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「出る杭でも打たれない」絵本作家五味太郎に聞く5~戦争に行く暇がないってやつが51%を超えたら……

佐藤智子プロインタビュアー、元女性誌編集者
撮影/ナカンダカリマリ http://nakari5.tumblr.com

●毎日が充実している人の生活のしかた

著書378冊、世界一の絵本作家、五味太郎に聞く

「戦争がない状態が平和ではないんだよね」

毎日を面白くする天才、自分の生活を楽しくデザインする絵本作家、五味太郎氏。

自分の生き方を言い切る潔さがいい。

「狙うからダメなんだよね」

「ルーティーンなものをやっとかなくちゃいけないなっていうのはあるね。テニスは水曜日の10時からとか」

「テレビ見て、くっだらねえと思いながら、“このくだらなさはなんだろう?”とか考えて、ずっと見てるよね」

「ヒントを与えているんじゃないんだよね。エンターテイメントでいいんだよね。見世物でいい」

「栄養を摂るために、ご飯を食べてるんじゃない。結果、栄養になっちゃったりしてね」

「俺、無人島で一人でいたら、絶対、絵本描かないよね。ヤシガニなんか相手に展覧会やってもつまらないじゃない。世の中に人がいるんで、面白いんじゃない」

「講演のタイトル、決めてくださいとか無理なのよ。『絵本の周辺』っていい言葉、思い出してね。なんでもいいじゃん、周辺だから」

「お子様ランチって、大人のほうは感動してるんだけど、子どもは、“大人のカレーライス食いたいな”と思っている。普通の食べ物を子ども用にすればいい」

「根本の根本、“お前の人生はお前の人生でしかない”っていうところが叩き込まれてないんだよね」

「ヒトっていうのは、みんなで生きているような錯覚に陥るの。結果、基本の“お前の命はお前の命なんだ”っていうのがなくなる」

「仲良く、と思い込みすぎちゃっている。人のために生きてるみたいな。今、弱い人にみんなで励まして強くして、どうすんの」

「戦争の抑止力って、戦争に行く暇がないってやつが51%を超えたら、起こりえない」

独創的な考えと直感的な行動力に裏付けされる五味語録。

楽しいことをやり続けている人の人生っていったい。

好きなことを見つけて、それを生業にして、

成功している人って、どんな発想を持っているのだろうか。

独自の視点が際立つ、驚きのアーティスト生活とは?

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Q 五味先生、今、最新の興味あること、ワクワクしたこと、ないですか。

A 最新の興味あること? ないないないない。特に、最近はない。

Q チェロぐらい?

A チェロ弾いてて、今新しい曲始まったから、「うーん、難しいな」とかって言って。これをどこで発表するかみたいな(笑)、そういうのを、プランしてる。

Q テニスは?

A テニスはもう、

Q やめた?

A やってるけど、前後の動きが弱くなるなあ、やっぱ70過ぎると。左右って、いけるんだよ。でも、前後一歩出るときには、肉体的にはわかってきたんで。

Q でも、スポーツやって、音楽やって。なんかすごい。

A いや、そういうことじゃなくて、要するに、なんだろう。ちょっと「ルーティーンなものをやっとかなくちゃいけないな」っていうのはあるね。テニスは水曜日の10時からとか。

Q ああー、習ってるんですか。

A 習うっていうんじゃないけど。

Q クラスみたいな?

A いや、そうじゃない。1年間コート借りてるから。そうするとさ、「行かなくちゃいけないな」っていうのを、ちょっとつくっておかないと、ダラけんじゃない。だから、3か月に1回ぐらい講演会とかさ、行って。「もうしょうがねえな」っていうようなことをやっておかないと。

Q それも、一つの方法かもしれないですね。時間割が1個もない学校があるみたいだから。

A そう、そうでしょ。まず、その「学校に行く」ってところが大仕事みたいなね。はははは(笑)。

Q 足枷じゃないけど、ちょっと縛りがあったほうが自由になれるってことですか。

A それで文句言っているみたいな。自由にするんじゃなくて、そういうのも「ちょっといいかな」と。そん中でも「これはつまんないよね」っていうのは、全部断っておいて、「これ、ちょっと面白そうだな」っていうのだけ、ちょっとやっといて、3か月に1回ぐらい。レジャーがらみで講演会に行くとかね。

