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食品表示法施行からほぼ1年。いわゆる健康食品の表示規制はどうなっているのか?

佐藤達夫食生活ジャーナリスト

■食品表示法がまるで効果を発揮していないのではないか、とも思える現状

平成27年4月に食品表示法(以下「食表法」と略)が施行された。それまで食品表示は、主として食品衛生法(以下「食衛法」と略)・JAS法・健康増進法(以下「健増法」と略)の3つの法律で規制されていたために、わかりにくく、また、監督官公庁のタテ割り行政にも阻まれて、スムーズな運用がなされてこなかった。複数の法律から食品表示に関する部分(だけ)を抜き出し、ていねいな検討を重ねながら食表法が成立した。「食品の表示に関する規制等はこの法律1本にまとめられたので、明確になった」といいたいところだが、施行されてまだ1年しかたっていないので、正直なところ、その効果は確認できていない。

テレビのBS放送を見ていると、健康食品に関する広告(番組?)が際だって多いことに気がつく。約1年ほど前から施行された食品表示法がまるで効力を発揮していないのではないかと疑わざるを得ないような状況である。

と、ここまで読んできてすでにお気づきの人があるだろうが、食表法というのは、基本的に「容器包装された食品」の表示を定めた法律だ。番組や広告は「表示」にはあたらないので食表法では規制できない。しかし、消費者を誤解させて、選択を誤らせるという点においては同じである。規制されてしかるべきであろう。

消費者庁表示対策課食品表示対策室の食品表示調査官・田中誠氏によると(※1)、「消費者の正しい食品選択のために、誤認しやすい宣伝広告等を規制することは、もちろん可能」である。容器包装をしてない食品の表示や広告・宣伝は、食表法による「事前規制」ではなく、主として、健増法による「事後規制」となる。

事業者が、食品の表示に関して「このような表示をしてもいいか」と事前に消費者庁に聞き、違反してあるものであれば法に則って規制するのが事前規制。一方、宣伝・広告がなされたあとに「これは消費者の正しい選択を妨げる」と判断されて規制の対象となるのが事後規制。事後規制の代表(?)といえば景品表示法(以下「景表法」と略)。これは消費者を保護する法律として長い歴史がある。この考え方を「食品」にも適応しようというのだ。

■消費者にとっては頼もしく、事業者にとっては厳しい健康増進法の適応

健康食品の規制の“武器”となるのは健増法だ。どういう点が武器になるのか、この法律を食表法や景表法と比べながら、ザッと見てみたい。

基本的に健増法には、食表法と違って「こういう表現をしてはいけない」という定めはない。その宣伝・広告の「全体から受ける印象」が消費者を「著しく誤認させる」と判断されれば規制できることになる。「同業他社がこういう言葉を使ってあるからいいだろう」とか「露骨には商品名を書いてないから大丈夫だろう」という事業者の(かってな?)判断は禁物。「全体で」「著しく」誤認を与えればNGとなる。

これは消費者にとっては、たしかに頼もしい武器になるかもしれないが、事業者にとっては「やっかい」なしろものである。事前に相談することができず、実行してしまったのちにNGといわれては、たまったものではない。事業者からは「そもそも『著しい』の基準などあるのか?!」というクレームがつきそうだ。消費者としても心配になる。

(でも、安心してください)

「景表法はすでに半世紀以上の歴史があり、『著しい』の基準は幾多の裁判例(判例)からも確立しています」と前出の田中氏は言う。さらには、健増法には景表法にはない“武器”もあるのだという。それは第31条第1項にある「何人も」(※2)という文言だ。

何人も著しく事実に相違する表示をしたり、著しく人を誤認させるような表示をしてはならないのだ。景表法にはこの文言がないので、規制や処分の対象となるのは商品の製造者や販売者等に限られる。しかし、健増法は、その宣伝・広告を掲載したり放映したりした媒体(テレビや新聞等)、場合によっては登場した学者や著名人も対象になるかもしれないのだ。この点では、健増法は景表法よりも規制対象が広範囲にわたる。

厳密に適用されれば、かなり厳しい健増法だが、その狙いはどこにあるのか。それはひとえに「国民保健の向上を図ること」にある。国民の健康の保持増進に重大な影響を与えるおそれのある表示や宣伝・広告はけっして許さない、ということになろう。この点を、健康食品を扱う事業者(に限らず、食品を扱うすべての事業者)はすべからく肝に銘じておかねばならないだろう。

ただ、1つ気になるのは、その食品の表示や宣伝・広告が「消費者に誤認を与えているかどうか」の判断をだれがするのか、という点である。これに関しては、消費者庁に「誤認した」という訴えが一日に何人以上(たとえば5人以上とか?)あったときに「誤認したと見なす」というような決まりがあるわけではないようだ。田中氏によると「誤認を与えているかどうかは、もちろん、一人ではなく複数の人間で判断するのだが、その判断に当たって、実際の被害者がある必要はない」とのこと。

事業者には、その健康食品は本当に効果があるのかないのかという「合理的根拠」を厳しく求める割には、消費者が誤認しているかどうかの判断があまり合理的ではないように感ずるのだが、いかがであろうか。健増法の適用による行政処分には「勧告」「命令」「罰則」もある。事業者にとっては致命的ともなりかねない行政判断が、あまり合理的とはいえない方法で下されるようなことがあっては、事業者としては納得がいくまい。

これは巡りめぐって消費者にも不利益を与えることになろう。ガラス張りの判断が求められる。

(※1)平成28年2月3日、東京都千代田区で開催されたFOOCOM(下記)主催のセミナーでの取材。

http://www.foocom.net/

(※2)健康増進法第31条第1項

何人も、食品として販売に供する物に関して広告その他の表示をするときは、健康の保持増進の効果その他内閣府令で定める事項(以下「健康保持増進効果等」という)について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない。

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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