Yahoo!ニュース

人口3万の自治体が公開した「うな子」動画は、世界にどう受け止められたのか 【追記あり】

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
フォーリンポリシー9月26日付サイトより

人口が3万人ちょっとの小さな自治体である志布志市が公開したふるさと納税PR動画が、外国ででも話題になると誰が想像しただろうか。

少女を擬人化させて男性が飼育する「うな子」動画に対する批判を受けて、志布志市は動画を削除した。私も動画は早晩削除を余儀なくされるだろうと予想していたが(志布志市のふるさと納税PR動画が、美少女飼育ポルノに見えるのは誤解なのか)、やはりそうなった。その報道の過程で、女性職員から動画への疑問の声もあったにもかかわらず、少数意見と公開に踏み切ったことも明らかにされた。

志布志市のこの動画PRビデオは海外メディアのあちらこちらで取り上げられている(例えば、志布志市のうなぎ少女動画で、海外メディア「多発する日本の女性差別の例」と続々報道志布志市ふるさと納税PR「少女U」 「うな子」動画、海外有名メディアが次々報道- NAVER まとめ)。ほとんどに目を通したが、かなり手厳しい。

「誘拐監禁を想起させる」というツイッターはあちらこちらの記事で紹介されている。タイトルは「水着女性を飼育しウナギに変える「性差別」広告の「変態妄想」」といったもので、CMを擁護するものはひとつもない。「日本のウナギCMは性差別ホラー映画」というタイトルをつけた米外交専門誌のフォーリンポリシーの記事では、日本のジェンダーギャップ指数が104位であることが触れられ、カザフスタン、バングラディッシュ、ジンバブエの後塵を拝していることを指摘して記事を終えている。

これらの報道をみているといくつかのことに気が付く。

まず志布志市の市長は、「動画公開後に視聴者の皆様に不愉快な思いをさせてしまいましたことをお詫び申し上げ」たうえで、「今回の動画制作の意図につきましては、志布志の天然水でうなぎを大切に育てていること、栄養や休息を十分に与えてストレスのかからない環境で大切に育てていることをお伝えしたかったものです」という自分たちの意図を強調している(鹿児島県志布志市 ふるさと納税PR動画「UNAKO」配信停止のお知らせとお詫びについて)。この対応を評価している報道はない。

どう考えてもまずい。こういったケースでは、「自分たちの意図」はどうでもいい。この言い訳は、失笑を誘っているだけである。日本の報道は、「卑わい」であるとか、この市長のコメントのように「不愉快な思い」であるといった視点が強調されたものも多い。しかし問題は、公の自治体が「差別」をしていると指摘されたことにある。差別であるといわれた場合は、即座にその事実を受け止め、自分たちの失策を自ら分析し、改善を誓うのがお約束である。国際的なルールでは、それ以外の対応はまず考えられない。たとえ内心どう思っていたとしてもだ(それが自分たちの身を守ることにも繋がる)。この志布志市の対応も、記事での大きな驚きのひとつである。

一地方自治体の制作したPR動画が海外ででも問題になり、日本のイメージを作りあげるということは、インターネット時代ならではだろう。もちろん、こうした報道において日本に向けられる眼差しも、独特の政治はある。しかしだからこそ、それを踏まえて行動すべきなのではないか。

志布志市の市の担当職員は、雑誌の取材に対し、こう答えている。「ネット上には個人で複数アカウントを取得する等して、意図的にページを炎上させるグループが存在するようです。この動画に書き込まれた内容やその頻度を見ると、そうしたグループに炎上させられてしまったのではないかと疑ってしまいます」*1(うなぎを擬人化した水着姿の少女に批判殺到! PR動画“大炎上騒動”は確信犯なのか)。この記事への感想として、「おい、誰がここの担当者にBBCとガーディアンの記事送っとけよ。既に国境を超え、国際問題になっとるわ!」というツイートに思わず爆笑してしまった。

インターネットは全世界へと繋がっている。小さな自治体が公開した動画も、世界中で見ることができるのである。対応にもなおいっそうの配慮を求めたい。

【追記】

私が紹介した週プレNewsの*1に関して、ここに追記しておきます。市の担当者は、「Youtubeにもアップし、閲覧者が自由に書き込みできる設定にしていたのですが、そこを注目して見ていると、早い段階で“イレギュラー”な書き込みが相次いだんです。1分間に10個くらいのペースで連続的に…」(うなぎを擬人化した水着姿の少女に批判殺到! PR動画“大炎上騒動”は確信犯なのか)と話しています。記事ではそれを受け、「確かに、Youtube上で確認すると、『頭がおかしい!狂ってる!』『スク水(´д`;)ハァハァ』といった書き込みが多数残っている」とされています。

ところが、動画のアップ直後から状況を見ていたユーザが、当時のスクリーンショットを提供してくれました。スリープ状態にしていたため、偶然画像が残っていたそうです。

9月24日夜の時点での動画(コメント数9の表示あり)
9月24日夜の時点での動画(コメント数9の表示あり)

これが24日の夜の動画の状態だそうです。コメント数が9という表示があり、動画のタイトルが「少女U」となっています。

9月25日朝の時点での動画(コメント欄が削除されタイトルが変更されている)
9月25日朝の時点での動画(コメント欄が削除されタイトルが変更されている)

そしてこちらは25日の朝の動画の状態だそうです。動画タイトルが「少女U」から「UNAKO」へと変更され、コメントはすべて削除され、コメント欄が閉鎖されています。夜の間に作業されたのでしょうか。動画の公開日はなぜか市のHPでは「21日」とされていますが、YouTubeでは「20日」です。

私がこの動画を最初に見たのは、確か22日であり、そのときのタイトルは確かに「少女U」でした。「美少女を飼育する」という印象を強めたのは、このタイトルの存在も大きかったです。記事を書くために26日の早朝にみたときにはタイトルが変わっているので、「あれ?」と思ったことを思い出しました。

次の画像は、24日夜時点でのコメント欄のスクリーンショットだそうです。

画像
コメント欄のスクリーンショット
コメント欄のスクリーンショット

動画に批判的な内容ではありますが、記事で言及された「頭がおかしい!狂ってる!」「スク水(´д`;)ハァハァ」という多数のコメントは確認できませんでした。

記事は28日に公開され、動画が削除された26日以降に書かれているようです。「早い段階で相次いだ」「1分間に10個くらいのペースで連続的に」という書き込みを、市の管理画面などから見る方法があるのかも知れません。コメントをすべて削除された今となっては、外からは分からないのが残念です。

市の担当者は「動画に書き込まれた内容やその頻度」から「意図的にページを炎上させるグループが存在する」と疑っていたようですが、謎は深まります。ちょっとしたミステリーですね(2016年10月1日午前6時43分)。

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

千田有紀の最近の記事