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宮崎議員の不倫騒動にみる「がっかり」感 

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
(写真:Motoo Naka/アフロ)

宮崎謙介衆院議員の不倫騒動には「やっちゃったなぁ」、より正確にいえば「やってくれたな」というのが周囲の反応だった。

ゲスの極み乙女。との不倫騒動があったタレントのベッキーさんの謝罪会見は、即座に行われた。同じく不倫が表に出ていながら、いつまでも会見をせずに失敗した矢口真里さんの轍を踏まないように、ということだったのではないかと思う。その結果、次々と会見を否定するような後追い報道がでた。質問も受け付けず、「お友達です」と主張する白々とした会見は、明らかな失策だった。

「ゲス不倫」という有難くない名称までもらってしまった今回の宮崎議員の騒動は、ベッキーさんの失敗をさらに踏まえているだろう。それは記者会見で質問にはすべて答える、すべての非は認める、処分を受ける前に自分から身を引く、などなどである*1。情報を開示して謝罪し、弱っている相手に対して、さらなる非難は投げかけにくい。謝罪会見としてはよくできていたと思う。

今回の騒動は、「奥さんが里帰り出産中に夫が浮気相手を招き入れる」という巷でよくある残念な話である。しかし問題が奥さんとの関係に留まらないのは、宮崎さんが議員であり、しかも国会議員で初の男性による育児休業取得を申し出て、大きな騒ぎになったあとだという点である。

「男性の育児休業」を肯定的に受け止め、彼に賛同していたひとからすれば、まさにほかの方もおっしゃっているように(言い出しっぺは、子育て支援NPOフローレンス代表の駒崎弘樹さんの記事?)「宮崎議員は嫌いになっても、男性育休は嫌いにならないでください」という気持ちだろう。「イクメン」ぶっていても、言行不一致ではないかと憤るひともいるだろう。男性が育児休業を言い出したら、ここまで叩かれるのかというひともいた。育児休業で注目を浴びなかったら、おそらく宮崎議員も週刊誌にも狙われなかっただろうから。

しかし多くの女性たちからすれば(少なくとも私からすれば)、まさに違和感はそこなのである。「育児休業を取得したい」とあっけらかんと言える女性は少ないだろう。周囲に頭を下げ、「申し訳ない」といいながら、職場で小さくなっている女性が多いのである。日本社会では、言動にはじゅうぶん気を付け、あちらこちらに気を配り、「取らせていただく」ものが、育児休業なのである。確かに育児休業は「権利」である。そういう事態は本来的にはおかしい。しかし余裕のある職場は少ないなか、周囲への「迷惑」や影響を考えながら、あちらこちらに頭を下げまくり、批判されないようにいつも以上に業務に邁進しようとするのが現状だろう。

週刊誌報道によれば、宮崎議員は周囲に気軽に浮気情報を漏らしていたという。それが事実であるとすれば、わかっていないと思う。世の女性たちが、どれほど育児休業という「権利」を行使するために、気を遣わざるを得ないかを。「ラーメン、つけ麺、僕イクメン」*2と言わんばかりの軽いノリでとれるようなものではないのである。

もちろん、男性も女性も育児休業を取ることは大切であり、そのことの重要さは否定すべくもない。ただ彼が本当に女性たちの立場に思いを馳せることができていたら、このような騒動には発展しなかったのではないか。残念な結果になってしまった。

*1:木村正人さんもYahoo!ニュースで同様に分析しているが私も同意見である。

*2:別に宮崎議員がそう発言したわけではありません。

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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