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甘く見てはいけない「幼児期の肥満」

佐藤達夫食生活ジャーナリスト
写真の子供は「肥満」ではありません。(写真:アフロ)

肥満を気にしている大人は多い。でも、子ども(幼児・児童・生徒)の肥満は「成長過程にあるから」あるいは「太っているくらいのほうがかわいい」などという理由で、放置されがちである。しかし、最近の研究から、子どもの肥満は深刻な健康被害をもたらすことが明らかになってきつつある。

■生活習慣病は血管を傷害して重篤な結果を招く

糖尿病や高血圧症や脂質異常症(かつては高脂血症と呼ばれていた)などの疾病を、昔は成人病と呼んでいた。それがいつのころからか(1997年から2000年にかけて)生活習慣病と呼ばれるようになった。その理由の1つとして、これらの病気は加齢によって発症すると考えられていたのだが、さまざまな調査から、加齢だけではなく生活習慣が大きな要因となることが明らかになってきたことがあげられる。

じつは、生活習慣病と呼ばれるようになった理由がもう1つある。それは、糖尿病や高血圧症や脂質異常症が、大人だけではなく子どもにも発症し始めたことだ。子どもが罹患すると「子どもの成人病」ということになる。これは誰が考えても不自然だということになって、生活習慣病と呼び改められることになった。

生活習慣病の多くは、その疾患自体が直接的な原因となって生命を脅かすケースはそれほど多くはない。ほとんどの場合では、糖尿病、高血圧症、脂質異常症などになってからある程度の期間が経過すると動脈の血管を障害する。その結果、動脈が破れたり詰まったりすることによって、そこから先の細胞の機能が低下したり死滅したりして、致命的な疾病へと至る。胸部大動脈や腹部大動脈などといった大きくて太い動脈が破れたりした場合には、それが直接的な原因となって死に至ることもある。

子どものうちに生活習慣病に罹患すると、血管を障害する期間がきわめて長くなる。そのため、高い確率で脳血管疾患(脳卒中など)や虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)に罹患して生命が脅かされたり、きわめて重篤な合併症を併発する危険性が高くなったりする。そういう意味から、子どもの生活習慣病には気をつけなければならない。子どもは、自分では生活習慣に留意することはできないので、親がしっかりと管理しなければならないだろう。

■幼児の肥満は児童・生徒の肥満よりも大きな問題

日本小児科学会等【※1】が主催する「子どもの食育を考えるフォーラム(第11回)」が2017年1月21日、東京都豊島区で開催された。今回のテーマは「みんなで考えよう幼児期の肥満」。8人の専門家が、子どもの中でも児童・生徒のさらに手前の幼児の肥満の問題点にスポットを当てて議論が進められた。ここでは、埼玉医科大学病院小児科・菊池透医師の「幼児肥満は、将来の健康と成長を傷害する」をご紹介したい。

上にも書いたように「子どもの肥満は生活習慣病を通して血管を傷害し(遠い)将来、その子(その人)の健康に重大な悪影響を及ぼす可能性が高い」ことがわかっている。菊池氏は(それに加えて)幼児の肥満はその子の近い将来の健康状態にも悪影響を及ぼすことがわかってきたと警告した。

成人の場合、肥満の判定はBMI(体格指数【※2】)を用いることが多い。しかし、子どもの場合は、体型が成人とは異なることや成長過程にあることなどを考慮して、日本では肥満度【※3】を用いている。児童(小学生)や生徒(中高生)では、この肥満度が20%以上を「軽度肥満」、30%以上を「中等度肥満」、50%以上を「高度肥満」と判定してある。幼児(未就学児)では、15%以上を「ふとりぎみ」、20%以上を「ややふとりすぎ」、30%以上を「ふとりすぎ」と判定してある。

このように、幼児の場合は肥満の表現が柔らかくなっていることもあり、児童・生徒に比べて、肥満対策が見逃されがちになる。しかし、幼児肥満は、児童・生徒の肥満同様、イヤそれ以上に重要な意味を持つと、菊池氏は指摘した。

