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英語がダメでも「しゃべり」で勝てた理由~NYコメディで成功した日本人が語る3/5

佐藤智子プロインタビュアー、元女性誌編集者
ブロードウェイコメディクラブにて。プロになってからの初舞台

「何もない状態で、ニューヨークに行くピースの綾部さんは、当時の僕そのもの」。

英語力なしコネなしカネなしキャリアなし。ゼロから登りつめた成功には秘訣があった。

「できるはずがない」と周りからバカにされながらも、アメリカ版M-1グランプリの全米お笑いコンテスト、NBC『ラストコミックスタンディング』で準決勝に進出。非英語圏の外国人初の偉業を成し遂げた。

あのビヨンセも笑わせた、世界唯一の日本人プロスタンダップコメディアン、RIOさん。NYのコメディクラブを中心に1万回以上の舞台経験を誇る。20年間の活動で世界中のセレブゲストを含む40万人以上を爆笑の渦に巻き込んだ実力派エンターテイナーから学ぶ「無謀とも思える挑戦へ向けての準備と心がまえ」。

ニューヨークのエンターテイメント事情。知られざるコメディアンの生活ぶりとは? 英語が全くしゃべれない状態から、どうやってネイティブのアメリカ人を笑わせることができたのか。

Q リオさんのやられている「スタンダップコメディ」というのは、簡単に言うと、どういうものなんですか。

漫談だね。英語でお笑い、英語で漫才をしている。例えば、綾小路きみまろさんが英語で漫談しているというような感じです。

Q 1人で? ピンでやっている。ピン芸人。

A そうですね。きみまろさんが英語でしゃべって、観客が全員アメリカ人で、というようなイメージ。持ち時間は、3分~20分くらいです。

Q そういう場所があるんですね。

ニューヨークにはコメディ専門のクラブが20軒くらいあるんですよ。大きいホールでやる時もありますが。

Q じゃあ、ステージでしゃべりをするということですね。

A そうですね。マイク1本で。

Q ネタは毎回同じなんですか。

基本的には毎回同じネタでやりたいんですけれども、お客さんが参加型なんで、僕がお客さんにふるんで、どうしてもネタ通りにできたことは1万回やって1回もないですね(笑)。必ずお客さんが途中で入ってきちゃうんで。勝手に話しかけてくる(笑)。

Q そういうところは、やっぱりアメリカなんですね(笑)。日本のお客さんみたいに、とりあえず黙って聞いていてはくれない?

A そうだね。まあ、僕らもふるしね。

Q 百聞は一見にしかずなんですけど、あえて言葉で聞くと、どういうネタが多いんですか。

A じゃあ。「中国人の方いますか?」と言って、「iPhone見せてください」、「本物のiPhoneなんですか? じゃあ、中国人じゃないでしょ、あなた」という感じです。

Q わあ、そういう感じですね。これ、書けるかという感じですけど(笑)。例えば、時事ネタなのか、人種的なネタなのかとか。自虐ネタとかなんですか。

A 網羅していますね。自虐ネタも多いですね。日本人の自虐も多いし、アジア人の自虐も多いですね。写真を撮ってきたら、「俺以上に日本人だな」とか。さらっと。携帯とかも、「頬骨が高いから笑うと切れちゃう」とか。「ウインクもできないね。まぶたを開けても閉じてもわからないからね」とか。「ちなみに、今、開いてます。見えてますよ」とか。