Q なるほどお。旅は今もやっているのですか。

A 旅をするって、なくて。もしかしたら、貧乏性なのかな。レジャーで旅、行くことって、まず絶対ないのね、今までも。

Q えー、そうなんですか? 旅がすっごい、好きかと。

レジャーなのかもしんないと思うんだけど、何かからんでいるといいのね。「ちょっと、あの人に会わなくちゃ」みたいな。

Q はああ、それが旅になってるみたいな。

A だから、ボローニャってよくて。絵本作家だから、「絵本の現状、見とかなくちゃなあ」なんて。「めんどくさいなあ」って言っておいて。直行便がないから、どっかから入んなくちゃいけないわけ。すると、羽田⇒ロンドンからボローニャ、羽田⇒パリ⇒ロンドン⇒フランクフルトからボローニャ、とこう、選ぶわけよ、「ミラノからにしようかなあ」とか。それで、実際ボローニャに、「めんどくせえな」って行っても、5時間ぐらいいたら飽きちゃうんだよね。で、会う人といいレストラン行ってメシ食って、「じゃあね」つって、1泊してくぐらい。次に、しようがないな、終わっちゃったからいろんな旅して、遊んでんだよね。そういうのが多いの。

Q じゃあ、何かにかこつけて行って、その先でいろいろ行くパターンが多いんですか。

A そういうパターンです。

Q 絵本を今回たくさん読ませていただいたんですけど、一般書も読ませてもらって、あの本が好きですね。旅の絵本で『履きごこちのよい靴』(山と渓谷社)っていう。

A ああ、古い本だよね。うんうん。

Q あれ読んだら、すっごい、五味先生っていう感じがした。

A あれはね、連載やったの。山と渓谷社かなんかで。うん。

Q そのところにね、「旅と絵本は似ている。思いついて計画を立ててある程度予想通り。でも予想しなかったトラブルが起きる。それも好まし」。旅の仕方と似てると。

それ、俺さ、もう40年ぐらい前に書いてんだけど、今ひさしぶりに聞いたけど、全然ブレてないね。

Q ですよね。私も、ほんとに思ったんですよ。いろんな本読んで、言ってることがすべて一貫してて。で、さっきの、「僕は誰に読んでもらってもいいんだよ」っていう話とか「どう思われてもいいんだよ」とか、「誰に好かれても」それが、女の人だけはこういう人に好かれたいとかそういうのがないから、話してても、全部こう、結局、やりたいことがやれてる人って、今の一瞬、一日でもちゃんとチョイスしているというか、直感的に、こう、やりたいことをやっている。やりたいことをやるために、我慢をしてるんじゃないってことですよね。

A 今の時代の中ではすごくキザになっちゃうんだけど、仕事じゃないんだよね、実際は。人生なんだよね。あるいは「生業(なりわい)」っていう言葉が意外となくて、仕事と遊びとか、男と女、子どもと大人って、対比みたいなものが、本当に乏しいっていうぐらいに。仕事と遊びの線引きがなくて、レジャーとか、息抜きとか、ずーっとまとめて1個かなって。キザな言い方なんだけど。

Q うふふ(笑)。

考えてみれば、仕事としてはね、あんまりやると、固まっちゃうから分けてんのかなって思うんだけど。境目みたいなものが…ないよね。ほんとにないよね。「じゃあ、寝てるのも、ご飯食べてるのも、テレビ、横になって見てるのも、仕事なんですか?」って、言葉で言われちゃうと、どうかなあ。でも、テレビ、見ながら僕「くっだらねえ」と思いながら、「このくだらなさはなんだろう?」とか考えて、ずっと見てるよね。

Q うんうんうん。

A なんかこう、インタビューの中で「こんなに仕事してて、先生、お忙しいでしょう」みたいなこと言うと、「でも、よく寝てますよ」と。

Q あはは(笑)。

A テレビもよく見てるしねえ。そう、見てるの、実際は。大相撲なんか見てるの。

Q (笑)。全部見てるんだ、幕下から。

A 「もう5時だ」とか言って。ずっと見てるよ、幕下からは見ないけど。お相撲はちゃんと見てるよ。

Q (笑)。はあー。たぶん、世の中の人って、こういう好きなことをして成功した人って、なんかこう、下積みがあるとか、こういう努力をしてるとか、たとえば、この絵本を描くために、こうやって取材をして、こういう努力をしてるって、思いたい。思ったら、自分もできそうな気がするけど、「好きに生きてんだよ」と言われると(笑)。

だから、それを聞くにつけ、「いかにも学校だな」と思うわけ。

Q そうですね。

学校のときの、そのやり方は? 努力の仕方を見せろって感じじゃないですか。先生も「よくやったね」って。それで、終わってしまえばなんでもない、夏休みの昆虫採集とかね。それが、ずっとその後の人生でずっと続いちゃってるんだよね。

Q このインタビューは、こんなにワクワクした人生を送る人はどんな人なんだろうって、ヒントがあるんじゃないかって思って、読んだら、最後「いやいや、結局、自分しだいなんですよ。好きにしてください」と言われて放任されているっていうパターンになっちゃうけど(笑)。

