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健康食品の謳い文句である「食品だから安全です」というフレーズに科学的根拠はない

佐藤達夫食生活ジャーナリスト
(写真:アフロ)

■主として、カプセル状や錠剤状の健康食品の安全性を検討する

機能性表示食品制度のスタートを受けて(?)、食品安全委員会が「いわゆる『健康食品』に関する検討ワーキンググループ(WG)」を立ち上げたことは、7月3日のこの日記で取り上げた。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/satotatsuo/20150703-00047213/

7月27日に同WGの第2回検討会が開催された。第1回の報告では、いわゆる「健康食品」の定義に手間取り、検討会の「今後」が心配された(私が心配した)。「食品安全委員会はこのテの検討は不得意なようだ」とも書いた。しかし、これは私の杞憂だったようだ。

第2回で「中身の検討」に入った途端、議論は充実し、面白くなった。各委員も「得意分野」になるやいなや、それぞれの持ち味を発揮して、内容が深まっていく(大したモノだと感心)。

前回あまりスッキリとしなかった「健康食品とは何か」という定義については、あまり厳密に定義するのではなく、「健康の維持・増進に役立つとして販売・利用されている食品」と包括的にくくったようだ(生鮮食品も排除しない)。ただし、この検討WGでは、その中でもとりわけ安全性の懸念が起きやすいと危惧されるカプセル状や錠剤状の「健康食品」を、主として取り上げる、こととなった。

■食品の安全性は食べる量と食べ方によって決まってくる

基本方針が決まって、実際の検討に入る段階で、さすが「食品安全委員会」と思わせる議論が相次いだ。いわゆる「健康食品」の安全性を考える(初期の)過程で、「そもそも食品の安全性とは?」という議論が深まってきたのだ。

まず、たびたびお伝えしてあるとおり、この検討WGでは「食品の有効性」は問わず、安全性に限って議論する。このことを明確にしておかないと、この検討WGで「OK」が出された健康食品が「何かに効く」と誤解されかねないからだ。消費者としては、今後、この検討WGが安全性を認めても、それは「健康を害しない」ことを保証はしても、「病気を予防したり健康を改善したりするわけではない」ということを知っておかなくてはならない。

いわゆる健康食品の謳い文句として「食品だから安全です」というフレーズがよく使われる。これに関しても、この検討WGなりの考え方が示された。それは「食品だから安全である、ということはない」という見解だ。

そもそも食品は、元々は他の生物の身体(とその加工品)なのだから、多種多様な成分が含まれている。それらのすべてについて「いくら大量に摂取しても安全である」という事実はない。「適量を摂取すれば健康を害さない」ということが、科学的に(あるいは長い食経験上)示されているにすぎない。逆にいえば「どんな食品であっても、過剰に摂取すれば健康を害する危険性を持っている」ということだ。

食べ物は「そもそも安全」なのではなく、食べる量と食べ方を工夫することによって、「安全の範囲内で摂取する」術を、私たちが実践しているにすぎない。食経験が充分ではなく、適正な「量」と「食べ方」が科学的にきちんと提供されているわけではない健康食品に関しては、「食品だから安全」などという安易な対応をすべきではないだろう。

ましてや、成分が凝縮されている可能性がきわめて高く、かつ、その形状ゆえに「過剰に摂取される危険性」をも含んでいるカプセル状あるいは錠剤状の健康食品に関しては、慎重の上にも慎重に検討が行わなければならないだろう。そういう意味では、この検討WGに期待するところはとても大きい。

■健康食品との付きあいを勧めるわけではないが、無視することもできず・・・

現時点では、残念ながら健康食品は医薬品に比べて「品質管理」がキチンとできてない物が多い。カプセル状あるいは錠剤状をしていても(つまりは医薬品のように見えても)医薬品とは異なり、有効性も安全性も確かめられていないさまざまな物質(夾雑物)が含まれていることが多い。そのため、たとえ主成分の安全性がそれなりに確かめられてはいても、夾雑物のそれが確かめられてない危険性が排除できない。

しかも、医薬品のように品質管理が法律(薬事法)で厳密には定められてはいないため、何が入っているかが確かめられないケースも多々ある。メーカーの「企業秘密」ということになれば、第三者には知るよしもない。たとえ食品安全委員会であっても、メーカーに「原料のすべてを明らかにせよ」という権利はない。

そのため、仮に今後、いわゆる健康食品で健康被害が出たとしても、その原因物質を正確に突き止めるには、きわめて困難が伴うだろうということが、今回、検討WGの見解として示された。

消費者はいわゆる健康食品を用いる(飲食する)場合には、このことを自己責任として認識しておく必要がある。

これらのことを含めて考えたときに、食品安全委員会の検討WGとしての「悩み」があぶり出されたのではないだろうか。それは、食品安全委員会としての「対健康食品とのスタンス」をどう設定するか、である。

検討WGの「論点」の中に「健康食品と安全に付きあうために留意すべき事項」という項目がある。これを見る限り、食品安全委員会としては「健康食品を利用することが大前提であり、その際の安全情報を提供する」というスタンスだととれる。しかし、今回の検討会の議論を聞いていると「健康食品と付きあう必要などないのではないか」と考えている委員が少なからず見受けられた。

健康食品との「付きあい」を勧めるわけではけっしてなく、かといって多くの消費者がすでに「付きあっている」という現状を無視することもできず・・・、さぞかし悩ましかろう。

今後、このあたりをどう処理するのか、見守りたい。

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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