Q なるほど(笑)。だいたい今、どれくらいのペースでステージに出ているんですか。

週20回。

Q そんなにできるものなんですか? 朝から晩までやっているんですか。

金、土は5回ずつ。1クラブで夜9時から始まって、深夜2時まで、2時間おきくらいにやっているから。はしごすると、だいたい。

Q それは時間が決まっているんですか。

A はい。それを待っていて、可能な限り回るというか。

Q 今はどういう契約になっているんでしょう。事務所に入っているんですか。

A 自分でクラブに今週この時間オッケーなんで、と言ったら、じゃあ来てと。

Q ということは、クラブと契約しているということですか。

A そうですね。クラブとたくさん契約していますね。

Q じゃあ、時間をズらしたりして、自分でスケジュールを組んでいるんですか。

A はい。移動時間がだいたいこんだけあれば、行けるかなあと。ギリギリなんですよ。電車がずっと来なくて、行って、着いて、はぁー、はぁーと息つくこともあるよ。

Q え、20軒というのは点在しているんですか、ニューヨークに。

A うん、点在している。歩いていけるところもあれば、電車でいくところもある。

Q どのへんにあるんですか。

ニューヨークのマンハッタンの中に点在している。タイムズスクエア近くとか。

Q オフオフブロードウェイみたいな感じですか。

A もうちょっと散らばっているね。ブロードウェイにもあるし、ソーホーにもあるし。

Q ということは、ミュージカルを観にいくような感覚で、コメディ好きな人はそういうところに観にいくわけですか。

A そうだね。だから、出演者のほうも、あっちで出てた人が、移動して、こっちにも出てるみたいなことはよくある。

Q はあ~。じゃあ、ずっと同じファンに追っかけられるようなこともあるんですか。

A あのね、これが会わないんだねえ。1万回やっているんですけど(笑)。

Q その20軒をぐるぐる回っているんですね。ギャラっていうのは。

僕らのギャラは、1舞台20ドル~2000ドル。日本円でいうと、2000円から20万円まで。いろいろなんです。

Q え? どういうことですか、それは。

A えっとね、ニューヨーク以外でも仕事があるんですよね。ロサンゼルスとかの地方。そうすると、20万円とかもらえるんです。でも、ニューヨークにいくと2000円になっちゃうんです。

Q ニューヨークでやっているというのが、ネームバリューになるんですね。

A そういうことですね。ニューヨークのギャラの値段が10倍、100倍になるから、僕らは、ニューヨークで1ドルでもギャラを上げたいんです。そうすると、そのままふくらむから。

Q 紅白出場歌手といったら、ギャラが上がるみたいな。

A そうそう、その通り。ニューヨークでプロでやっているというのが、紅白出場歌手みたいな感じなんです。

Q じゃあ、タダでいいから出してくれというのではダメなんですね。

A だって、×0になってしまって、そのままゼロになるんで。そもそも呼んでくれませんし。プロになっていないと。

Q プロというのは、どうしたらなれるんですか。いつ決まるんですか。

A それはね、自分で言うの。クラブに、タダで使われている時に、ある日から、「今日からもう、俺はタダではやらないからね」と言うの。

Q えええ~、自分で決めて言うわけですね。賭けですね。それで、「じゃあやってみなよ」と言われて。

A そうしたらやるしかない。僕らも勝負だから。

Q はあ~。最初がタダから始めているんですよね。

A はい、みんな、そうです。

Q タダの時というのは、何年くらいだったんですか。

僕は、5年くらいやりましたね。

Q えっ、5年?

A 僕は、短いほうですけどね。

Q えええ。どんな時に、急に、プロになれたんですか。

A 僕はテレビ出演がきっかけですね。そこでマネージャーがついて。マネージャーも交渉するようになって。

Q テレビ出演というのは、どんな番組に。

『ラストコミックスタンディング』。NBCのオーディション番組。

Q 誰でも出られる?