A つまり、逆に言うと、「他人に自分の生きるヒントを」って、この前ある雑誌の取材で言われて、「やめなよ」って言ったんだけど。

「そういうふうに生きるためのヒントが」俺、翻って、「そう言うあなたのほうが一回解放されたほうがいいんじゃないか」なんて、余計なお世話をするんだけど。「これはヒントを与えているんじゃないんだよね」って、「エンターテイメントでいいんだよね」って。確かに俺なんか個人でも、好きな作家、たとえばガルシア=マルケスっていうのが大好きで、あいつと一回、あいつが生きてる頃にメキシコで会えそうなチャンスがあったんだよ。4日ずれて、俺が予定があるから行かなくちゃいけない。そのときに講演会があったんだよ、彼の。「どうしようかな」って思って、あっちこっちに電話かけて「飛行機ずらせられるか」とか、やったけど、もう無理で、4日前に出かけちゃったんだけど。で、会ったらどうするんだろうって、ちょっと触りたかっただけなんだよね。

Q へへへへ(笑)。

A ガルシア=マルケスの、ちょっとサインしてもらう。気持ちはわかるの、みんな。いい加減なサインって。俺でさえそうなの。でもガルシア=マルケスはどんな暮らししてるんだって見たいのはわかるの、俺も。意外とまじめな暮らしして、「朝8時からタイプライター打ってます」みたいなやつとか見てて、だけど、これはエンターテイメントでいいと思うの、「いろんな生き方がありますね」って。たぶん、小説読んだり、映画観たりって、違う人生を見てる。その面白さってのが、わかんなくはない。だけど、「これをヒントに」って言って。やっぱり、高倉健の映画とか観てたら、やじゃないですか、あれ。だいたい若い頃に女房が殺されたみたいのがないと、なかなかかっこつかない。「女房は生きてる、子供は無事で、なんか、かっこつかないなあって。刑務所もいっこも行かないで」みたいな。そういうのってヒントになんて、ならないでしょう?

Q ははははは(笑)

A 面白ければ面白いほど、ヒントにならないよね。だから、見世物でいいんだよ、これ。なんつったら、いいんだろう。つまり、栄養を摂るために、ご飯を食べてるんじゃないってことなんだよね。結果、栄養になっちゃったりしてね。栄養になりすぎちゃったりしてね。

Q 五味先生の話を聞いたら、圧倒的な幸福感を感じるんですよ。やりたい仕事をして、好きな人と一緒に暮らしきて、子供たちにも愛されて。だから、話のなかで、「象がかわいそう」っていうときに、あ、「象の話を描いてるときに、自分は落ちてるのかなあ」っていう、そういう話ぐらいでしたね。

A 今、あなたがまとめちゃったのは、そっち側でまとめちゃったんであって、好きな人と生きてるって、いろいろバトルあるでしょう、一般的に見ても。例えば、相手も仕事していたら、俺と時間が合わないことがあったり、家を1週間空けられたら、その時「俺は何を食うんだ」みたいのがあるかもしれない。要するに、息つく暇がないっていう人生があるわけじゃないですか。それを今、いいところだけ見てると、子供たち孫たちに愛されて、「どうか、わからないぜ」っていうのがあって、ただ、そういう関係が今あって、それも決まったもんじゃなくて、みんな動いていくわけだし。孫たちもゴチャゴチャで、今。3個目のランドセル買ったよね、この前。2歳になる子にも「ついでに買っちゃうぜ」って言ったら、「嫌だ」って、ははは(笑)。

Q 早すぎ!(笑)そういう、孫とか生まれたら、この孫にプレゼントしたいと思って、描くことあるんですか。絵本とかを。

A したいなんて思ってないよ。ないない。そんなこと全然ないよ。いわゆる、だから「〇〇(なん)のために」っていうのがまずないし。

Q ほんとにないんですね。

A 全然ないんだけど、向こうが「ねえねえ、ランドセルの季節だよ」って、ちゃんと来るわけ。

Q はははは(笑)。なんか、脈々と血筋が、なんか、遺伝子が受け継がれてますね。

A はっきり言って「しょうがないなあ」って言って、ランドセル探しに行くと、結構面白いんだよね、これが。

Q また、そこでヒントを。そうかあ。

ヒントじゃなくて、ランドセルを探すっていうことは「面白いな」と思うわけじゃないですか。

Q ランドセルの絵とか描かかれたことあるんじゃないですか。

A ないないないないない。「ランドセル探してる、この俺、なんなんだろうな?」って思うみたいな。そういうのって面白いじゃないですか。「孫ってなんなんだろうな」って思う。

