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9割の漁業者が資源管理を実施しているにもかかわらず資源は減り続けている。真価が問われるのはこれから。

佐藤達夫食生活ジャーナリスト
(写真:アフロ)

■漁業資源が減っているのは「自然環境の変化」によるものなのか?

日本の農業や畜産業は、TPPで揺れに揺れている。同じく第1次産業である水産業もキビシイ状況は同じ。だが、キビシイ「中身」には異なるところも、もちろん、ある。

水産庁は、毎年、水産の動向(いわゆる『水産白書』)を発表している。平成26年度水産白書は5月22日に公表された。10月26日、水産ジャーナリストの会では、水産庁漁政部企画課長・菅家秀人氏を講師に、『水産白書』を資料として研究会を開催した。研究会のタイトル「水産資源管理・入門編~日本の水産資源の現状と課題~」からも推察できるように、水産業界の最大の課題は「減少し続ける水産資源の管理」にある。

『水産白書』によると、日本の漁船漁業生産量(養殖を除く)は、平成に入って急激に減少した。主たる理由は、大規模流し網漁の禁止や、TAC制度(後述)の導入によって、公海における漁獲制限が取り入れられたからである。ただし、ここ数年は、それらの成果が現れた結果を反映してか、漁船漁業生産量の大幅な減少は見られなくなっている(低値安定?)。

加えて、養殖業の生産量が少しずつ増加しているために、国内の漁業生産量は横バイ状態に入っている。

そのせいだろうか? 今年の(例年の、なのだが)『水産白書』には、資源管理に対する危機感が感ぜられない(これは私だけの印象かもしれないので、興味のある人は水産庁のホームページ=下記をご覧いただきたい)。

http://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h26/index.html

漁業資源が変動する理由として、白書には「人間による漁獲や開発行為等の人間の活動だけではなく、水温や海流及び餌等の自然環境によるものも大きく・・・」と書かれてある。それはその通りなのだが、いかにも「他人事」のようである。「変動する」理由は自然環境の影響を受けるであろうが、「減少する」理由の多くは人間の活動によるところが大なのではないか。少なくとも「減少を食い止める」のは人間の活動しかないので、『水産白書』はその点に、より深く踏み込むべきであろう。

■制度が立派でも、実行されなければ効果は出ない

資源管理と聞いて、多くの人が最初に思い浮かべるのは「石油資源」ではないだろうか。地球の石油資源は使い続ければ必ず枯渇する。いかに節約するか、他の資源をどのように併用していくかが、つねに課題となる。

これに対して水産資源は「再生産可能]な点が、石油資源とは決定的に異なる。このため、水産資源の管理は「いかに節約するか」と同時に「どのように再生するか」の2方向から検討しなければならない。そこで登場したのがTAC(Total Allowable Catch:漁獲可能量)制度である。

TACというのは文字通り、魚種ごとに「獲ってもいい量」を制限する制度。従来、漁業においては「獲れるだけ獲る」という慣習が根強くあったが、平成9年に日本もTACを取り入れたことにより、日本の漁獲量は減少した。同時に資源保護が進んだと考えられている。

しかし、さらなる資源管理の観点から、総枠管理であるTACから、漁業者ごとにあるいは漁船ごとに漁獲枠を厳しく割り当てるIQ(Import Quota:個別割当方式)、そして個別漁獲枠の委譲を認めるITQ(Individual Transferable Quota:譲渡可能個別割当方式)への移行を検討し、一部ではすでに実施している。

しかし、『水産白書』では、IQおよびITQを導入すれば日本の水産資源問題が解決するとは書かれていない。水産資源管理はそれほど単純ではないし、制度を取り入れても「それが守られるかどうか」は別問題だからである。

事実、日本の漁業者の9割が何らかの資源管理を実施しているという調査結果が『水産白書』には掲載されている。漁業者が、昔のように「獲り放題をするから資源が枯渇する」という状況ではないのだ。にもかかわらず、日本の水産資源管理は思うようには進んでいない。

これからは、ただ資源管理をすればいい、ということではない。「獲りすぎたら魚がいなくなる」という程度の資源管理なら、すでに江戸時代から行われていた。そういうことではなく、「どういう種類の管理を」「どのレベルで実施するか」という、「質」と「量」の両面からの真剣な取り組みが必要な段階に入ったのだ。行政そして生産者にとって、これから真価が問われることになる。

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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