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裁判所の現状と虚偽DVや片親疎外論ー親子断絶防止法案の問題点(4)

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
(ペイレスイメージズ/アフロ)

ライターの大塚玲子さんが、親子断絶防止法について書いた私の記事への反論記事を書かれている。10年以上前の経験をもとに、面会交流の義務化に賛成されているようだ。しかし民法が一部改正され「原則的実施論」が浸透して以降、裁判所による面会交流の強制をめぐってすでに多くの問題が噴出しており、DV被害者を含む当事者たちの悲鳴のような声がたくさんあることをどの程度ご存じなのだろうか。また親子断絶防止法の問題点について、どれだけ認識されていらっしゃるのだろうか。大塚さんの記事を取りあげるかたちで、今回は考えてみたいと思う。

大塚さんによれば、私の記事に対する疑問はまず以下のようなものである。

DVの事例を標準設定として、連れ去り禁止に反対されている点です。

もちろんDVがあるケースにまで連れ去りを禁じたらおそろしいのですが、このような事例は除外すると言っているのですから、それはそれでいいのではないでしょうか。

離婚全体のうち、原因にDVがある割合ははっきりとわかりませんが、司法統計(調停・和解・判決離婚等)で25%程度であることを考えると、離婚全体(大半が協議離婚)では、もっと少ない割合だと思います。

出典:養育費支払率なぜ、たった2割? 面会交流と養育費の義務化が必要な理由

大塚さんは、親子断絶防止法全国連絡会のHPを見られたのだろうか。私が「親子断絶防止法案の問題点―夫婦の破たんは何を意味するのか」でも書いたように、防止議員連盟では、法案の目的はまず連れ去り防止であり、これを「拉致、ゆうかい」と呼んで非難している。事務局長の馳浩氏は、DVで離婚するのは仕方がないかもしれないが、子どもを(DV加害者の)別居親に会わせないことは虐待であり、子どもは成長の機会を奪われ、傷ついた心が癒されないと述べられている。。児童虐待防止法の法改正により、親のDVを見せられるのも「面前DV」といって虐待に含まれるようになっている。にもかかわらず、虐待の加害者に会わないかぎり、まともに成長しないかのような記述には疑問を禁じ得ない。

また連絡会のHPのサイドバーには「離別親子の諸問題」という項目があり、親子断絶の現状、子どもの連れ去り、虚偽DVの実態、片親疎外の子ども、子どもの虐待、の順でトピックがたてらている。虚偽DVはわざわざ3番目に取り上げられ、内容はDVのでっちあげについてである。また片親疎外の子どもでは、子どもが会いたくないということは、同居する母親がいわせているだけであり、子どもへの心理的虐待であり、病気だと断じている。

父母の一方が、離婚後の子どもの親権を得るために、もう一方の配偶者に無断で子どもを連れ去り別居し、その後は子どもを非監護親(別居親)に会わせず引き離してしまう事例が多発している。非監護親は婚姻中にもかかわらず、共同親権の行使ができないという権利侵害が行われている。

また、母親(妻)が父親(夫)からDVがあったと虚偽の申し立てを行い、子どもをDVシェルターに囲い込む悪質な子どもの連れ去りにより、親子の関係を引き裂くなど父親と子どもへの人権侵害も行われている。

出典:婚姻中の連れ去り別居とその後の親子引き離しと権利侵害

以前の記事に書いたことの繰り返しになるが、放っておいても母親が親権を取る見込みの高い現状で、連れ去りを行う場合は、切羽詰まった事情があるだろう。もちろん、悪意のある連れ去りがあることも否定はできない。しかし、DV被害についての記述は一切なく、虚偽DVについてばかり宣伝することの意味を考えたほうがいい。

親子断絶防止法を阻止したいがために私がDVを持ち出しているのではなく、DVを虚偽だと決めつけ、拉致ゆうかいだ、片親疎外の病理があるから面会交流をと、主張されているのは、まずもって先方である。そもそも私は、友好的な面会交流に反対もしていないし、支援をすべきだとすらいっているのである。そのうえで、DVによる避難を「虚偽」に基づいた「連れ去り」だといわんばかりの今回の親子断絶防止法に対して、危惧を表明しているだけである。