Q じゃあ、どっちかというと、「これをやるために」というよりも、流されていって、そうなるということも結構あるんですね。

A 全然、流されてるよね。ほんとに付き合ってるもんね。だって、「紙芝居、どうですか」って。紙芝居って、おれん中の発想、全然ない。「めんどくせえな」って思ってるんだけど、やってみると、結構、紙芝居なりの楽しさと面白さがあるんだよ。つまり、逆に言うと、展開が違う、現場が違う。「おお、なるほどね」って。そういうのって、できそうな場合は引き受けるし、あんまり適任じゃなければ、「ちょっと無理ね」ってのは、それは簡単だよね。

Q じゃ、あんまり、今まで五味先生がこうなりたくて、こうしたということって、ないんですね。結果的にこうなったから。

A そうだね。こうしたくてこうなったってのは何割か、あるんでしょうね。

Q だけど、こうしたいから、こうしていくということはないわけですよね? 今みたいに、「紙芝居、どうですか」って乗っかったら、いつの間にか紙芝居描いてたみたいなことですよね。

A 結構そういうの、あるよね。

Q でも、これだけ大御所になったら、自分スタイルがあって、「俺にそれ言う?」みたいになるけど、それを柔軟に素直に「いいよ」みたいな感じになるんですか。

いや、そうじゃなくて、すぐ作戦練るわけ、その次に。紙芝居をやったときに、ちょっと違う紙芝居をそのうちにやる。やっぱりキャリアないから、俺。もうちょっとだまかして、「えっ! こんな感じがあるんですか」っていうのをやろうかなあと思って。Q 言い方は悪いんですけど、商売人でもあると思うんですよ。

A もちろん、もちろん。

Q すっごいプロフェッショナルですよね。

いつも言うのは、ボランティアをやってるわけじゃなくて。だから、たとえば、つまんないインタビューで、「3歳の子どもにどんな本がいいんでしょうか」って、「そりゃ、五味太郎の本だろう」ってのは。すぐに終わっちゃうよ。

Q はははは(笑)。

つまり、はっきり言って、俺、この仕事してるんだもん。これで、稼ごうと思ってるんだもん。

Q だから、説明で、ピンクを生かすためにはこういう配色がいいとかね、こういうレイアウトがいいねとか、デザイナー的な思考もあるし、プロとしてもすごいし、発想力もあるし、戦略もあるし、ほんとにすごいですよね。

A それを言いにきたわけじゃないでしょ、わざわざ。

Q いやいや、結局それを言いにきたのかもしれない(笑)。

すごいから、やってるんであって。だからさ、俺ん中で、できるからやってるんであって。

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Q よく世の中で好きなことをやってるアーティストで経済活動が伴わないというのがあったとして、「だったら、こういうやり方したらいいんじゃないかなあ」って、ちょっと仕掛けを考えるというか、その辺がプロフェッショナルなんだと思うんですよね。やりたいようにやってるだけじゃなくて、「ちょっとこれをこうしたら、面白いかな」と。

A あのー、一つには、俺、無人島で一人でいたら、絶対、絵本描かないよね。ヤシガニなんか相手に展覧会やってもつまらないじゃない。だから、この世の中に人がいるんで、面白いわけじゃないですか、実際。その人たちを使ってどうやって楽しめるかなっていうのが基本にあるわけじゃない。そのときに出版ていうものは、一つのものを複製するという形の中で、世界の津々浦々まで行かないにしても、そういうメディアがあるんだということに気がついたわけよ。「これはいいな」って思ったわけ。

Q ライブで言わなくても、旅公演しなくてもね。

A 旅公演しなくても。それで、途中で面白いから、ついつい調子に乗って、『大人問題』(講談社)なんか書いてる。要請があって、「だったら、言っちゃおうかな」みたいに書いたら、結構面白いもんができて。そしたら、講演会の依頼がすごくて。それを「ライブで言ってください」みたいな、はははは(笑)。

Q で、そのおかげで旅に行けるわけですよね。

A まあまあまあまあ、そのおかげでってこともないけど、めんどくさいんだけど、それは。日本国内って、全部行ってるんだよ、実は。行ってない県ってなくて。

Q でも、断ってないってことは、やっぱり。

A 若いころ、特に。それは少し興味もあるし、宣伝も含んで。ギャラ稼ぐのも含んで。

Q 創作して、本になったら、その後の反応はわからないけど、ライブで、お客さんの反応がすぐ見られるって、どういう感じですか。

A いや、それは向いてないんだよ。でも、ライブで見るのが、面白いんで。

Q どんな人が来るかって。どんな人が来るんですか、実際。

A わかんないよ、それは。「行くまでに講演のタイトル、決めてください」とか無理なのよ。そういうのはもう、「絵本の周辺」っていい言葉、思い出してね。なんでもいいじゃん、「周辺」だから。ははは(笑)。

Q でも、五味先生の講演会に来る人って、おしゃれなアーティスト志向の人?