A そう、日本でいう、M‐1グランプリみたいな。で、全米中で準決勝まで進出してからはずっと。

Q じゃあ、マネージャーがつくというのは、そのテレビを見て、マネージャーが直接連絡してくるんですか。

A はい。僕らは、個人契約なんです、マネージャーとは。

Q 何人くらいの方から連絡がきましたか。

A その時は、3人くらいかな。

Q へえ。その中からマネージャーを雇うんですね。

A そうです。僕が彼女を雇い、彼女が僕を雇うみたいな。雇い雇われ。

Q マネージャー代というのはどれくらいするんですか。

ギャラの15%くらいとる。

Q でも、スケジュールをきってくれるんですよね。

A 全部やってくれる。でも、僕みたいなやつが何人もいるから、僕から15%、あいつから15%みたいに。20万円の15%、何にもしないのに、3万はとる。

Q でも、仕事をとってきてくれるんですよね。

A うん、とってきてくれる。

Q じゃあ、ありがたいですね。

A そうですね。20年間くらいやって、未だにタダでやっているやつもいっぱいいますよ。

Q ああ。テレビに出たら、いきなり0円から2000円になったんですか。

A そうですね。ニューヨークの相場が、例えば、日本の「ダウンタウン」クラスの人が出ても、ニューヨークではもらっても1万円くらいですかね。

Q ええ~。

A ニューヨークは厳しいの(笑)。

Q 一番もらっている人でいくらくらいですか。

100ドル。1万円。

Q はあ。じゃあ、0円から5年たって、いきなり2000円。それで、クラブはオッケーが出たんですね。

A でもね、「だったらいらない」と言われたクラブもありましたよ。あと、20回出演していたのが、次の週から2回になりましたよ。

Q へえ、露出が減るんですね。

A そう。いらない、いらないと言われて、オッケーと言われたところは、2回出演とかに激減して。

Q でも、それは5年目の最初ですよね。今は?

僕は50ドル。5000円ですね。

Q え、今、20年目ですよね。もうそろそろもっと上げてもいいんじゃないですか。

A これが難しいところなんですよ。だってね、超、超、超、一流で1万円だから。「ダウンタウン」クラスで1万円だから。僕はそこまでまだまだ行っていないから。そこは無理があるかなあと。今は、50ドル~80ドルくらいにはなっているけど。

Q すごいですね。何年目くらいから50ドルになったんですか。

A 徐々に上げていって、10年目くらいから20ドルから50ドルになって。

Q じゃあ、「自分の価値を見極める」というのが、ひとつテーマとしてありますね。

A そうですね。それで、打ち破れてしまう人はたくさんいるしね。逆に、力あるのに、ガッツがないからギャラを上げないという人もいるしね。そこが試されているんですよね。マネーゲームですね。

Q なるほど、自分の価値を見極めるというのは、難しいけれど、大切なことですね。

A そうですね。そこが面白くもありますね。

Q 今、ぶっちゃけて、収入はいくらくらいなんですか。

A 収入はね、ステージ以外にもテレビやCMに出ているから、そっちのほうが大きくて。これもアップダウンがあるからね。NYのコメディクラブだけだと、どう頑張っても月に10万円くらいかな。

Q チップとかはもらえないんですか。

チップはないですよ。ほんとに、ギャラだけで。

Q チップはくれないんですか。禁止ですか。

A チップはくれないです。ストリッパーならもらえるかもしれないですけれど(笑)。クラブ以外に、テレビとか、CMとか入ってくるから、1本10万とかするから。だいたい平均すると、月収30〜40万円じゃないですか。

Q じゃあもう、そもそも、ニューヨークで、お笑いの世界で成功するのは大変ですよね。

A 大変ですよ。未だに、収入ゼロのやつばっかりだから。アメリカ人ですら。

Q 日本人のコメディアンは実際何人くらいいるんですか。

A プロは、僕ひとりですね。というか、アジア人でプロの人は5人くらいかなあ。アジアンアメリカンを含めて。外国人となると、ヨーロピアンが何人かいて、フランス人とドイツ人と、あと、オーストラリア人がいて。プロのコメディアンが1000人以上はいると思うんですけど、非英語圏の人は、僕を含めて3人ですわ。

Q ええええ~。っていう状態の中で、今、コメディアンとして生活ができている、なんて、すごいですね。

ということを踏まえて、インタビューを進めて行こうと思うんですが。

NBCのお笑い番組『ラストコミックスタンディング』準決勝進出
NBCのお笑い番組『ラストコミックスタンディング』準決勝進出

英語がまったくしゃべれずに、アメリカに行ったんですよね。それは、元々ダンサーを目指していたというのがあるからですか。

A そういうことです。

Q どれくらいの英語レベルでしたか。

英語レベル2でしたね。SAUSAGE、ソーセージって書いているのを、「サウサゲ」と読んでいましたね(笑)。「東芝EMI」は、東芝エミさんという女性だとずっと思い込んでいた。

