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もし、加工食品の原料の原産地表示が「国産または外国産」と書いてあったら、原産地はどこだと思う?

佐藤達夫食生活ジャーナリスト
(写真:アフロ)

■TPPによって「安全ではない食品」の輸入が増えるのか?

6日の衆院特別委員会でTPP(環太平洋パートナーシップ協定)が議論された。その中で加工食品の原料原産地表示についての質問があった(与党同士のナレアイ質問ではあったが)。

「TPPによって海外から今まで以上に多くの農産品が入ってくる。国民は安全性が損なわれるのではないかと心配している。加工食品の原料原産地の表示をしっかりとしていただきたい」と。これに対して政府の見解は「国民のご要望にお応えすべく、加工食品の原料原産地に関しては表示を拡大すべきという前提で、今、専門家にご審議をお願いしてあるところ。秋ごろにはその中間報告が出ると思う」というもの。

筆者はその検討会(加工食品の原料原産地表示に関する検討会)を定期的に傍聴し、この日記でも何度か報告している(下記)。今回は3月31日に開催された「第3回 加工食品の原料原産地表示に関する検討会」の内容をかいつまんで報告する。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/satotatsuo/20160206-00054170/

http://bylines.news.yahoo.co.jp/satotatsuo/20160310-00055255/

第3回の内容は、委員からの意見開陳(いわゆるヒアリング)で、消費者代表(1名)、生産者代表(2名)、流通等事業者代表(4名)の合計7名が意見を述べた。詳細は消費者庁のホームページ(下記)をご覧いただきたいのだが、まずは、冒頭の国会論議で気になった点から。

http://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/other/kakousyokuhin_kentoukai.html

TPPによって輸入食品が増える→外国から安全ではない加工食品がたくさん入ってくる→「食の安全」を担保するために加工食品の原料原産地の表示拡大を多くの国民が望んでいる、という議論は、この検討会以前に何度も検討が重ねられてきた。そこでは、さまざまな立場の人(消費者代表、事業者代表)から、この懸念が示されてきた。しかし、検討を重ねる中で「輸入食品だからといって安全ではないということはない。日本国内に入ってくる食品は日本の法律が適用されるので、安全性は国産食品と同等である」ということが確認されてある。

そのため、この検討会は「加工食品の原料原産地表示は、食の安全とは切り離して考え、消費者が食品を購入する際の合理的判断に資するためという本来の目的にそって議論すべき」という冷静な姿勢で進められている。もっとも、はじめからこうであったわけではなく、ここに至るまでは、消費者を代表する人たちあるいは生産者を代表する人たちから「輸入農産物は安全ではない」という意見も出された。しかし、専門家の検証などを受けて、この会議ではそれ(=加工食品の原料原産地と安全性には直接的な因果関係はみられない)が「前提」となっている。

ただし、消費者代表(の一部)には「頭ではわかっていても外国産は不安」という委員もあるようだし、生産者代表(の一部)には「そうはいっても国内生産品のほうが安全だということをアピールして国産品の売り上げを伸ばしたい」という委員もあるようだ。そういうかたがたの発言では、冒頭、残念そうに(私にはそう聞こえた)「外国産イコール危険だということではないのですが」と前置きし、消費者ニーズに沿うという観点から表示を拡大していただきたいと思います、という内容へと移っていく。

本音と建て前が違っているので、話がわかりにくくなるし、なかなか前進しない。

■「特定の国の産品でなければいい」というのが、本当に消費者のニーズなのか

この日は流通関連の事業者からのヒアリングもあった。それによると「消費者からの問い合わせやクレーム(ということばは使わなかったが)で、加工食品の原料原産地に関する案件はほとんどない」とのことであった。あるとしても「原料の原産地がどこか」ということを知りたいのではなく「ある特定の国の産品ではないことを確認したい」という問い合わせなのだという。検討会では「ある特定の国」の名称は明らかにはされないが、会議後に非公式に取材すると「もちろん中国です」とのこと。

消費者(の一部?)は原料の原産地を知りたいのではなく、中国産ではないことを確認したいのだという。ちなみに、東日本大震災に伴う福島原発事故の後には、やはり、加工食品の原料原産地が「福島産ではないこと」を確認する問い合わせが増えたという。消費者のニーズというのはこういうことなのだろうか? あまりにも非科学的で理不尽だと感ずるが・・・。

「消費者が食品を購入する際の合理的判断に資する」というのがこれであることを察してなのかどうかはわからぬが、事業者側の委員からは加工食品の原料原産地表示の拡大に対してきわめて消極的な意見が提出される。「実行可能性」を考慮してほしいという要望がそれだ。

加工食品は、品質を安定させるため・安定的に供給するため・価格を安く抑えるためなどの理由で、広く世界中に原料を求めてあることが少なくない。その時々に応じて最適な地域の原料を用いるので、原料原産地が頻繁に変わることが多い。店頭のPOP広告であればそのつど書き換えればいいのだが、加工食品の場合はそうはいかない。包装自体を製作し直さなければならない。コストがかかり、それは価格にも反映する。とりわけ中小・零細企業にとっては大きな負担となり、実行可能性が低くなる。

昨今では、もし異なる包装で流通してしまった場合には、回収・廃棄をすることになり、食品ロスにもつながる。

それを避けるためには、たとえば、ジュースの原料原産地を「国産、ブラジル」ではなく「国産、ブラジル、オーストラリア、カナダ」などと記することになる。それでも不正確になることを避けるためには「国産または外国産」とすることさえ検討されている。

加工食品の原料の原産地表示が「国産または外国産」に、意味があるのか? 消費者はこの表示から何を知ることができるのか? 気になる人やより正確に知りたい人は、直接問い合わせるかホームページで調べれば詳細がわかるようなシステムにしておき、それを利用してもらうことで用は足りるのではないか。

「国内産の原料を用いてある」ことや「中国産の原料を用いてないこと」を、どうしても消費者に伝えたい場合は任意表示という手段があるので、そちらを使えばいい。「国産または外国産」という表示を義務表示として位置づける意図が理解できない。

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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