A いろんないろんないろんないろんないろんないろんな。それは行ってみないとわかんなくて、知能のレベルもよくわかんないじゃない。そういうの、見てる。で、特に何を伝えたいっていうのがないから。それと、後で聞いてみたら、絵本作家の人の講演会の多くは、「絵本は子どもにとってもいいんで、こうやって与えたら、こうやっていいですよ」っていうのが多いよ。「バカじゃないか」と思うよ。

Q はははは(笑)。じゃ、どんな話をするんですか。

A 「タイガースがなんで弱いんだろう」とかって話。

Q そういう(笑)。きゃあ、すごい。

「絵本の周辺」だからさ。だから、もう「ともかく」とか。「なんで、みんな暗いんだろう」とかって話とか、その時に浮かぶやつを適当にしゃべってるわけ。

Q じゃあ、もう、ライブペインティングみたいなものでしょうね。

A そうそう。それで「ペインティングしろ」って言うけど、「あれはやんないよ」って言うのよ、めんどくさいから。そういう、聴く側の気持ちがわかんないわけ。俺、聴かないから。他人(ひと)の講演会、行かないもん。だから、よく人に聞くよ。「みんな、何が楽しいんですか」って。いやあ、ははは(笑)。そういうの、面白いわけね。

Q でも、こういう話を聞いて、また本を読むと、「ああ」っていろいろ思える。

A うん。いいんだよね、それでね。

Q それこそ、まさに「裏切らない」ですよ。こういう作品をやっておきながら、「僕は朝9時に起きて、制作をしています」みたいなことを言われたら、びっくりするけど。

A だから、そういうこう、何て言うんだろう、リズムが。たとえば、ある作家さんが、「朝、起きましてね」って、コーヒーは飲まないんです、お茶飲みながら、依頼されたものを既決・未決を分けてってやるんだって。その片方で、詩書いたりして、文章書いたりを午前中やって、午後ちょっと散歩して、何してって。

Q じゃ、全部、時間割。五味先生は、たとえば、「はい、絵本館シリーズ」、「はい、童心社」みたいな感じで出版社ごとに仕事を分けてやってないんですか?

A 全然、全然、ないないないない。もちろん仕事のタイプと量的にも違うけど。その作家は、天才なんだよ。それができちゃうんだから。

Q そういうのをやれって言われたら、できますか。

A ちょっとはできるけど。

Q ははは(笑)。

A ずーっとは続かない。講演会も3か月に1回ぐらいは楽しいんだけど。いや、だって俺、月に俺、4本ずつぐらい講演会をやったことあるもん。だいたい、年間に50本ぐらいじゃない。近所もあるし、旅行行かなくちゃも。ふっと気がついて、「なんで、俺は、気仙沼来て、しゃべってるんだろう」「なんで、城崎で?」と思うじゃないですか。そのうち、だんだんバカバカしくなってきて。

Q でも、そうやって城崎に行って、ハッと思って、また何か面白いもの見つけて、それが絵本になるってこと、あるんですか。

A ないない。何度行っても、なんないよ、絶対。そんなのとは、全然、別次元だと思う。ただ、暮らしてることが何かになるのは、あるんだろうね。ただ、自分では意識してないけれども、そういったものが。理屈つければ、あるんだろうね。

Q じゃあ、生活もカテゴリー的に分けていないってことですね。

A 余計な話で、ズレてるかもしれないけど、今の人々が弱いのは、因果関係がすごく好きなんだよね、みんな。「親の因果が子に報い」みたいのが大好きで、こうだったからこうっていうのがあって。たとえ話だと、ブルガリアの人がね、ヨーグルト飲んでるから長生きだ、っていうのがあるじゃない。

Q あははは(笑)。

A 全然、違うんだよね、あれ。長生きだから、ヨーグルト飲んでるんだよね。

Q あああー、はいはいはい。

A なんの因果関係もないんだよ。だから、「ブルガリアってヨーグルトを飲んでるから、長生きするであろう」、嘘だろうって。いまだに非科学、妄想で。目の悪い人は、目玉をいっぱい食べると目が良くなるって、嘘だろうって。ほんとに、魚の目とかなんかをよく食べるんだよ。で、骨の弱い人は骨食べたら、骨強くなる。だったら、トカゲみたいのだったら、トカゲになっちゃうよね。

Q はっはっは(笑)。

A いや、ほんと、すべて。「この本読んだら、こういう子になる」っていうの、よくあるんだよ、みんな。洋服買いに行ったとき「これ、今年、流行ってますよお」って。それ、やめるよね、絶対に。あっちが売りに来てるわけだろ? あれがセールストークになるんだよ。「これ、今年とっても流行ってます」って、「じゃ、私も買おう」っていうのが、一方には必ずあるんだってことだよ。

Q そうですね。でも、五味先生の場合は、「話しかけてきたんだよ、服が」っていうんでしょ? 