さらにいえば、HPの「離婚後単独親権制度の弊害」という箇所も酷い。女性の低賃金や父親からの養育費の不払いを指摘しながら、

一人親家庭の貧困問題は、子どもの進学や就職に影響を与えるだけでなく、経済格差の世代間継承につながっている。不登校の子どもがいる母子世帯は、ふたり親世帯の3倍を超えており、母子世帯の子どもが短大・大学まで進学する機会は、ふたり親世帯の6割にとどまる。このような貧困や、非監護親との関係断絶等を背景に、少年院に入所する少年の約半数はひとり親世帯の子どもで、母子世帯の少年は、4割を超えている。

出典:離婚後単独親権制度の弊害

という。この場合の貧困の原因は、女性の低賃金などに起因した社会問題であり、母子家庭の責任でも離婚後単独親権制度の弊害でもない。またこのような貧困や差別の問題が厳然としてあるにもかかわらず、なぜ少年院入所に関して、「非監護親との関係断絶等を背景」がいきなりでてくるのかがわからない。少年院入所の割合は、母子家庭の少年が4割、父子家庭の少年が1割であり、わざわざグラフに太文字で「母子家庭の少年は、4割を超えています」との文章を張り付けている。しかし同じ平成24年の母子父子家庭を世帯数で較べれば、国民生活基本調査で、母子家庭は約82万世帯、父子家庭は約9万世帯である。母子家庭は父子家庭の9倍近くある。父子家庭に較べて、母子家庭の少年院入所割合はずば抜けて「低い」といわざるを得ない。子どものいる世帯のうち、世帯数では1パーセントに満たない父子家庭が、少年院入所率の1割を超えているのだから。むしろ本来なら「父子家庭の少年院入所率はずば抜けて高いです」と書くべきなのではないか。

しかしここまで書いていて、むかつきを抑えきれない。子どもの福祉をうたいながら、ひとり親、とくに母子家庭に対する差別をおこなっている会の主張にも賛同できないし、それに反論するために父子家庭差別に加担するかのような記述を余儀なくされるのも、本当に腹立たしい。なぜ母子家庭を目の敵にし、父親が必要であるかのような言説ばかりを強調するのか。

話を元に戻そう。大塚さんは、「このような(DV)事例は除外すると言っているのですから、それはそれでいい」とおっしゃる。とても良い方なのだろう。私は「子の最善の利益に反することとならないように特別の配慮がなされなければならない」というような具体性のない文言は、「ざる」だと思っている。なぜならこのような法律ができる前から、今すでにもう民法766条の一部改正を受けて、裁判所はDVの事実を無視した面会交流を、どんどんと命じているからである。

またDVを認定するハードルは高く、認定されてもほぼ考慮されないことも多い。「DVによる接近禁止命令の期間が終わったら、すぐに子どもに面会交流させろといわれた」というような声もよく聞く。実際、「配偶者への暴力は切り離すべき。関係ない。子どもに対しての暴力ではないから」といわれたというひとは、多くいるのである。また子どもへの虐待に対しても、同様に徹底した証拠主義であり、よほどの物証を積み重ねていかなければ面会交流を拒否することはできない。家庭内という密室の暴力の渦中にいる被害者に、このような立証を求めても、不可能な場合があることは、いくら何でも想像がつくだろう。

このような状態で、「除外する」といわれても、絵に描いた餅である。法律のない現状でこれだけのことが起こっているのであるから、面会交流を義務化する法律ができたらどうなるのか、少し考えてみたらわかるだろう。またDV別居でありながら、原因がDVと認められなかった場合は、「拉致、ゆうかい」をしたことになるのか。この法律ができるだけで、どれだけDV被害者が追い詰められるのか、少し想像力を働かせてもらいたい(なお現状で子どもに会えない別居親は、裁判所に申し立てるという道がある。特段の事情がない限りほぼ許可される可能性が高い。もう状況は以前とは全然、変わってしまっているのである。法律を作って面会交流をすべてのケースに押し付けるよりも、こちらのほうがよほど有効性がある)*1。