Q それは、英語がしゃべれないという以前の問題ですよね(笑)。

A そうだね(笑)。じゃあね、「HELLO」って言ったら、「HAWAII?」って言われたことありますよ。空港で。ニューヨークに行きたいのに、ハワイだと思われて。

Q じゃあ、発音が全然ダメ。

A ダメ。      

Q そもそも、なんで、アメリカに行こうと思ったんですか。

A 学生の時、ダンスをしていて、社交ダンスで世界一になりたくて。

Q でも、普通は、アメリカに行きたい人って、英語を勉強するじゃないですか、事前に(笑)。そういうのはしなかったんですか。

A ある程度して、それだったのね。

Q ああああ。

A できるつもりで行って、それだったの(笑)。

Q 最初にどこに行ったんですか。

A LA。いるうちに英語がうまくなるかなあと思ったら、なかなかなれなかったね。

Q ダンサーだから言葉はいらないと。

A うん、無言のまま、パートナーと練習して(笑)。

Q マジックもやっていたんですね。26歳で一度渡米して帰国、30歳でNYに行って、コメディアンの道を目指すじゃないですか。その時点で英語力はどうでしたか。現実を知って、4年は経っているわけですから。

A まあ、4年くらいたっているから、だいぶうまくなっているかなと思ったけど、コメディアンという、言葉の達人たちの中だったら、全然。コメディクラスで、僕の名前を言ったら、それだけでザワザワされて。その発音を聞いて、「コメディクラスにくるのにこの英語で大丈夫か」とザワつかれて。アメリカ人特有の「わああ」って顔をされて。

Q この英語で? みたいな感じで(笑)。

A そうそう。先生、眉間にシワ寄っていたよ。

Q 日常の英会話は大丈夫だったんですよね。ご飯食べに行くとか、道をきくとかは。

A それは何とかやってきたけど、言葉の達人たちの中では、、、。

Q なぜまたそんな、ハードル高いところに行っちゃったんですか。

A それはね。その時のルームメイトがコメディをテレビでずっと見ていたの。僕も見てて。こういうのが面白いんだあって、英語わかんないけど、ずっと横で見ていて。

Q コメディチャンネルがあるんですね。

A そうそう。それで、終わったら説明してくれんのよ。ずーっと細かく。

Q 何が面白いのかと。

A そう。それで、そういうのが面白いんだねと、なるほどと。

Q 例えば、どういう類いの面白さでしたか。

A そうねえ。例えば、LAだったから、「パーキング行ったら、いつも空いているところがないんだよね。唯一、空いているところといったら、ハンディキャップのところばっかりなんだよね」「あそこ、止めたらいけないじゃん」「そう、だから、悔しいから、全部のところに、ハンディキャップマークを書いて、100個くらいのハンディキャップマークにして、全部止められなくさせてやったよ」という感じの。

Q ああ、そういう感じなんですね(笑)。

僕は面白くないと思ったんですけどね(笑)。アメリカでウケるのは、頭の中に画を描くタイプの笑いで。他には、アメリカでは、不吉な番号は13だから、13階は飛ばすんですよね。「12階の次は14階じゃん。だから自殺する人は大変なんだよ。思ったよりも早く地面に着いちゃうからね」とか。「だから、ああああ~とか叫んでいる暇ないんだよ」と。

Q ああ、なるほど(笑)。ブラックユーモアですね。絵に浮かぶもので、皮肉が入って。シニカルな感じですよね。

A そうですね。あとは、アメリカは殺人者が多いから、終身刑で刑務所から一生出られないじゃないですか。「その代わり、アクティビリティがあるから、野球もあるし、サッカーもあるし。椅子取りゲームもあるんだよ。ただ、電気椅子だけどね」という感じの。「誰も、椅子をとりたがらない」「お前行けよ」みたいな。

Q なるほど(笑)。オチが後で来る感じですね(笑)。私も、学生時代、アメリカにホームステイしていた時に、ホストファミリーのママが、「今日、すっごいビッグニュースがあるのよ」「何があったの?」「ミスアメリカが選ばれたのよ」「へえ、すごいキレイな人なんですか」「ノーノ―、全然」「じゃあ、スタイルがいいの?」「全然、スタイルもよくない」「じゃあ、賢いの?」「全然、スタイルもよくないし、賢くもないのよ」「じゃあ、なんで、ミスアメリカに選ばれたの」って聞いたら、「彼女はね、アメリカ全国民に素晴らしい功績をしたのよ。みんなに勇気を与えたの」とためてから、「誰でも、ミスアメリカになれるってね」って、最後にオチを言って、手を挙げて首をすくめるんですけど、そんな感じですか。

