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加工食品の「原料の原産地」って、どうしても知りたい?

佐藤達夫食生活ジャーナリスト

■食品事故が起こると原産地を知りたくなる(?)

私が子どものころ(もう半世紀も昔のこといなるが)「食品表示」というのは、生活と無縁であった。自分たちが食べている物が「どこでとれた物なのか」を詮索する必要は(ほとんど)なかった。「近所でとれた物」に決まっていたからだ。同様に「だれが作った物なのか」も気にする必要はなかった。「母親が作った物」に決まっていたからだ。

しかし、食品産業が発達して日常的に加工食品を食べるようになったり、外食の機会が増えてきたりするようになると、いま自分の口に入っている物を「だれが作ったのか」が気になるようになる。また、昨今のように流通が発達して食品が世界中から運ばれてくるようになると「どこでとれた物なのか」を知りたくなってくる。

それがわかると「安心する」のは事実である。ただし、念のために確認をしておくが、「安心」だからといって「安全」だったわけではけっしてない。当時の私たちは健康・長寿であったわけではないし、食中毒は今よりもはるかに多かったのだから・・・・。

「すべての消費者」が「どんなとき」でも食品の原産地を知りたいかというと、そうではなかろう。多くの消費者は、普段は、おいしくて安くて安全な物が手に入ればいいと考えて食品を購入している。しかし、いったん、たとえば「中国産のほうれん草から基準値を超える農薬が検出された」というニュースが流れると、すべての食品に対して「原産地が知りたい」という消費者の要求は、にわかに高まる。

■原料の原産地と製造者、「安心」はどちらに?

平成28年1月29日、東京都中央区で「加工食品の原料原産地表示に関する検討会」第1回(下記))が開催された。第1回となってはいるが、初めて検討されるわけではない。昨年4月に食品表示法が施行されたが、そのための検討会の中で、食品の原材料表示については、もちろん、何度も検討されてきた。

http://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/other/pdf/160129_shiryou1.pdf

その結果、「生鮮食品の原産地表示」は食品表示法(の食品表示基準)によって厳しく定められてある。いま検討されている問題は「加工食品の原料原産地表示」だ。一口に加工食品といってもいろいろある。カット野菜のように比較的生鮮食品に近い物もあれば、調理ずみ冷凍食品(たとえば冷凍餃子)のように原材料が多種に及ぶ物もある。

消費者側は「安心のためにできるだけ多くの原材料について原産地を表示してほしい」といい、事業者側は「表示が複雑になるし、状況によって原料供給地が変わることもあるのですべてを表示するのは難しい」と主張して、長年の話し合いの中でも簡単には結論が出ず、ここまで持ち越している表示ルールの一つである。ただし、これまでの検討会で「表示を拡大する方向(なるべく多くを表示する方向)で審議を進める」という基本方針は確認されてある。「どの程度」を「どのように」表示するかが課題となっている。

消費者から見ると「つべこべ言わずにすべての原材料を表示してほしい」といいたいところだが、コトはそう簡単ではない。それを実現するためにはコストがかかる、つまり加工食品の価格が上がる。値段が上がってもいいから原料の原産地を表示してほしいという人もいるだろうが、原料の原産地はわからなくてもいいから価格を少しでも下げてほしいと願う人もあるだろう。

また「安全のために原材料の原産地表示をできるだけ詳細に知りたい」という意見も聞くことがあるのだが、これは正当な意見とはいいがたい。原産地の表示とその食品の安全性とは、直接的な関係はない。原料の原産地がどこであろうが「安全でない食品は消費者の元には届かない」ようになっている。ただ、前述したように、原料原産地が国内であるほうが「安心する」という消費者は少なくない。

しかし、国内産の加工食品であってもけっして安心できないケースもあることは、つい最近発覚した「ビーフカツの横流し事件」でも明らかになった。コト加工食品に関しては、安心感は、原料がどこ産であるかということよりも、どの会社が責任を持って製造しているかによるところが大きいと感じている人も少なくないだろう。

製造者が原材料の原産地をごまかしたりすることができないように、また、事故があったときに追跡できるように「原産地を正確に記録して残しておく」必要はあるだろうが、「過剰な表示」を義務づける必要はないように、私は思うのだが、いかがなものだろうか。

この検討会はほぼ一月に1度のペースで開催し、平成28年秋には中間報告を出すスケジュールとなっている。興味を持って取材し、またご報告したい。

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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