次は、いまDV被害者の証言である。長いので部分的に削除しつつまとめた。残念ながら、これに類することは、本当にたくさん起こっている。

私は元夫の身体的な暴力により死の恐怖を感じ、乳児だった子どもを私の手から奪い取りながら罵声と暴力を浴びせ続けられました。今でも子どもは大きな物音や遊びで私が怪獣の真似をすると通常の反応でないくらいの恐怖を感じてしまいます。このままでは子どもが危険だということ、子どもの面前での暴力は児童虐待ということを知り、とにかく子どもを守るためと元夫が怖くて怖くて怖くて怖くて子どもを連れて逃げて別居しました。元夫の家から出てすぐ、元夫が実家にやってきて2時間近く子どもを返せ!と怒鳴り続けて私の家族が警察を呼び、それでも立ち去らないくらい逆上していました。保護命令を申し立てるべきだったと後悔しています。

別居すれば元夫から離れられる!逃げられる!と思っていたのもつかの間、面会交流調停では元夫と子供の面会交流を何故しないのかと責められ続けられました。また、同時に離婚調停も始まっていました。夫からの主張文は私を責め続け私がDVをしたのだと主張してきました。文章を見るだけでも常にフラッシュバックがおこりました。まるでDVが継続しているようでした。

裁判所での離婚調停・面会交流調停が始まった当時は辛くて怖くてしかたありませんでした。元夫が同じ建物にいる!そう思っただけで時間が止まり感情がなくなりそうでした。毎日のように夫からの暴力や暴言のフラッシュバックにいつか元夫が現れるかもしれないという恐怖が自分の周りにあり、…些細な元夫と同じような言い方をする元夫に似た人を見るとまだフラッシュバックが起きています。

元夫の否認にかかわらず元夫が私に対して暴力をしたことが判決で認められて離婚が成立した後も元夫は暴力を認めず自分は悪くない悪いのは私だという思考を変えられません。親権者が私になると判決が出ても私が親権をもつことは許さないと主張しました。ここまで来ても子どもを奪い取ろうとする気持ちに恐怖感が高まりました。

これが家族以外から行われれば暴力は当然犯罪とされ犯罪者に子どもを会わせることになります。なぜ、家庭内では妻に怒りのまま暴力を振るう夫は犯罪者にならないのでしょうか?私たちは子どもを会わせたくないから面会交流をすることを拒否しているのでありません。安心できるものが何もなく信頼もない相手に大切に育てている子どもを会わせたいと思う親はいません。子どもを守りたいです。

(結果として)面会交流をしなければいけません。面会交流によりまた夫と接触し支配下に置かれる恐怖・子どもを連れ去られるのではという恐怖、子どもが元夫に怖い思いをさせられるのではないか、性的な虐待を受けないか、子どもへ悪影響がないかと面会交流の場所に行くまでに子どもを連れ去られるのではないか親族や元夫にストーカーされて居住地が知られてしまうのではないかと恐怖や不安が次々とあふれ出てきます。それでもその不安に自分自身が潰されないように仕事をし、子育てをしなければ生活が成り立たないのでどんどん追い詰められます。

裁判所でどうしても試行面会を行わなければならなかった時もありました。不安で子どもと情緒的に関わる余裕がなくなりました。試行面会は夫は全く子どもと遊べていませんでした。しかし、自分は遊べていたと言い切ってまた、私を責めました。さらに裁判所も元夫と子どもは問題なく遊べていたので面会交流は問題なしと調査官報告書で書かれて愕然としました。

試行面会の後は私もこれが面会交流が始まったら毎回この精神状態になるのかと絶望的になり、それと同時に子ども精神的に不安定しなり追い詰められました。(精神科クリニックの助言により)徐々に落ち着きを取り戻しましたが、2か月ほどかかりました。しかし、裁判所の調査官報告書にはそのことは全く書かれておらず、試行面会後の様子を私に聞くこともなく報告書をだしてきたので、元夫は調査官報告書でも問題ないと言っているから面会交流をするべきだと強く要求してきました。

面会交流をするならDV加害者のプログラム、DV被害者への精神的なカウンセリングや治療、子どもへの精神的な評価とサポートが最低限必要ですが、行ってくれるところはありません。サポートがないまま放り出されて私たち被害者と子ども自身が行わないといけないとされても、とてもできることではありません。専門的な介入をしてもらう必要がある時がくると思いますし、現に必要としているDV被害者や子どもが多くいます。私と同じように苦しみDV被害者の会ではそういう仲間が沢山います。実態の調査を切に願います。