A そうです、そうです、みんながおんなじフォーマットです。

Q そうなんですね(笑)。あとは、「今日はお寿司を食べに連れていってあげるから」って、車で連れていってくれて、さんざんお店で食べて、払う時になって、「あ、財布忘れた」って、サザエさんのような展開で。で、私が払うしかなくなって。「ごめんね。ちょっと、貸してね。今、借りているけど、でもこれ、私のおごりだからね」って、ウィンクするという(笑)。

A そういうのが、コミュニケーションのスタンダードなんですよ。つまらない生活のままではイヤというか、ひと言付け加えるというか。荒波立てるというか。波を起こしたい。その、波を起こしまくっているのがプロのレベルという。だから、コメディアンというと、尊敬されるんですよ。みんながやっていることの上をいくわけですから。

Q 日本でいうところの明るい関西人みたいな。つまらない日常も笑いにしてしまう体質というか。じゃあ、みんな、オチをつけて、しゃべるんですね。

A そうそう。

Q 最初、何の話かわからないようにしておいて、解釈にオチがあるということですね。

みんなが関西人みたいな。

Q 賢いわけですね。

A そうですね。勢いでしゃべるんじゃなくて、なるべくフォーマットを作って。

Q 構成があるんですね。

手が出せないからね。叩けないからね。言葉のパンチ。まさに、「パンチライン」ですね。

Q ラインがネタということで、「パンチライン」っていうのが、オチということですね。

A そうです。

Q でも、コメディアンには全然なる気がないのに、どうして?

コメディクラスがあるということは、やり方を教えてくれるかなあと思って。

Q 順番としては、社交ダンスやっていて、マジックやっていて。

ダンス仲間のルームメイトがずっとコメディ番組見ていて。ダンスを諦めて、ニューヨークに遊びに行ったときに、新聞でクラスがあることを知って。教えてくれるなら、お金払うだけだから行ってみようかなあと。そしたら、最初から発表会だったという。

Q でも、クラスに行ってまでして、どうして、コメディアンになりたいと思ったんですか。

A その時は、ほんとに何もやることがなくて、ダンスもやめてしまって、これからどうしたらいいかわからなかった。ダンスも、社交ダンス以外で、バレエ、ジャズ、タップダンスも練習したし、ドラムもやったし。

Q じゃあ、体を使うことをひと通りあれやこれややって。

A その中の一つだったの。

Q ああ、これから何をしたらいいかわからない模索中で。

模索中の人、いっぱいいるじゃん。ニューヨークってさ、そういう人が多いから、いろいろクラスが開かれているからさ。

Q なんか、自分が変われるような気がする。

A そうそう。なんか、やらなきゃって。

Q でも、コメディって、他と系統が違いますよね。踊るのと、しゃべるのとでは。そういう、コメディクラスって、いくらくらいするもんなんですか。

300ドルで、8週間。週1回通ってね。

Q これは安いんですか。

A うん、安いですね。現役、バリバリの人が教えてくれるんだけど。もちろん、笑いなんか教えられないからね。行ったら、最初から発表会で。

Q でも、その発表会でやったのが、大ウケしたんですよね。何をしゃべったんですか。

A 僕は、トイレのシートの話。「トイレットシートの使い方がわからなくて。あのシートに穴を空けてするのに、そのまま何枚も置いてしたら、あれ、なんかおかしい」という。それが20年前。これは、僕の実体験なんでね。

Q ほんとに、いきなりネタをやれと言われたんですか。

A いやいや、1回目は自己紹介。それで、ザワザワされて、次の週から発表会。

Q ええ~。でも、英語がそんなに上手じゃなかったんですよね。

A そう。だから、こういうふうに言いたいんだけど、とバイリンガルのやつにお願いして、日本語を英語に起こしてもらって、録音して、ずっと聞いていたんですね。

Q ああ、そこなんですね。そのアイデアがすごいですね。コメディクラスに入って、1週間後に発表会があるという、宿題が出されて、その1週間でやったことが。

A まず、ネタを日本語で考える。

Q それはどれくらいの時間、何分くらいのネタなんですか。

A 1分もないくらい。

Q それを、日本人の方に見せたんですか。

A はい。バイリンガルの友だちに英語にしてもらって。と同時に、その友だちにそのセリフを覚えられないから言ってよと。で、録音して。で、僕が聞いて、オウム返しにずっと覚えていく。

