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ピース綾部のNY進出は最高のタイミング!? トランプ就任と米コメディ業界からの視点

佐藤智子プロインタビュアー、元女性誌編集者
(写真:ロイター/アフロ)

「最悪のタイミングで、NYに行くことになりました」と、ピース綾部さんが苦笑いをするのを見て、「本当に、今、アメリカに進出することは最悪なのか」という疑問がわいてきた。  

さっそく、NYのプロスタンダップコメディアン、RIOさんに聞いてみようと思ったら、ちょうど講演、ショーのために帰国しているとのことで、緊急インタビューを試みた。アメリカファーストの業界で生き残ったからこそ語れる真実。

ピース綾部さんはどうなる? 「むしろラッキー」

トランプ氏が大統領に就任して、アメリカ、いや、世界は大混乱。エンタメ業界もこれから大変なことになるのではないか。アメリカファーストが押し進められ、外国人が排除されるようになったら……、いったい、これから、どうなっていくのでしょうか。

こんなタイミングに、アメリカのエンターテイメント業界に飛びこもうとしているピース綾部さんは大丈夫なのですかね? と聞くと、リオさんから意外な答えが次々と返ってきた。

「僕は、最高のタイミングだと思いますよ。綾部さんは、ラッキーですよ」

え? それは、どういうことなんですか?

「だって、トランプの発言はすべて、ネタになるじゃないですか。コメディの世界では、『バッドニュースが一番のグッドニュースだ』と言うんですけど、コメディアンにとって、今は、ネタが作りやすい状況なんですよ。トランプの発言、しでかすことはイジリ甲斐がある。ネタの宝庫ですよ。すべてが笑いになると思いますよ。すべて、トランプのせいにできる。どんなアクシデントがあっても、トラブルに巻き込まれても、全部ネタになる。

お金がなくなった。トランプのせいだ。彼女にフラれた。トランプのせいだ。今日のご飯がまずかった。トランプのせいだ。と何でも「トランプのせいだ」というのをオチに使える。

綾部さんも何かあったら、トランプのせいにできる。こんな絶好のタイミングはないですよ。綾部さんは、ラッキーですね。だって、行く前からすでに、『最悪のタイミングで、NYに行きます』というネタが出来ているじゃないですか」

コメディの世界では人種差別は当たり前

先日も、アカデミー賞の授賞式をイランの女優さんがボイコットする、ということがあったように、エンターテイメント業界は大丈夫なんでしょうか。

「映画業界、音楽業界はわかりませんが、エンターテイメント業界の本丸と言われるコメディ業界では、全く問題ない。今までのままです。

というか、実は、コメディクラブで話されていることは、まさに、トランプが言っていることそのもの。コメディクラブはアメリカの縮図なんです。リアルアメリカと言ってもいいです。

お客さんは9割がた白人ですし、彼らは、一般階級の普通のサラリーマン、労働者たち。そして、その多くを動かしている経営者たちもよく来ます。いわゆるアメリカを形づくっている人たち。その人たちは、以前からずっとアメリカファースト。こうなったらいいなと思うこと、目指していることがトランプの考えそのままなんです。

トランプの発言は、言ってみれば、本音中の本音。彼らにしてみれば、オバマは理想を掲げて、正義感にあふれて、品行方正。だけど、それは表向きのアメリカであって。もうそれに飽き飽きしている。閉塞感があったんです。そこに、本音爆発のトランプの言葉に、開放感を感じているんです。人間味あふれるとさえ思えるくらいです」

じゃあ、影響を受けるとしたら・・・。

「IT業界とかではないですかね。外国人が多いので。でも、コメディ業界はほとんどが白人ですから。

コメディクラブでは、人種差別は当たり前だし、それが基本。悪口や文句や皮肉を言いまくって、それが、的を得ているから、みんな大笑いできる。表では、いい人ぶっているアメリカ人たちが、陰では本音を言い合って笑える秘密クラブが、コメディクラブなわけです」

わああ。そうなんですね。アメリカの本音が聞ける場所。本当のアメリカを見られる場所なんですね。

「そうです。みんな、陰でやっていたことなのに、トランプが堂々と大統領の立場で言うもんだから、『おいおい、バラすなよ、世界に』、恥ずかしいじゃないかって感じなんです」

実は昔から分裂していたアメリカ

「今、アメリカは分裂していると言われていますが、昔から分裂しています。黒人は頭が悪い、白人は体が弱いなんて、お互いが悪口を言い合って、ずっと、いがみあって、分裂してきた。でも、唯一、団結したのが、9.11の時。『こんなに、UNITED、UNITEDと言わないといけないくらい、僕らは分裂していたんだね。やっと、UNITED AMERICAになったね』とジョークで言うくらいでしたよ」

日本人はどうなんでしょうかね? 外国人として、排除されませんか。

「日本人は、体型、真面目さ、せこさ、ずるさ、器用さ、むっつり、靴をすぐ脱ぐ、目が細い、背が低い、頬が高い、メカに強い、無表情、声小さい、時間に正確すぎる、リアクション薄、すぐ写真撮るとか、いじられるよね。僕も言われているだろうけど、表ではみんな言わないから。陰で言っているから。どう言われているかは知らないけど。つまり、誰もが批判されているんです。

アメリカのコメディ業界は、ほんとに、白人至上主義。黒人20%、アジア人5%、イスラム圏の人は、あんまりいないんじゃないかな。お客さんもなかなか見ないね。別に排除しているわけではなく、住み分けられている。例えば、日本で言ったら、将棋の世界にわざわざ外国人が進出してこないのと同じ。最初からその場に行く気がないというか」

そんな中に果敢に飛び込んだリオさんは本当にすごいですね。

「バカですよね? だから、苦労しました。リアルアメリカの中でもまれてきましたから。表と裏を見てきて、最初は戸惑いましたけど、慣れました。それが、当たり前なんです。差別されて、毒舌に本音を言われて。傷つくとか、そういうことを超えて、余裕の笑いにできるようになる。僕の中では、トランプの発言は、なんか懐かしいような、落ち着く感じすらするんです。真のアメリカを象徴としているから」

トランプは業界も注目する一流コメディアン?