A そうそうそうそう。

Q かっこいい。かっこいいなあ、それ。

A それ、簡単だよ、一番。だから、服が語らない店はあっという間に出るよね。そうすると、店出るときに、「ありがとうございました」って言うのね、店員さんが。何にもしてないのに。「何かしたのかよ」って、ありがとうなこと。

Q そう思ったら、服が話しかけてくるとか、電柱話しかけてくるとか、リアルなんですね。だから、子ども目線で書いたとかじゃないから、ほんとに自分が発見したこととか、ほんとに自分が思いついたことを具現化してるんですね、五味先生の絵本は。

A 間違いなく。それはもう、間違いなく、それ以外の何ものでもない。

Q その絵本を描くために何かをしているわけじゃなくて。

A そう。面白いのは、文字ね。文字って、ひらがなとかカタカナってさ、面白いわけ。ね? 漢字も面白いし。「どっち曲がるんだっけ?」とか思って書いてて、すごく、日本の文字は面白い。「できれば、世界の人に日本のタイポグラフィ、見せたいなあ」って。「そういう本は面白いな」つっていって、アメリカの編集者に話したり。

Q へえー。面白い。

A 日本でも売ってますけど。フランスでも出てるけども。そのときに、面白いのは、上がった文が「教育的配慮」っていった部分に合致することがあるわけ。だから、「教科書でも使いたい」みたいのが出てきちゃうわけ。そうすると、例によって、「教育のものなんだろう」っていうことで、グルグル世間を回っちゃうわけ。俺はもう全然関係ない。そうすると、子どもが面白いから、ノっちゃうわけ。その代表が『ことわざ絵本』(岩崎書店)だよね。

Q うんうんうんうん。

『ことわざ絵本』は、俺に言わせれば、「教科書に使うのはもったいない」って言ってるくらい、面白いわけだよ。ところがさ、ことわざの単元なんて、ほんと2週間ぐらいで終わっちゃうわけだよ。次行かなくちゃいけない。そうすると、子どもは「また、ことわざ、やろうよ」みたいになってくると、困っちゃうわけ。

Q じゃ、読者からムーブメントが来て、それを親とか学校の先生を動かして。

A こういうのだけ見ると、「五味さんは教育本が得意だ」ってふうになってるわけ。「それもいいんじゃないですか」って。

Q でも、子どもの心をつかんでるっていうことで言うと、ほんとに、子どものためにと思って、狙ってやってる人から見れば、悔しいぐらいですよね。(笑)狙ってやっても、全然、売れない人もいるわけじゃないですか。

狙うからダメなんだよね。違うじゃないですか。

Q バレちゃうってことですか?

A うん。要するに、お子様ランチって、大人のほうは感動してるんだけど、子どもはほんとは「大人のカレーライス食いたいな」が、普通じゃない。普通の食い物でいいわけだよね。

Q そうですねえ。

普通の食べ物を子ども用に食べればいい。つまり、すべてそうなんだよ。その人なりにやればいいんだよね。そうでしょ。その人なりに使えばいいんだよね。で、そういうことがやりにくいのは、物理的に、自転車とかね、靴とかね、大きさが変わるのは子ども用はなくちゃいけないわけ、当然。小型にちゃんと肉体に合わせてつくるのは必要なの。でも、この文化の世界に子ども用なんて、絶対にないはずなの。子どもは子どもなりに使う。20歳は20歳なりに。個人で、みんな見てくわけ。つらいのは、「大人ってのはこういうのがわからなくちゃいけないんだよね」って思ってる大人はつらいわな。

Q だからね、五味先生の本て、あまりにも簡単に読めば簡単だけど、これは「奥が深いんじゃないかな」って思って読むと、深く思えてきたリとか、考えさせられたりとか、すごく変化する本。

だから、深いのを狙ってると深くならないでしょ。

Q はい、浅くなる。

A だから、「深いんだよ」って言って、「お前たちにはわかんないんだよ」って、ずっと守ってきている人がいるわけ。それがつらくなるわけ。哲学なんてやってる人なんて。だって、絵本なんて簡単だもん。「あるかな? ないかな?」って、哲学ってそういうものでしょ。

Q ですね。最後に、五味先生にとって、絵本ってなんですか。最終的に。こんな話して、絵本て何ですか?

A 君がまとめて。だって、ほんとう、生活だもの。「本をつくる生活」っていう感じだもの、実際は。

Q そうでしょうね。はい。

A だから、たぶん、アスリートなんかと一緒だよね。俺、サッカーする子なんだよね。だから、サッカーする子がメシ食ってたりするわけだよ。サッカーもしてるんじゃなくて。つまり、プロっていうのは、生活化するって意味でしょう、よかれあしかれ。だから、サッカーしてる人生なんだよね。野球やってる人生なんだよね。野球やってる人生も、風呂入ったりしてるんだよね。それだけなんだよ。

Q ふふふ(笑)。じゃあ、五味先生から絵本を取り上げられたら、どうなります?

