる健康食品」もこの原則から外れることはない。機能性が大きいものは危険性も大きく、安全性が高いものは機能性が低い。

乱暴にいえば「効くものはリスクも高く、安全なものは効かない」と考えていいだろう。

食品安全委員会の「いわゆる『健康食品』に関する検討ワーキンググループ」の議論では「この場では機能性については議論しない。安全性についてのみ評価する」ことが確認された。これは当然のことではあるが、情報の発信の仕方によっては誤解も招く。

多くの消費者はこのこと(食品安全委員会は機能性は問わず安全性だけを評価している)を理解できていない。仮に食品安全委員会がある健康食品を「安全性には問題がない」と評価してそれを発表したとする。すると消費者はその食品を「安全でかつ機能性も高い健康食品」と理解する。食品安全委員会は情報発信に細心の注意を払ってほしい。

かといってまさか「この健康食品は安全です。つまり機能性効果も低いでしょう」などと発表するわけにもいかないだろう。ここは、消費者である私たちが「この健康食品は食品安全委員会が安全だと発表したんだから、マァ効かないだろう」とかってに決めつけるしかなさそうだ。

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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