「実際、トランプは、コメディ業界では非常に人気がありますよ。というか、彼自体が、一流のコメディアンです。過激な発言、声のトーン、しぐさ、髪型、フレーズ、話の構成、ディフォルメして言う、同じキーワードを繰り返す、ツッコまれでもボケまくる。彼の演説は、よくできたコメディショーです。実際、コメディアンがスピーチライターをしているのではないかと思うくらいです」

テレビ番組の司会もされていたみたいだし、トークは元々お上手なんでしょうしね。

「視聴率よかったですしね。毒舌だけど、本音がいい。それが、当たり障りがないものだとつまらないし、説得力ない。茶番すぎると、笑えない。リアルだから、痛快なんです」

なるほど。トランプ演説は、痛快コメディはわけですね。

「そうです。その最たるものが、コメディクラブ。そこに20年いて、おかげさまで、日本人ながら、知名度も上がりました。だからこそ、言えるんです。コメディのネタになるものがアメリカの本音なんです。『アメリカ様だよ』というのがベースにあって、それがオチになるんです。アメリカファーストの集いなんです、コメディクラブは。どんだけ、黒人ダメ、アジア人ダメ、メキシコ人ダメ、アラブ人ダメ、を語ろうよという場所なんですから」

その秘密にしていたものを、トランプが公にしてしまった。

「そう、仲間うちで言っていた隠語を公で言っちゃったようなもの。世界の人が知らなかっただけ。アメリカの一部の人が知らなかっただけで。それが、主流なんです。本当は。

だから、僕は全然驚かないんです。コメディクラブでの普段の会話を聞いているようです。

僕にとっては、あまりに日常すぎて、こんなにも世界がセンセーショナルになっていることに、逆に驚くし、だったら日本でもネタとして、発信していったほうがいいかなと思えるくらいです。実際にこれから講演とかでも紹介していきますよ」

ぜひ、お願いします。じゃあ、綾部さんは、アメリカに行く前に、アメリカの本音が先に知られてよかったってことですか?

「そうです。先に、リアルアメリカの洗礼を受けている。普通は、行ってから何年かたって気づくことなんですが、先に気づける。すでに、本音がわかっているから、現実を後で知って驚かなくてもすむから、早めの準備ができる」

確かに。先にショックを受けておいたほうがいいですね。アメリカに行ってからではなく。

「トランプの演説を聞いておくのもいい準備かもしれない。実際、コメディアン仲間でも、トランプがテレビの司会をしている時に、トークの参考にしていたくらいです。トーク力があって、アメリカの本音も知ることができる。

売れるコンテンツを持っているお笑い芸人のような不動産王という認識でしたから」

でも、準備していても、何が起こるかわからない世の中ですからね。

「そう、だからこそ、面白い。今まで売れなかったコメディアンが急に脚光を浴びるかもしれないし。みんなの価値観がガラッと変わるかもしれない。語られなかった本音が表に出てくるかもしれない。だからと言って、本当の痛みはネタにはしない。笑えないですから。

9.11の時は、僕らコメディアンも半年は言えなかった。ネタにできなかった。笑えないジョークがある。トランプは笑えるジョークなんです」

過激発言、という、鉄板ネタを持っている伝統芸人みたいなんですね、トランプ氏は。

「何を考えているのかわからない芸人が一番売れるんです。一番怖い。バカか、賢いのかわからない。本音か、戦略か。ハチャメチャなのが、ウケることがある。

要は、一発屋で終わるか、終わらないか。ということですね」

リオさんのインタビュー連載

第1回目●『ピース綾部さんの選択は100%正しい』

第2回目●『ピース綾部さんはまず実績と貯金を捨てるべき』

第3回目●『英語がダメでも「しゃべり」で勝てた理由』

第4回目●『「ガツガツ」ではなく「コツコツ」でこそ戦える』

第5回目●『米で成功するのは千原ジュニア、さんま、ダウンタウン浜田』

プロインタビュアー、元女性誌編集者

著書『人見知りさんですけど こんなに話せます!』(最新刊)、『1万人インタビューで学んだ「聞き上手」さんの習慣』『みんなひとみしり 聞きかたひとつで願いはかなう』。雑誌編集者として20年以上のキャリア。大学時代から編プロ勤務。卒業後、出版社の女性誌編集部に在籍。一万人を超すインタビュー実績あり。人物、仕事、教育、恋愛、旅、芸能、健康、美容、生活、芸術、スピリチュアルの分野を取材。『暮しの手帖』などで連載。各種セミナー開催。小中高校でも授業を担当。可能性を見出すインタビュー他、個人セッションも行なう。

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