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ベッキーとゲスの極み乙女。ボーカルの熱愛報道から見る未婚化現象

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)

この1ヶ月ほど興味深く眺めていたのは、ベッキーとゲスの極み乙女。ボーカル川谷絵音の熱愛報道である。別にとりたてて二人に以前から関心があったわけでもなく、報道されていることが事実かどうかもわからない。しかしこの騒動、とくにネットの反応を見るにつけ、社会学者として「これでは未婚化が進むわけだなぁ」という感想を持たざるを得ない。結婚というハードルがあまりに高くなりすぎたからである。

もしも男性の川谷さんが既婚者でなければ、とくに興味を引かなかった騒動だろう。結婚前に付き合っている相手がいるにもかかわらず、ほかの相手が現れ、言い方は悪いが「乗り換える」ことはよくあることである。一昔前なら、「結婚前の私と付き合っていながら、責任を取って結婚しないなんて無責任」と女性が男性を責めることはできたかもしれないが、もはや処女性は結婚へのパスポートではなくなった。この10年間の変化として、結婚前の付き合いは、基本的には自由となった。ましてや川谷さんは瞬く間に人気者になったバンドのボーカルである。結婚さえしていなければ、相手に困ることはなかっただろう。

かつては、未婚のまま多数の相手と恋愛を楽しむことは難しかった。そのかわりと言ってはなんだが、「責任」をとって結婚した後では、ある程度の浮気は「男の甲斐性」として大目に見られてきた。また妻のほうも、「『妻の座』は強いのだから、浮気ぐらいで目くじらを立てず、どんと構えているのが賢夫人だ」とそれを容認することを求められてきた。ところが恋愛の自由化に相反するように、結婚後の恋愛に対する風当たりは、ここ10年ほどかなり強まってきている。

生涯未婚率が、女性では1割、男性では2割を超えている現在、結婚は「すべての人」がしなくてはいけないライフイベントではなくなった。限られた人しかしないライフイベントであるからこそ、むしろその「選択」に対する「責任」が強調される傾向がある。つまり「自由に恋愛ができる社会で、わざわざ結婚という契約を選択したのだから、浮気をするのは契約違反である。一生他の人によそ見をしないという覚悟をもっての選択の結果だったはずだ」という責任論がさらに強まってきているように感じられる。

「他に好きな人ができた」と奥さんに正直に打ち明けたという川谷さんは、考えようによっては正直でもある。世の中には、新しい相手ができたことを隠して、配偶者のせいにして別れようとする人だってたくさんいるのだから。しかし結婚間もなかったこともあって、世論はそれを許さなかった。報道によれば、ベッキーが出演した番組には、10分間でなんと1000件を超える苦情が寄せられたという。ベッキーはCM10社をすべて失い休業、川谷さんもラジオ番組や映画の主題歌を降板することになった。

ふたりの間で交わされたというLINEが、どこから流出したかはわからない。しかしイメージが大切だという芸能人であるということを差し引いたとしても、プライベートの出来事によって、ここまで仕事を失っても当然であるという信念がわけもたれているとしたら、結婚という契約に二の足を踏む人が出てくるのは当然である。繰り返すようだが、結婚さえしていなければ、恋愛は自由な世の中となったのであるから。熟考しなければ、結婚はできないものになった。もはや「できちゃった」結婚くらいしか、結婚への背中を押すものはなくなってしまってきているとさえいえる。これから未婚化の趨勢が止まるとは、なかなか考えにくい。

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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