元夫と接点を持つと元夫からの暴言や暴力を思い出し、PTSDが再燃し、精神的な安定や安定した養育環境が奪われます。面会交流の審判では面会交流ありきで、裁判所のDV加害者の無理解な対応にどんなに傷つき何度も何度もあきらめようと思いました。(適切な)環境がなければ、元夫に逆らえないように自分の意思もはく奪され、元夫に逆らうこと自体が恐怖のままなら、裁判所の言う通り元夫の身勝手な条件で子どもも自分もボロボロになっていたかもしれません。そのような人が必ずいると思います。

被害の実態をもっと調査し、それから面会交流の有無を考えてもらいたいと思います。もっとDV加害者がどういう人物なのかその思考を変えないということが離婚しても恐怖が常にあり、基本的な人権を奪われていることを理解して頂きたいです。

私たちは自分たちの生活を守るために別居をしたのに面会交流を義務とされてしまうと私たちは子どもを守るために別居したのに子どもを守ることさらには自分を守ることができなくなってしまいます。私たち被害者は生活が変わり、母子家庭となりDV加害者がいつか来るのではという恐怖と毎日戦っています。もっともっと私たちの声を聴いてください。

もちろん、父親の側が子育てをしている場合もある。

母親は、思い通りにいかないとイライラしキレる性格で、子どもの首がすわるころから、思い通りにならない子どもに対し、面前で怒鳴り続け、叩き、脅しました。彼女自身の「私も自分が恐いの。何かね、もう一瞬で豹変しちゃうんだよね。」「何てことをしてしまったんだ!と思うんだよ。でも、その時は、止められないの。」という告白を受け、子どもが命を落とす事故に繋がりかねないと、子どもを守るために子連れで別居しました。

しかし、離婚裁判を経て、母親は「当時は産後鬱だったが、今は治った」と主張。面会交流を求めており、私が、幼い子どもが受けた恐怖心から来る心の傷を心配し、時期を待ってほしいと頼んでも、理解してくれません。子どもの将来に責任を負う監護親である私が、加害者であった母親との接触で子どもを傷つけるかもしれないと心配し、子どもを傷つけた母親の面会に慎重になるのは「親のエゴ」ではありません。監護親が面会交流に同意しない場合には、面会交流自体が子どもに悪い影響を及ぼす懸念がある場合かもしれません。一概に「面会させるのが子どもの利益」などと決めつけるのはやめてください。それが、子どもを守り、2度は傷付けまいと、懸命に愛し育てている監護親の願いです。

さらに、子どもが親に会いたくないというのは同居親が悪口を吹き込んだ「片親疎外」のせいなのかも考えこまされる。以下は、面会交流に協力的であるかどうかが親権獲得に関係するといわれて子どもの意志を無視して試行面接をした結果、子どもの信頼感を損ねてしまったケースである。子どもがどれだけ拒否の意見を示しても、「片親疎外」のせいだと解釈されてしまう。これに反論する論理を同居親が示せば示すほど、むしろ「片親疎外」と決めつけられるパラドクスがそこにはある。

家裁調査官から「面会させないと、子と一緒に暮らしていても、親権をとる時不利になる」と言われ、母親は、応じなければひどい目に遭うかもしれないという恐怖心から子どもの面会に反対しなかった。しかし、子は「暴力をふるう怖い父」のイメージが強く、父と会うことを拒否していた。

母親は、家裁調停員に子どもの状態を説明し、「子どもが裁判所に一緒に行ってくれるかどうかわからない」と相談したところ、「母が無理に恐怖心を教えこんでいると思われ、養育に不適切な親だと思われますよ、私なら無理にでも引きずって連れていきます。その後子の様子がおかしくなったら監護親の責任です。」と言われ、連れていかざるを得なくなった。

試行面接の当日、子どもは駅の改札を出ると「イヤイヤ」と叫んで動かなくなったので、母親が抱いてタクシーに乗せ家裁に向かった。家裁でも面接室の前を動かず、ずっと「イヤイヤ」と泣き叫んでいたが、結局部屋に入れられた。父、子、別々に調査官との会話を見学した後、調査官から子どもに、父と会ってみるか聞かれ、面接することになった。面接中は常に父が子に話しかけ、DV被害で逃げているにも関わらず、母子の居所を探るような発言があったが、家裁調査官から不適切であるとの指摘や制止は一切なかった。終了後、子どもは、「いやといっても聞いてくれなかった。パパが怖かった。」と話した。

