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食品安全委員会が発表した「いわゆる健康食品に関するメッセージ」に感ずる違和感。

佐藤達夫食生活ジャーナリスト
(写真:アフロ)

■健康食品をとる人にはぜひ読んでもらいたい19項目

12月8日に東京都港区で食品安全委員会第587回会合が開催された。議事次第は下記の通り。

(1)農薬専門調査会における審議結果について

(2)動物医薬専門調査会における審議結果について

(3)遺伝子組換え食品等専門調査会における審議結果について

(4)食品安全基本法第24条の規定に基づく委員会の意見について

(5)いわゆる「健康食品」に関する検討ワーキンググループにおける審議結果について

(6)平成28年度食品安全モニターの募集について

議事は、いつもの食品安全委員会と同様、冷静に・科学的に・真摯に報告されそして審議された。それぞれの詳細については食品安全委員会のホームページ(下記)に掲載されるのでご覧いただきたい。

http://www.fsc.go.jp/

委員会のあと、別室で(5)いわゆる「健康食品」に関する検討ワーキンググループにおける審議結果について、の記者会見が行なわれた。ここではこちらの報告をしたい。

6月13日のこのコラムに書いたように(下記)、食品安全委員会はいわゆる健康食品の安全性についてワーキンググループを作って検討を重ねてきた。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/satotatsuo/20150613-00046626/

その結果をホームページ上に公開した。詳細は下記をご覧いただきたい。食品安全委員会からの「メッセージ」として19の項目が提示された。

http://www.fsc.go.jp/osirase/kenkosyokuhin.html

1:「食品」でも安全とは限りません。

2:「食品」だからたくさん摂っても大丈夫と考えてはいけません。

3:同じ食品や食品成分を長く続けて摂った場合の安全性は正確にはわかっていません。

4:「健康食品」として販売されているからといって安全ということではありません。

5:「天然」「自然」「ナチュラル」などのうたい文句は「安全」を連想させますが、科学的には「安全」を意味するものではありません。

6:「健康食品」として販売されている「無承認無許可医薬品」に注意してください。

7:通常の食品と異なる形態の「健康食品」に注意してください。

8:ビタミンやミネラルのサプリメントによる過剰摂取のリスクに注意してください。

9:「健康食品」は、医薬品並みの品質管理がなされているものではありません。

10:「健康食品」は、多くの場合が「健康な人」を対象にしています。高齢者、子ども、妊婦、病気の人が「健康食品」を摂ることには注意が必要です。

11:病気の人が摂るとかえって病状を悪化させる「健康食品」があります。

12:治療のため医薬品を服用している場合は「健康食品」を併せて摂ることについては医師・薬剤師のアドバイスを受けてください。

13:「健康食品」は薬の代わりにはならないので医薬品の服用を止めてはいけません。

14:ダイエットや筋力増強効果を期待させる食品には、特に注意してください。

15:「健康寿命の延伸(元気で長生き)」の効果を実証されている食品はありません。

16:知っていると思っている健康情報は、本当に(科学的に)正しいものですか。情報がたしかなものであるかどうかを見極めて、摂るかどうか判断してください。

17:「健康食品」を摂るかどうかの選択は「わからない中での選択」です。

18:摂る際には、何を、いつ、どのくらい摂ったかと、効果や体調の変化を記録してください。

19:「健康食品」を摂っていて体調が悪くなったときには、まずは摂るのを中止し、因果関係を考えてください。

この19のメッセージにはそれを補う解説がついている。また、メッセージとは別に報告書が発表してあって、そちらにはかなり詳細な「メッセージの根拠になる情報(科学的根拠)」が掲載されている。ぜひ一度ご覧いただきたい。

■「機能性の評価」は食品安全委員会の管轄なのか?

さらに(ご丁寧にも)食品安全委員会は「いわゆる健康食品に関する検討ワーキンググループ座長・脇昌子」と「食品安全委員会委員長・佐藤洋」の連名で、「国民の皆様へ」というメッセージも出している。食品安全委員会委員長が、国民に対して、直接、メッセージを出すことなどは滅多にないので、こちらもぜひご一読いただきたい。

http://www.fsc.go.jp/osirase/kenkosyokuhin.data/kenkosyokuhin_essence.pdf

国民が「いわゆる健康食品」で被害を被らないようにという「切実な思い」が込められている。でも、冷静に考えると、ちょっとヘン? これが消費者庁長官のメッセージならまったく問題がないのだが、食品安全委員会のメッセージとして適切なのだろうか?

私は、こと「食品の安全性評価」に関しては日本の食品安全委員会にかなり強い信頼をおいている。食品添加物や農薬などの化学物質系、ウイルスやプリオンやカビ毒などの生物系、遺伝子組換え食品などの新食品系など、様々な分野において、長い時間と多くのエネルギーを費やして、緻密で客観的な評価を行なっている。

そういう意味で上に紹介した19のメッセージの中でも「安全性」に関する項目は、「まさしくその通り」だと思う。しかし、今回のメッセージには「安全性と無関係ではないが、どちらかというと健康食品の機能性を評価している」あるいは「安全性に関する評価なのか、機能性に関する評価なのかが判然としない」項目もある。

たとえば、13、14、15、16番などは(個人的にはたしかに「その通り!」だとは思うのだが)食品安全委員会が出すべきメッセージだろうか。

12番はどうだろう? 今回の「いわゆる健康食品」には、今年の4月にスタートした「機能性表示食品」も含んであると書かれている。たとえば、骨の健康に役立つという機能性を表示することになったミカンがある。高血圧の薬を飲んでいる人がこのミカンを食べるときに、医師や薬剤師のアドバイスを受けなければならないとなると、あまりにも非現実的ではなかろうか。

あるいは18番。ミカンを食べるときに「いつ、どのくらい摂ったか」や「効果や体調の変化」を記録するというのも、非現実的に思える。「そのほうがベター」だとはいってもあまりにも日常生活として非現実的なことを提唱すると、元も子もなくすことになる。

以前にも同様の指摘をしたことがある(下記)のだが、食品安全委員会は、たま~に勇み足をすると感ずる。社会的には「必要な情報」であるとしても、このことが、食品安全委員会の「本来の業務の信頼性」を損なうことにならないようにと、願うばかりである。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/satotatsuo/20150518-00045845/

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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