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「いい健康食品」と「悪い健康食品」の見分け方って、あるんだろうか?

佐藤達夫食生活ジャーナリスト
(写真:アフロ)

■いわゆる健康食品にはピンからキリまであることは厳然たる事実

2月18日のこの日記(※1)で、「食品表示法が施行されて約1年が経過した。これから健康増進法適用による表示規制が厳しくなるのではないか」と書いた。その直後の3月1日、消費者庁はライオン株式会社に対して健康増進法第32条第1項の規定に基づいて勧告を行なった(※2)。対象となったのは、同社が特定保健用食品として許可を得ている《トマト酢生活トマト酢飲料》で、「新聞に掲載した広告が著しく人を誤認させる行為である」という指摘である。

まさか、こんなに早く消費者庁が動くとは、私も思っていなかったのだが、この勧告が何を意味するのか、考えてみたい。

3月3日、東京都の霞ヶ関にある消費者委員会会議室で「特定保健用食品等の在り方に関する専門調査会」が開催された。この調査会は今回がもう第7回になり、そろそろ「報告書」を出す(出さなければならない)段階にきている(会議資料は※3)

この会議資料を読めばわかるのだが、国(内閣府消費者委員会)は健康食品にテコ入れをしようとしているようだ。私は「健康効果を謳ってある食品」はすべて健康食品だと考えている(もちろん医薬品を除く)。国も「広く健康の保持増進に資する食品として販売されているもの」と定義し、さらに、国の制度で健康強調表示が認められている「保健機能食品」とそれ以外の「いわゆる健康食品」とに大別している。前者には特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品が含まれる。

この中で、栄養機能食品というのは、主としてビタミンやミネラル等の微量栄養素が一定量以上含まれている食品で、国の基準に適合しているかどうかが条件となる。基準を満たしていれば製造・販売、そして表示が可能。これはほとんど「まぎれ」がない。

機能性表示食品は、昨年、新たに導入された制度で認められたカテゴリーで、科学的根拠に(一応)基づいた機能性を表示できる食品。ただし、消費者庁長官の許可を必要とせず、事業者の責任で表示が可能。個別の商品ごとに「ヒト試験」などを必要としないため、玉石混淆となる可能性が指摘されており、消費者の信頼を得るには至っていない。

これに対し、特定保健用食品(いわゆるトクホ)は、その歴史も長く、個別に国の許可が必要な食品であり、また、単純に「一定量以上の栄養成分が含まれている」というだけにとどまらず「なにがしかの健康効果を謳える」食品であるため、消費者の認知度も高く、ある程度の信頼を得ているといってよいだろう。このトクホの信頼性をさらに高めて、他の保健機能食品やいわゆる健康食品と差別化しよう、というのがこの専門調査会のネライであろう。

裏を返せば、トクホといえどもまだ消費者からはあまり高い信頼を得られてないという証でもある。信頼を今以上に高めるためには、厳しい基準や審査が求められることになる。

■消費者庁も事業者も「トクホの原点」を確認すべき!

トクホの信頼性を今よりも高めるためには、まだ、いろいろやることがあると私は考えている。同様に、専門調査会の委員たちも、まだまだ法的整備が必要だと判断しているようだ。専門調査会では、たとえば、次のようなことが検討された。

まず、基本的な考え方として「トクホの原点に戻るべき」という指摘が上がった。トクホの原点というのは、その食品(トクホ)を摂取することを通じて「健康の増進や食生活の改善をする」ことを目的とするという点だ。トクホを摂取することが、直接、血糖値や血圧を下げたり体脂肪を減らしたりするわけではない。微妙ではあるが、この「違い」を、消費者も事業者もきちんと理解する必要がある。その点が(とりわけ)この頃あいまいになってきているのではないか、という危惧を多くの委員たちが持っている。

テレビやネットなどの宣伝で、このところ、この原点を逸脱している食品が多く、それがトクホ全体の信頼性を損なっている。これを防止するためにどうすればいいかが問われているといってもいいだろう。

広告や表示の表現を規制するためには、食品表示法だけではなく健康増進法(健増法)を積極的に適応すべきだという考え方も示された。さらに、健増法の中にある「著しい誤認」という文言のうちの「著しい」という言葉をカットすべきだという意見もあった。消費者に「(普通の)誤認」を与えただけで健増法を適用しようというのだ(さすがにこれは報告書には盛り込まれないだろうが・・・)。

また、景品表示法にある「不実証広告規制」(※4)を健増法にも取り入れるべきだという意見も出された。これは事業者にとって相当にハードルが高くなる。当然のことながら、事業者側委員からは「実行可能性が低くなる」という反対意見も出された。基準だけを厳しくしても実行されなければ制度そのものに意味がなくなる、というわけだ。

「報告書」をとりまとめるにあたって、他にも様々な意見が出されたが、全体的に「キビシイ」意見が多かった。なぜだろうか? この間、取材をしていて感じたことだが、どうやら、この専門調査会ではトクホを他の「いわゆる健康食品」とは一線を画した「いい健康食品」として位置づけようとしているようだ。見方を変えれば、トクホ以外の「いわゆる健康商品」は「悪い健康食品」ということになるのだろうか・・・。

しかし、現在のところ、トクホとして認められている食品であってもその効果はきわめて限定的である物のほうが多い。いたずらに「いい健康食品」と持ち上げてしまうことには賛成できない。トクホ以外の保健機能食品、たとえば機能性表示食品のレベルが低いために、相対的にトクホのレベルが上がっている現状(これは私の解釈)で、トクホを「いい健康食品」と位置づけるのは早計のように感ずる。

間違っても、トクホの質の向上が伴う前(制度の改善が整う前)に、なし崩し的に評判だけが上がってしまうことのないようにしてほしい。ここは冷静に「トクホを摂取することで健康増進が図られるわけではなく、トクホの摂取を通じて食生活が改善することで健康増進が実現する」という原点に、もう一度立ち戻るべきだ。

冒頭のライオンに対する勧告は、その強い意志を表わすものであればいいのだが・・・。

(※1)http://bylines.news.yahoo.co.jp/satotatsuo/20160218-00054536/

(※2)http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin1529.pdf#search='%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%B3+%E5%81%A5%E5%BA%B7%E5%A2%97%E9%80%B2%E6%B3%95'

(※3)http://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/tokuho2/senmon/007/shiryou/index.html

(※4)不実証広告規制 

事業者は、消費者庁長官から「広告等の表現が消費者に著しい誤認を与えていないという証し」を求められたときは、その裏付けとなる資料をすみやかに提出しなければならない。これが敵わない場合は「不当表示」と見なされる。

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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