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高畑裕太容疑者の事件、セカンド・レイプをおこなわないためにー被害者女性の年齢は関係ない

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
写真はイメージです(写真:アフロ)

俳優の高畑裕太さんに、強姦致傷の容疑がかかっている。滞在していたホテルの女性従業員に対して、客室に歯ブラシを持ってくるように要求して、強姦したというものである。

ニュースでは、被害者女性が40代であると報道されている。そもそも滞在していたホテルが判明している状態で、被害者の年齢を報道する必要があるのだろうか。被害者の特定は、容易ではないか。

今回の事件は強姦致傷である。「致傷」のつかない通常の強姦事件であれば、現在の日本の法体系の下では「親告罪」となる。つまり被害者が告訴しない限り、罪に問えない。その理由は、被害者の意思の尊重、名誉・プライバシーの保護のためだそうだ*1。しかし今回の事で、被害者の名誉やプライバシーが守られているとはとても思えない

ネットでは、女性の実年齢だけではなく、写真までもが出回っている。しかもその写真は、実際には別人のものだそうだ。巻き込まれた第二の被害者も気の毒である。

ところがネットだけではない。なんとテレビ局が、ホテルの宿泊客にインタビューし、被害者の容貌を答えさせている。被害者が美人であるかどうかが、どう関係してくるのか。美人であったら被害者になっても仕方がないとでもいうのか。美人でなければ被害者にならなかったというのか。さらにいえばこれで被害者の特定が、いちだんと簡単となる。

もしもこの事件の被害者が、10代や20代の女性であったら、同じような報道をするだろうか(するとしたら、さらに残念である)。女性の年齢があがれば、女性の恐怖心、心身の痛みが減るというのか。いくつになっても、強姦されれば屈辱的であるし、恐ろしいものである。男性だって、20代で性的暴行を加えられたとしても、40代で加えられたとしても、恐ろしいと感じるだろう。「40歳になったから、もういいや」とはとても思えないはずである。それと同じである。

報道は被害女性に対して、幾重にもハラスメントを行っている。女性の特定を容易にし、年齢によって被害を軽く見積もり、容貌を検討し、セカンド・レイプ、サード・レイプをおこなっている。

女性はいくつになっても性暴力の被害者になり得る。80代の「おばあちゃん」になったとしてもである。また男性だって、同じように被害者になり得るだろう。節度ある報道を望みたい。

*1 ところが現行の法体系では、集団強姦で加害者が複数になると、不思議なことに親告罪ではなくなる。また男性は強姦罪の被害者にはなり得ない。性犯罪をめぐるさまざまな問題は、法改正が予定されている。詳しくは、法務省HPの「性犯罪の罰則に関する検討会」 取りまとめ報告書案を参照のこと。

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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