Q その翻訳してもらった英語はすぐにわかったんですか。

A 意味はわかったんですが、どこで切ってしゃべっていいかわからなくて。だから、時間がないから、しゃべってみてよと。

Q でも、言い方もあるんじゃないですか。その方は日本人でバイリンガルの方? お笑いの方なんですか。

A いえいえ、普通の日系アメリカ人の学生。

Q でも、抑揚とか、お笑い独特のしゃべり方があるんじゃないんですか。

A その時、英語にいろんな種類があるとかわかんないから、とりあえず、僕より英語がうまいやつなら誰でもいいと思って。

Q じゃあ、とにかく英語を書いてもらって、発音がうまくできないから言ってもらって、それを覚えたわけですね。どれくらい、録音を聞きましたか。

A えっとねえ、お風呂の中でもずっと聞いていたから。ずーっとずーっと。環境が変わると言えなくなるから、道を歩きながらもずっと聞いていたし。

Q じゃあ、英語を見ながらではなくて、耳から。

A そう。もう読みながらでは発表できないとわかっていたから。最終的にはね、電気スタンドを持ちながら、マイクスタンドのように、光を自分に当てながら、その状態でできるようになるまでやりましたね。自己リハーサルがすごかった。ライトが当たっていると仮定して、どこまで記憶して言えるかと。

Q へえ。どれくらいの回数聞きましたか。

A 回数的に言ったら、何万回とか、聞いていたでしょうね。

Q 何時間聞いていましたか。

1週間、最後の5日間は、ほぼ、ずーっと聞いていたから。1日12、3時間は。1分間のネタを、ずーっと繰り返して。

Q それは、じーっと聞いていたんですか。何をするにも聞き流していたんですか。

A じーっと聞くこともあるし、やりながら聞くということもしていた。ずーっと集中しながら聞くのと、ぼーっとして聞くのと。あのね、ずーっと聞いていたらぼーっとしてくるの、どうせ。だから、ずっと聞いておこうと。お茶するのも、トイレ行くのも。ずっとリピート状態にしておいて。だから、もう右脳に残っている感じで。

Q すごい。じゃあ、1週間、それをずっとやって、発表会に行った時には、ベラベラだったんですか。

A でもね、まあまあ、下手クソだったけどね。自分としては、スラスラと出てきたんで。発音がうまいとかではなくて、聞いてて耳障りにはならないようにしようと思っていた。

Q それで、ウケたんですよね。

A そうですね。その下手さも含めて、ウケたんですよね。

Q それから、クラブに営業にいったわけですか。

A 最初はネタ見せではなくて、トイレ掃除したり、グラス磨いたり、氷を運んだり。それはみんなするのよ。

Q 最初は、コメディクラブのバイトとして入るわけですね。

A そう。それで、舞台の最後に出させてもらえるわけ。お客さん、2人とかになった時に。

Q わあ。一生懸命バイトをして、最後の最後で、やっと舞台に立たせてもらえるんですね。そこから、ついに、伝説のストーリーが始まっていくんですね。英語力もメキメキ、力をつけていって。

第4回につづく。

第1回はこちら。

第2回はこちら。

第5回はこちら。

プロインタビュアー、元女性誌編集者

著書『人見知りさんですけど こんなに話せます!』(最新刊)、『1万人インタビューで学んだ「聞き上手」さんの習慣』『みんなひとみしり 聞きかたひとつで願いはかなう』。雑誌編集者として20年以上のキャリア。大学時代から編プロ勤務。卒業後、出版社の女性誌編集部に在籍。一万人を超すインタビュー実績あり。人物、仕事、教育、恋愛、旅、芸能、健康、美容、生活、芸術、スピリチュアルの分野を取材。『暮しの手帖』などで連載。各種セミナー開催。小中高校でも授業を担当。可能性を見出すインタビュー他、個人セッションも行なう。

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