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「マスゴミ」と闘うネット民によって、ベッキーはなかなか許されない。矢口真里も。

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
(写真:アフロ)

タレントのベッキーさんが6月10日に復帰会見をおこなった。以前の会見と同様、10分ほどの会見で、質疑応答にもあまり答えなかったようだ。ベッキーさんは、不倫スキャンダル発覚以降、かなりのバッシングに晒されてきた。復帰は上手くいくのだろうか。

ベッキーさんへのバッシングを見ていると、矢口真里さんへのバッシングと共通点があるように思う。彼女たちは、歌手や女優といった「芸」を売り物にする存在ではない。「好感度」といった雲をつかむような曖昧なものを「売り物」にして、多くのCMで稼いできた女性タレントである。スキャンダルは、そういった「売り物」の、そもそもの「うさんくささ」を吹き飛ばしてしまう効果があった。

また、ネットでのバッシングは、彼女らタレント本人に向かっているように見えて、実はもっと大きな芸能界のシステムへの反感と繋がっている。矢口さんのスキャンダルが発覚するまえには、配偶者である男性によるDV(ドメスティック・バイオレンス)疑惑報道が一部ではなされた。これが事務所がタレントのイメージを守るために、奔走している、卑怯だという印象を与えてしまった。

ベッキーも、彼女の所属事務所の稼ぎ頭であることはよく知られている(というか、このスキャンダルによって知られた)。なんとしてもベッキーに復帰してもらいたいだろう事務所の思惑は透けて見える。テレビで芸能人が、「ベッキーはいい子」と発言して庇うことによって、「事務所への配慮だろう」というさらなる憶測を呼ぶ。インターネットの時代になった現在、こういった憶測は「事務所と芸能界と大手マスコミは結託して都合のいいことしか報じない」という確信をネットユーザーにもたらす。事務所がベッキーを復帰させたがっているという情報や擁護の記事が流れるたびに、芸能事務所と、事務所と結託して都合のいいことしか報道しないと思われるマスコミ(つまりは「マスゴミ」)の思う通りにはなるものかという気持ちを呼び起こさせるのである。ネットユーザーが闘っているのは、矢口さんやベッキー個人であるというよりも、こういった芸能界を成立させているシステムそのものであるともいえるのだ。さらにいえば、「好感度」を売りにしてCMで大金を稼ぐことのできるというシステムへの反感もある。

だからこそ、矢口さんが某CMに起用された際に、「CMが決まりました! 泣きました! 私でいいの? 許されたのでしょうか?」と発言したときに、「何を言っているんだ、許されてない!」とネット民は立ち上がったのである。そしてすぐにCMが中止に追いやられたことで、ネットユーザーは「マスゴミ」というシステムと闘う自分たちの力を、確認した。CMで大金を稼ぐタレントにとって炎上はじつに効果的に機能することが、拍車をかける。

ちなみに、「許されたのでしょうか?」とはあまりに的確な「燃料投下」である。しかし「許されたのでしょうか?」というタイトルのついている記事のなかにも、現在見た矢口さんのブログにも、「泣きました」「私でいいのでしょうか?」はあっても、「許されたのでしょうか?」という発言は確認できなかった。もしも本人の発言でないとしたら、炎上にはあまりにドンピシャのタイトルだったと思われる(発言していたとしたら、あまりに不用意な発言である)。

彼女たちを炎上させ続けること、彼女たちのスキャンダルを許さないことは、ネットユーザーが「マスゴミ」と闘う自分たちの力を確認する行為である。だからこそ、彼女たちはなかなか許されない。終わらせるためには、さらなる「巨悪」に対してのネットユーザーの戦闘能力が発揮され、彼女たちのスキャンダルが飽きられるのを待つしかないだろう。

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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