A 他のこと、やってるよ、また、次。うん。だから、ほら、そういう生き方って、なかなかできないじゃない。

Q うんうんうんうん。それしかないみたいな感じになる。

A 豆腐屋って、俺一回取材したことあるんだけど、豆腐屋って、ほんと豆腐の人生だよね、あれ。大変ね。変な時間にやってるよね、あの人たち。夜の22時ぐらいから起きて、ずっと豆で、こんなことやって。

Q 普通の人から見たら、五味先生の13時から起きるのも、変な人ですよ(笑)。

A 絵本をつくっている人生なんだよね。

Q 何時に寝てるんですか。

A わかんないよ、そんなの。終われば寝るし。

Q 決めてないんですか。

A うん、寝ようかなと思うと、なんか、ワールドカップとか始まっちゃったりすると、それ見てるから。「しょうがないな」と言いながら見ているんだけど。それはもう、全然全然。だけど、一体化してると、意外と、「まあまあ、人生、結構充実するぜ」って。あまり、文句もない。いや、文句言ってるけど(笑)、そんなに不平不満はないよね。うん。

Q 最後に。若い人と元気がない人と、やりたいことがわからない人にメッセージを。

A 全然、興味ない、そういう人は。ほんとに。

Q 自分で考えてってことですか?

いやいや、だって、その人たちは何か理由があったと思うよ。元気が出ない理由。それを俺がわかるわけないじゃん。

Q 確かに。でも、その元気がない人が子育てしてるんですよ。世の中出てるんですよ。どうしたら、元気が出るんでしょうか。

もう探すしかないじゃない、実際、自分で。はっきり言って、根本の根本、「お前の人生はお前の人生でしかない」っていうところが叩き込まれてないんだよね。それは、アフリカの動物なんかみたいに、やつらが気楽なのは、自分で生きてくっていうのが基本になっているわけじゃない。食われちゃったりするわけだから。ところが、なぜか知らないけど、ヒトっていうのは、みんなで生きているような錯覚に陥るのが弱いわけ。結果、現象として、みんなで生きてるんだけど、基本の「お前の命はお前の命なんだもんな」っていうのがなくなる。

Q なるほど。

A だから俺、おじいさんの孤独死なんて、「孤独死」なんて失礼な話だと思うよ。死ぬのみんな、孤独死だよな。

Q ああ。つまり、世の中が共存するって、仲良く手をつなぐんじゃなくて、一人ひとりの個体として生きて、結果的に共存するというか。

A いや、だから、そうせざるを得ない生物でしょ。だから、仲良く、という図式の中で思い込みすぎちゃっている。また、そういう教育しているから。人のために生きてるみたいなことがあるんで、わかんなくなっちゃうんだよね。だから、今、弱い人にみんなで励まして強くして、どうすんの?

Q なるほどね。

A 俺、責任もてないもん。そいつら、急に元気になっちゃったら。

Q きゃははは、確かに(笑)。みんな、ハイテンションになったら(笑)。

いや、だって、あとは、その人の趣味だから。その人の感覚だから。

Q 人のバイオリズムもありますもんね。象が描きたいときもあれば。

A 「基本的に、自分って暗い人間じゃないかな」って思うこと、よくあるもの。俺、暗いと思うよ。

Q そうですか。

A うん。いろいろ考えているよ。戦争のこととかさ。

Q たとえば、五味先生の本は、25か国で翻訳されている。こんな人いないじゃないですか。発信力のある絵本作家って。だったら、ちょっと平和っぽいことを入れてみようとか、そういうこと、思わないですか。

A 全然、思わない。

Q あらー、残念。

A 俺は平和っていうのは、「俺は暗いのかな」と思うのは、平和な状態って考えてる。つまり、たぶんみんな、「戦争がない状態」と思っていると思うんだよね。戦争のないのが平和だって。そんな図式じゃないもの。「平和ってどんなこと?」っていう話を、のんびり描けないもん。平和っていいねとかいう本も売りたいのかと、バカげている。でも、今、あなたが言ってること、やってるよ。時間はかかるけど。それは、

Q それは?

自分が楽しくて、好きなことをしているかぎり戦争は起こらない。戦争の表面的な抑止力って、戦争に行く暇がないってやつが51%を超えたら、起こりえない。

Q みんな、やりたいことがちゃんとあって。

A 大事な仕事を置いてまで、戦争なんかに行く暇がない。戦争がどこで起こっているのって考えたら、逆の図式、失業者が多いところ。要するに、生活が充実してくる人が、少なくとも51%を超えたら、世界って「平和になる」んじゃないけど、「充実するよ」っていう意味だよね。

Q なるほど。いい話ですね。

A でしょ?