帰り道で子どもは、母親にずっとくっつき、帰宅してからも母親と離れるのを嫌がった。夜になって、「パパに運動会の日にちを言っちゃった」「パパに保育所の名前を言っちゃった」と泣き出した。翌日、子どもが朝から大暴れし、母親は子が発狂したのでは?と思うくらいだった。「パパに保育所の名前を言った。パパに連れて行かれるから保育所には行かない、運動会にも行かない」と言い、その日から母は仕事に行けなくなった。子どもは「イヤ」だと言ったのに、大人は聞いてくれなかったと言って、コードを首に巻いて「死んでやる」とまで言った。

面会後は父親に連れ去られるのが怖いと大暴れし、切れると母に物を投げたり、馬乗りになって母の首を絞めたり、母は夫の行動パターンと同じだと思い出し、子が怖くなって逃げ出したくなることがあるという。母親は子どもに深い心の傷を負わせてしまったことで試行面接をしたことを後悔している。一方で、父と子の面会の場面は、子がウンウンとうなずいていたため調査官によって良好と判断された。現在、次回以降面会の取り決めがなされようとしている*2。

試行面接をしたことを後悔しているというが、裁判所で提案された場合それを拒否することは、ほぼ不可能だろう。

大塚さんは「離婚全体のうち、原因にDVがある割合ははっきりとわかりませんが、司法統計(調停・和解・判決離婚等)で25%程度であることを考えると、離婚全体(大半が協議離婚)では、もっと少ない割合だと思います」というが、内閣府の「男女間における暴力に関する調査」(平成 26 年度調査)によれば、配偶者等からのDVを経験した女性は、23.7パーセントである。これを無視していい数字だとは、私にはとても考えられない。しかしもしもっと数字が少なかったとしても、暴力など他者の身体や精神や尊厳を損なうことに関しては、きちんと配慮する必要はあるとも思っている。

わたしは、面会交流は養育費と共に、何かしらの形で義務化する必要があると思っています。もちろん、適用除外はしっかり考える必要がありますが、除外すべきケースがあるから義務化が不要、とは思いません。

出典:養育費支払率なぜ、たった2割? 面会交流と養育費の義務化が必要な理由

すでに原則的実施論が浸透している現在、「適用除外はしっかり考える必要があります」と大塚さんはいわれる。私も、それがどうやって可能になるかを知りたい。DVに関してのところは、語りつくせなかったがあまりにも長くなったので、とりあえず終わりにする。DV以外の個所についてはまた次回検討したい。

何度も繰り返すが、私は面会交流一般に反対しているのではもちろんない。むしろ促進するためには、国や自治体の支援がいると思っている。しかし今回の法案に反対しているのは、反対するだけの理由がある。

*1「司法が関与する面会交流の実情に関する調査結果の概要」では、接近禁止命令が出ているにもかかわらず、直接の面会交流を命じたケース、DV事案でも、別居から1年たてば「もう落ち着いたでしょう」と面会交流を進めてくるなどのケースが記載されている。性的虐待を主張したが認められなかったケースは、面会中に尻を触られたことによる再審判で、なんと面会交流の回数が増やされてしまったという。詳しくは、可児康則の「面会交流に関する家裁事務の批判的考察―『司法が関与する面会交流の実情に関する調査』を踏まえて」『判例時報』2299号13-27頁(2016年9月)。なお可児によれば、「家庭裁判所がDV被害者の心情に寄り添った調停運営や解決の方向を目指していると感じられた時代」から、原則的実施論に基づく運用が浸透するにつれ、「DVに対する家庭裁判所の姿勢が変化し始めた」という。「実務において暴力の危険性が過小評価されていると感じたことはあっても、過大評価されていると感じたことはない」。''''''

*2これらの事例はすべて、面会交流等における子どもの安心安全を考えるネットワークによって公開された「当事者の意見」である。ほかにも事例があるので、是非ご一読をお勧めする。

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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