■肥満対策は「早ければ早いほどいい」と肝に銘じよう

子どもの肥満予防の中で、幼児期の対策が最も重要(児童・生徒の対策よりもさらに重要)である理由として3つあげることができる。1つは、幼児期の肥満は高率に思春期の肥満に移行すること(思春期の肥満は成人の肥満に結びつく)。小学校入学以前に肥満している幼児は、そうでない幼児に比べて、思春期肥満になる確率が30~60倍にも達するという。「小中学校に通ううちに肥満は解消されるだろう」という期待は、かなり薄いと考えなくてはならない。

先進国では、乳児(だいたい1歳未満)はふっくらしていることが多い。しかし、しだいにほっそりとしてきて、就学前には肥満が解消されることが多いのだが、幼児によっては就学前に再び太り始めてしまう子もある。これを専門用語でアディポシティリバウンドというのだが、これを予防することがきわめて大切なこととなる。幼児のうちに対処しておきたい。

2つめは、幼児肥満は「骨成熟」を促進させること。骨の成熟(成長といいかえてもいい)は、骨にかかる重力の大きさに影響される。体重が重いほうが骨にかかる重力が大きいので骨が早く成熟する。そのため、一般的には、肥満した子どもは痩せた子どもよりも背が高いことが多い。

これだけなら悪くはない、というよりもむしろ好ましいことのように思えるだろう。しかし、コトはそう簡単ではない。この骨成熟が幼児期に起こると、たしかに骨の成熟が早いために周囲の幼児よりも大きな子になる。ただし、成熟が早く始まるということは、早く終わるということでもあるのだ。そのため、幼児肥満の子は小さいときは大きくても、他の子どもたちが大きくなる盛りの思春期にはすでに骨成長が止まっていて、結果的に背の低い成人になる可能性が高いことがわかってきた。

幼児期の肥満は「体格がいい」といって喜んでいる場合ではない。

幼児期の肥満対策が大事である3つめの理由は、幼児は児童・生徒よりも肥満予防介入が容易なこと。やさしくいうと、未就学児のほうが親のいうことをよく聞く。親が子のためを思って、肥満予防や減量を指導しようとしても、子どもとはいえ学校に行くようになると、多かれ少なかれすでに自尊感情が芽生えているために、素直には聞き入れない。

かえって、反発を招き、取り返しのつかない状況になってしまうことさえある。また、思春期肥満の対策としては、肥満者本人だけではなく、周囲の人間にも配慮が必要になる。あからさまな肥満予防対策は、場合によってはいわゆるイジメの対象となったりすることもあるからだ。

それに比べて幼児では、養育者(つまり親)だけに対して肥満予防対策を指導すれば、幼児本人にも伝わりやすいので、よい結果が出やすい。具体的には3歳から6歳までという、素直に親のいうことを聞くうちに「肥満しない生活習慣」を身につけさせたい。

一言でいえば、子どもの肥満対策は「早ければ早いほどいい」といえるだろう。

【※1】日本小児科学会・日本小児保健協会・日本小児科医会・日本小児期外科系関連学会協議会

【※2】BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

【※3】肥満度(%)=(実測体重-標準体重)×100÷標準体重

食生活ジャーナリスト

1947年千葉市生まれ、1971年北海道大学卒業。1980年から女子栄養大学出版部へ勤務。月刊『栄養と料理』の編集に携わり、1995年より同誌編集長を務める。1999年に独立し、食生活ジャーナリストとして、さまざまなメディアを通じて、あるいは各地の講演で「健康のためにはどのような食生活を送ればいいか」という情報を発信している。食生活ジャーナリストの会元代表幹事、日本ペンクラブ会員、元女子栄養大学非常勤講師(食文化情報論)。著書・共著書に『食べモノの道理』、『栄養と健康のウソホント』、『これが糖血病だ!』、『野菜の学校』など多数。

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