Q 一人ひとりが充実した生活をしてたら、戦争してる暇もないと。

A 俺の本ね、イスラエルの出版社からも出てるんだよ。そのイスラエルのおばちゃんと結構仲良くて、「先生、イスラエル来てよ」「やだよ。あんな、戦争起こして」「なんの話?」って言うわけ。「だって、おたく、戦争してんじゃない」って言ったら、「えっ、ああああ。西のほうの暇な人?」つってたよ。西のほうってなんにもやることないんだって。だから、それが今、カザフスタンの話になり、パレスチナの話になって。あれ、はっきり言って、やることがない。それが、彼女の実感だと思う。「上はいいわよ。北海道みたいよ。いらっしゃいよ」「行こうかな」て思って。

Q ははは(笑)。

A それ、4~5年前の誘いだけど、今、行くかどうかわかんないけども。俺はイランには3度ぐらい行っているけども、それからサウジアラビアも。まだ平和だった頃。だけど、不毛の土地だよね。ここで、充実して、農業やって、酪農やって、あるいはそれに伴う工業が始まってっていう希望のない風景だよね、実際は。で、アメリカって国も、一部はいいけど、アリゾナのほうなんかに行ったらもう、土が割れてるみたいな、何にもできないよね。

Q それを思ったら、日本はいいですね。ちょっと行けば海に行けるし、山も森も川も湖もあるし。

A いいよ。ほんとにすごい国。

Q 素材がね、ありますもんね。

A だから、平和運動っていうのを、表面的に戦争反対をやってもきりがないんだよ。違う違う。もっとじっくり、今まで自分たちが何をしてきたのか。今勉強し始めている人が結構若いのにもいて、そしたら、ふっと気がつくのよ、やっぱり。調べれば調べるほど、暗くなっていくよね。

Q でも、ほんとに、これだけ絵本をいろんな国に翻訳されて、「これがオリエントだ」って世界の編集者に言われたりするってことは、五味先生の本を通して日本のことも知られるかもしれないし。

A と同時に。

Q 「子どもに」とか言ってる場合じゃなく、「世界に」ですね。

A 価値観の問題だよね。「そういう価値観もあるんだよ」っていうことに関して。地味な仕事なのかもしれないんだけど、そういう一種の心の問題っていうのは、子どもの頃から読める本っていうのは、そこでインプットされるものって、何かあるんだろうなっていう気はするんだよね。

Q そうですね。

A だから、ガキの頃に見た穏やかな風景、それをガキの頃から激しい風景を見ていたり、俺はフィリピンにしばらくいたけど、やっぱりマニラのあの、スモーキーマウンテンていわれるところの近辺で幼児の頃過ごすと、どういうことになるかなあっていうのは、他人事(ひとごと)ながら、やっぱりちょっと気になるよね。熱がもくもく出て、臭いんだよね、ずーっと、いつもいつも。そういうところで生まれて育っている子どもいるわけ、実際。砂漠の中で生まれた子もいるわけ。だから、初期の頃、割と東南アジアなんかをずっと歩いている頃に、「これでまともにいくのかなあ」って。実際、まともにいってないよね。バンコクが、ほんとに、どんどん近代化していくの、この40年ですさまじく変わったけど、今見るとね、やっぱり「また、2、3トラブルなあ」っていう感じがわかってるし。

Q はい。

A でも、止めようがないでしょ。ゆっくりゆっくり、行くしかないし。「近代化ってのはなんだろうな」ってのは実際思うし。日本もやってきたし。近代国家になって、こうやってきたけど、「今、俺たち、どうなんだろうか」って思うと、すごくくだらない事件がいーっぱい起きてるわけよ。

Q ですね。だからこそ、一人ひとりが充実して、ワクワクする好きなことをやって。

A そう。結局はそういうことなんだよね。

Q すごくいいお話をたくさん聞かせていただきました。ほんとに、素晴らしいお話ばかり。ほんとに、ありがとうございました。

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プロインタビュアー、元女性誌編集者

著書『人見知りさんですけど こんなに話せます!』(最新刊)、『1万人インタビューで学んだ「聞き上手」さんの習慣』『みんなひとみしり 聞きかたひとつで願いはかなう』。雑誌編集者として20年以上のキャリア。大学時代から編プロ勤務。卒業後、出版社の女性誌編集部に在籍。一万人を超すインタビュー実績あり。人物、仕事、教育、恋愛、旅、芸能、健康、美容、生活、芸術、スピリチュアルの分野を取材。『暮しの手帖』などで連載。各種セミナー開催。小中高校でも授業を担当。可能性を見出すインタビュー他、個人セッションも行なう。

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